「位置と時刻」の情報がもたらす新たな展開

――書評『リアル行動ターゲティング』

2015/12/25
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リアル行動ターゲティング
発行日:2015/12/7
著者:横山 隆治、楳田 良輝
発行:日経BP社

 

著者によるリアル行動ターゲティングの定義は、「消費者のリアルな行動データを活用し、ターゲットを掘り起こすためのマーケター思考」、である。もう少し具体化すると、人間(消費者または生活者)を移動(行動)する存在とみなし、位置情報とタイムスタンプによって、その空間的・時間的な行動パターンを読み取って意味づけ、セグメントに分けてマーケティング活動の対象にする(ターゲティングする)というものである。

消費者のいる位置・時刻、およびその変化による移動のデータを取得することは、スマートフォンの普及によって格段に容易かつ正確になった。データのありようはデジタルであり、リアルタイムで得られる。そうしたデータの蓄積を使うことでマーケターは何ができるか、マーケティングにどのような変化をもたらすか、について記したのが本書である。

消費者の位置情報や移動情報は、生活圏やライフスタイルを浮き彫りにする。平日朝の7時台に兜町に行く人は金融関係者の可能性が高いし、夜の8時前後に2時間ほど新橋の一角に滞留している人はそこでお酒を飲んでいる可能性が高い。例えば後者なら、肝臓の薬のマーケティング対象になるだろう。

位置・移動の行動を捉えてデータを蓄積する手段と、それを解析し、利用する仕組みや媒体の拡がりについては本書に詳しく記されている。これまで、交通量調査などの画一的なデータによっていたエリアマーケティングは、時間帯や移動情報などの多角的なデータによって、多彩な属性によるきめ細かなターゲティングを可能とし、デジタルサイネージなどのコンタクトポイントを利用することで、コンテンツの露出タイミングや内容のコントロールも柔軟にできるようになった。デジタルサイネージの中でも、今後はインストアメディアとしての利用が増えると予想される中、細かなリアル行動データの活用は進むだろう。

データ取得の進化の例としては、ジオフェンシング、と呼ばれるものがある。これは、チェックインの自動化だ。あるお店や駅などの場所に人がいることを知らせる手段として、ユーザー自らアプリ上から現在位置を知らせていた。それが、あるゾーンにその人が入ったら、その位置を(ユーザーのパーミッションを得た上で)ユーザーID、およびタイムスタンプとともに取得するやり方である。それらの域内での行動データ蓄積(フットプリント)のほか、リアル・ジオフェンシングと呼ばれるビーコン利用などによる店舗などの狭域内でのリアルタイムデータ利用がある。

誤解すべきでないのは、きめの細かいターゲティングとは、フラグメント化、言い換えれば小さなセグメントに分けることではない。属性をより適切に把握して、ターゲットへのマーケティング投資効果を高めるためのセグメンテーションを行うことである。セグメントの積み上げによるマーケティングターゲット全体のサイズは、大きい方が良いのはもちろんである。

本書のタイトルである「リアル行動ターゲティング」はジレンマを抱えている。「行動ターゲティング」がオンラインのマーケティング用語として先に定着したために、本来人間活動の一部にすぎないオンラインでの行動が、消費者行動全般を差し置いて「行動」というラベルを持ってしまったことで、ねじれが生じている。消費者活動の範囲をあえて実空間とバーチャル空間ということに分けることで初めて、行動ターゲティングが「リアル」にフォーカスされる意味が出てくる。その場合、ネット上の行動は、オンライン行動ターゲティング、といった対になるコトバが必要となるはずだ。

ほぼ同時期に上梓された『新世代デジタルマーケティング』に書かれているように、著者は、デジタルデータによって、バーチャル空間とリアル空間を一つのものとして捉える、という考え方を持っている。ただし、本書では、リアル空間での消費者行動データにあえて力点をおくことで、バーチャル空間上での「行動ターゲティング」に代表されるマーケティングの視野をより拡げる、ということを試みている。前掲書に記された、オンラインというマーケティング施策の場に閉じこもるのではなく、リアルの場での行動データも活用して、オンラインとオフラインの境界を乗りこえた統合的なマーケティング活動をすべきだ、という主張は本書にも共通している。

著者のリアル行動ターゲティングの定義に「思考」が含まれているように、リアル行動ターゲティングは、データを読み解いて意味づけるのに、マーケターの知識・経験・能力が前提となっている。施策を打つのも同様である。データを冷静に読み解き、分析を行う論理的プロセスを経ることと、そこから「究極の素人目線」により創造的な飛躍を伴う施策を提案し実施すること、すなわち左脳でインプットし、右脳でアウトプットせよという直近の著者らの主張と連なるとともに、マーケターへの期待と、その仕事の魅力が垣間見える。

本書はとりわけ、ウェブサイト、オンラインでのマーケティングに携わる人にすすめたい。また、マーケティングに携わるすべての人にとって、マーケティングの今とこれからを見通すガイドの一つになるだろう。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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