BtoBの未来を担うABM

――【著者インタビュー】庭山一郎 シンフォニーマーケティング 代表取締役

2017/02/10
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庭山一郎 シンフォニーマーケティング 代表取締役

文:大下文輔

マーケティングでお客さまの未来をともに作る仕事をしたかった

『究極のBtoBマーケティング ABM』の著者、庭山一郎氏は法学部出身。大学入学後しばらくは、司法試験を目指して勉強を続けていた。しかし、自分は法律家の仕事は向いていないと思うようになり、そのとき目にしたマーケティングの本を読むうちに、そちらにのめり込んだ。「法曹の仕事は、人が過去に起こしたトラブルの清算をすることであり、それが好きになれなかったのです。それより、お客さまの未来を作るマーケティングを自分の会社を作って実現しようと思うようになりました」。

就職活動も順調だったが、多くの大企業からの内定を断り、個人でノウハウを貯めるべくショッピングセンターや都市の開発を行う、就職内定企業の中で唯一非上場だった会社に就職した。その後、飲食を中心にメニューや店舗の開発を行う企業に転じた。そこを辞して独立を目指し、半年間ヨーロッパを放浪した。「飲食はヨーロッパが源流であり、そこにある飲食サービスのシステムを見ようとあちこちの店で食べ歩きをしましたが、自分には致命的な欠点がありました。お酒が飲めないのです。ヨーロッパ滞在を通じて飲食におけるお酒の重要さがわかり、飲食以外のマーケティングを行うことにしました」。

帰国後、家庭の事情で故郷の群馬県に本拠を置く、ダイレクトマーケティングに特化したコンサルテーションビジネスを立ち上げた。当時27歳。「自分が送ったダイレクトメールに反応があったのは太田市や桐生市など県内の製造業のメーカーでした。エモーションに働きかけ、マスメディアを使うコンシューマー対象のマーケティングは大手広告会社が得意とするところであり、自分自身は企業を対象としたマーケティング、つまり、BtoBマーケティングをやるべきだろうと以前から思っていました。しかし、当時ダイレクトマーケティングに精通したコンサルティング会社が少なく、BtoC企業からの注文も多く入ってきたため、BtoBと並行してBtoCの仕事もしていました。しかし、予想通りある程度関係性ができてくると、種を蒔いた仕事も大手広告会社の手に渡ってしまいます。そこで、1997年にBtoBを専門にする方針を固め、今に到っています。そして企業が求めていたのはアドバイスよりも、実践のための手なのだとわかってきました。そこで、アウトソーシング先として会社を位置づけました」。

にわかに注目を浴び始めたBtoBマーケティング

ABMについての最初の著作となった本の売れ行きは、著者の予想を上回るほど好調だそうだ。庭山氏は過去に4冊の本を出しているが、以前はBtoBを対象とした本だと売れない、と言われていたため、4冊目のマーケティングオートメーションを扱った本を出すまでは、BtoCも考慮した内容にした。

ここに来て、BtoBマーケティングが注目されるようになった背景にはマーケティングオートメーションへの関心の高まりと行き詰まりがある、と庭山氏は言う。「ツールベンダーの勧めにより、マーケティングオートメーションを導入した企業の多くがそれを使いこなせずにいます。最大の理由は、マーケティング部門が創出した案件を、営業部門が積極的にフォローせず、ビジネスとして完結しないことにあります。ツールありきで考えてしまい、運用ノウハウを持たないままでいる、という問題を抱えているのです」。

その解決策として、ADR(Account Development Representative:MQLを営業や代理店に振り分けるポジション)とABMの2つがあり、特にABMはすぐ導入できる効果の高い方法だ、と庭山氏は言う。営業視点でマーケティングを再構築するABMは、これまでマーケティングを忌避していた営業が初めて聞く耳をもつようになったマーケティング手法とのことだ。そして、導入したところはすごく伸びている。それは、営業が会いたかった人(ターゲット)についてのリードを創出してくれるからである。また、ABMは、ロングテール型のビジネスモデルより、パレート型になるBtoB企業に向いているそうだ。

同時に、たとえば日本の機械メーカーは、日々世界で戦う中で、製品も良いし、サービスも負けていないのに、マーケティングオリエンテッドな海外のメーカーに対して負け続けている。それは竹槍で重戦車に立ち向かうようなものだ、ということの自覚を迫るものであり、日本企業もマーケティングを強化する必要を感じるようになってきた。

日本を救うABM

そして、プロセスマネジメントをきちんと行っている、製造業に身を置く営業の人たちはABMへの理解がすこぶる早いのだそうだ。「IT企業や外資系の企業の人たちよりも吸収は早いのです。展示会で名刺を集めるのは原材料の仕入れだ、デマンドセンターは加工だ、営業にリードを渡すのは出荷だ、スコアリングは出荷前の検査みたいなものだ、クオリティの高いものを出荷しなくちゃね、というように感覚的に理解できるのです。」と庭山氏は言う。

トップダウンで動く外国企業より、稟議システムによるボトムアップで意思決定をする日本企業は、アカウント内の現場をターゲットとするABMが適合しやすく、時間はかかるかも知れないが、日本で花開くだろうと庭山氏は予測する。

マーケティングオートメーションにせよ、ABMにせよ、それを実施したいと考える企業は増えているが、その実践を手助けできる会社はきわめて少ないようだ。庭山氏の会社では、2つのサービスを提供しているという。1つは、ABMの実施に必要なデマンドセンターの構築から実際の運用までを行うサービス、そしてもう1つは、マーケティングの内製化を支援するサービスである。

ツールありきを脱却しつつ、データマネジメントに注力すべし

日本でABMを推進したい企業へのアドバイスを伺ったところ、庭山氏は即座に「ABMのキモは1にも2にもデータマネジメントにあります。」と答えた。「ツールありき、から脱却しないといけません。どのようなマーケティングをしたいのか、という要件定義をした上でツールを選ぶことです。そして、ついついコンテンツマネジメントやシナリオ設計に入ろうとしがちですが、その前に土台となるデータマネジメントをしっかり行うことが何よりも求められます。泥臭い仕事ですが、リード創出に必要な名寄せなど、アルファベットとアラビア数字で片がつく外国企業と異なり、かな漢字アルファベットその他多種の文字種を使う日本ではすこぶる高度なデータマネジメントが必要です。」また、外国企業では個人のエクスパティーズはLinkedInで確認しやすいが、ゼネラリスト志向で、異動により部署を変わる可能性の高い日本企業の場合、最終的なターゲットを個人名にするより、部署と職位職階で定義する方が有効だそうだ。
日本は、個人情報保護法による制限も厳しい。そのあたりにもデータマネジメントの重要性が潜んでいる。

 

日時:2017年1月6日
場所:シンフォニーマーケティング

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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