マーケティングの全体最適を進めよう

──【著者インタビュー】デジタルインテリジェンス 横山隆治 大橋聡史 内田康雄

2017/03/17
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左から、デジタルインテリジェンス データドリブン・ストラテジスト内田康雄氏、同社 代表取締役 横山隆治氏、同社 クリエイティブ・サイエンティスト/シニアコンサルタント 大橋聡史氏

左から、デジタルインテリジェンス データドリブン・ストラテジスト内田康雄氏、同社 代表取締役 横山隆治氏、同社 クリエイティブ・サイエンティスト/シニアコンサルタント 大橋聡史氏

文:大下文輔

日本のデジタルマーケティングをその黎明期から牽引してきたデジタルインテリジェンスの横山隆治氏の本が、今年になって早くも2冊出た。そのいずれもが今後のマーケティングにさまざまなインパクトをもたらすものと思われる。そこで、『届くCM、届かないCM 視聴率=GRPに頼るな、注目量=GAPをねらえ』共著者の大橋聡史氏、『デジタル変革マーケティング』共著者の内田康雄氏と共に話を伺った。

デジタルで変わるかもしれない、われわれの認知系

「本当にCMが見られているかどうか」を家庭内の自然な視聴環境において、コマーシャルのオーディエンスの画面注視をセンサーで捉えて計測することで、コマーシャルがどのくらい届くのか、を数値化できるようになった。『届くCM、届かないCM 視聴率=GRPに頼るな、注目量=GAPをねらえ』は、露出量のGRPに対比してGAP(Gross Attention Point)という新しい指標を提示したり、脳波による計測を通じて、テレビコマーシャルの効果を論じたりしている。

クリエイティブの効果については、脳波測定による、男性と女性のコマーシャルの受け止め方の差が本書には詳しく書かれているが、もう1つ気になるのが、デジタルネイティブの視聴行動である。1990年代後半以降に生まれたデジタルネイティブの認知スタイルは、もっと掘り下げて探求する価値があると横山氏は見ている。「SNSやBlogの投稿を見ていると、『長文失礼します』などと断りのある文章を目にすることも少なからずあるけれど、どのくらいの長さかと見ると高々数百字だったりします。Twitterあたりが基準になっているようですが、そのくらい情報単位が小さくなっています」。
大橋氏も「本にも書いたように、30秒コマーシャルも途中で注意が続かなくなる、などの結果も出ています。15秒コマーシャルがスタンダードの日本では、15秒のCMという枠組みで見ているのかも知れません」と話す。
記銘や忘却のありかたも、時代や世代によって変化するかもしれない、ということを考えると「視聴率から視聴質へ」と分析の軸を拡張する意義はますます深まるように思われる。

クリエイティブ制作を後押ししたい

『届くCM、届かないCM 視聴率=GRPに頼るな、注目量=GAPをねらえ』のクリエイティブに科学を、という前著に連なる主張は、クリエイティブスタッフの制作を後押ししたい、という願いと共にある。制作現場の若いスタッフから勉強になる、との反応があったようだ。「CM制作の現場で、あらかじめ設定されたカット割りを無視してクライアントから変更要請や指示が出る場合があります。その際、経験上それはよくない、とわかっていても証明のしようがないために、なかなか説得が困難だったけれど、こういうやり方もあると知って強い興味を持ったというコメントもいただきました」と横山氏。

データドリブンマーケティングの効用は言うまでもなく、事実によって客観的に判断が行えることだ。細かなクリエイティブ調整の手がかりを、「オーディエンスがいかに受け取っているか」で判断できることは、クリエイティブの経験値を共通認識にできる、と著者らは考えている。

コマーシャルの単位を視聴率ではなくインプレッション(本数)換算にすることで、例えば地域間の合算が可能になるという点については、秒数の異なるものを無視してもよいのか、という疑問があったので、横山氏に尋ねてみた。「インプレッション換算は、30秒と15秒という異なる役割および料金のものを同じものとして扱う、ということについてはよくわかっているのですが、それでも実際にデータとしてみると、インプレッションに換算することの有用性が見えてくるのです。GRPよりもむしろ、インプレッションの方が自然な感じです」。

マーケティングダッシュボードに組み込まれる視聴質データ

『届くCM、届かないCM 視聴率=GRPに頼るな、注目量=GAPをねらえ』と『デジタル変革マーケティング』の2冊は、データドリブンの1点で結びついている。GAPという新しい視聴の指標も、リアルタイムに取得でき、その様相を見ながらダイナミックに運用することで、そのパワーが発揮されるはずだ。例えば、広告予算に対する考え方にも影響があると横山氏は言う。「従来はまず広告予算を設定し決まった使い道をそのまま執行すること、に焦点が置かれていたのですが、それはおかしい。状況に応じ、柔軟に良い打ち手を講ずることが重要で、全体の配分(アロケーション)を最適化することが本来のあり方です。結果として予算が余れば、それを次のキャンペーンに留保できるし、褒められるべきことでしょう」。

全体を俯瞰することと、状況の変化を追いかけることと、2つの特性をもつダッシュボードに視聴量と視聴質のデータを組み込むことで、データ取得のダイナミズムがそのままダッシュボードに反映させられる。

業務と経営の生産性向上に寄与するダッシュボード

マーケティングダッシュボードはそれだけマーケティングの現場を活性化させる要素を持っている。内田氏によれば、『デジタル変革マーケティング』も、当初はダッシュボードに焦点をあてて本を書こう、という構想でスタートした。しかし、「マーケティングダッシュボードも、それが実現されれば事業ダッシュボードという位置付けになるし、さらには経営の中核としてのダッシュボードになります。つまり、ダッシュボードがデジタル変革の象徴的存在ということで、デジタル変革そのものを扱う形に仕上げました」。

ダッシュボードも、データのさまざまな深耕や増強によって進化する。横山氏によれば、視聴質データも、注視だけでなくどのようなエモーションを伴って受け止められているか、など表情解析などのテクノロジーを組み込んで拡張していくことや、さらにはAIの活用も視野に入れているとのことだ。

デジタル変革がもたらすことの1つは、仕事のやり方の変化である。横山氏は言う。「会議の場で、そもそもこのデータは信頼できるのか、などという馬鹿げた議論が、オーソライズされたデータを格納するダッシュボードで排除できるし、資料作りに時間を割くのではなく、スクリーンを見て、必要なデータを参照しながら、意思決定をするやり方にシフトしていくことで効率化を進められるでしょう」。

当然の話だが、デジタル変革は、一企業に留まらず業界全体に及ぶはずだ。テレビCMについて言えば、データ測定の全数化、リアルタイム化を進めることで打ち手の迅速・柔軟な対応を求めている。「CMのデジタル送稿ができるようになったと言っても、それだけでは不充分です。プログラマティックバイイングなども、技術的にできるとなれば、例えば大手広告主が単独またはシンジケートを組むなどしてバルク買いを行い、その中で実現する、といったことも考えられます」と横山氏。
3人の話を聞きながら、マーケティングおよび経営のデジタル変革という強く大きな流れが、ダッシュボードというツールと共に本格化し始めた、と印象づけられた。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。