知恵と工夫でビジネスの成功を呼び寄せた物語

──【翻訳者インタビュー】『テトリス・エフェクト』小林啓倫

2018/03/02
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文:大下文輔

小林啓倫(あきひと)さんは、これまで共著や共訳を含めれば、12冊の著書と13冊の翻訳書を世に送り出してきた。
そのいずれもが、ビジネスパーソンをターゲットにしたビジネス書や、インターネットを巡るテクノロジーやSNSなど、実用書が多い。『テトリス・エフェクト』はそうした範疇(はんちゅう)に収まらないが、翻訳の経緯なども含めて、話を伺った。

『テトリス・エフェクト』訳者:小林啓倫さん

『テトリス・エフェクト』訳者:小林啓倫さん

サスペンス映画のような読み応え

この本は、読んでいて映画を見ているようだったと小林さんは言う。
「一言でいえば、この本は2人の男のサクセスストーリーですが、場面展開が1章ごとに変わっていきます。最初の場面は空港に降り立ったひとりの男、という設定で、クライマックスを予感させます。2人の男が絡む形でめまぐるしくストーリーが展開し、最初の場面で予見させていた部分を含めて集約し、その後、アフターストーリーを付加して余韻を持たせて終わる。まさに映画的構成だと思いました。実際、映画化も検討されているという話も聞きます。イメージしやすいので感情移入しやすく、ストーリーを楽に追っていけるのが特徴だと思いました」。

売れ行きも好調で、近々出版社初の電子書籍化が予定されているそうだ。

分厚い本が敬遠される時代

この本を出版する経緯を尋ねると、実は、別に翻訳したい本があって出版社を巡ったそうである。それはある国の核施設を狙ったワームの話で、安全保障にも関わるような主題である。

「もともと翻訳については、格好良くいうと使命感を持っています。英語で書かれているもので面白いのに、まだ紹介されていないものを紹介して広めたい、ということです。

今回翻訳しようとしていたその本も極めて興味深かったのだけれども、どの出版社も難色を示しました。その理由はページ数が多いから、ということなのです。読んでみて面白かったので、翻訳したかったのだけれども、分厚い本は売れないから出せないということでしょう。また、『テトリス・エフェクト』は、値付けが少し高いのではないか、と言われることもあります。2,000円を超えると売るのが難しいのだそうです。それだけお金を払って本を買う、という機運がなくなっていることですね」と小林さん。

 

本書を出版した白楊社の担当者から、代わりに、という感じで紹介されたのがこの『テトリス・エフェクト』だった。読んでみると面白く、ぜひ翻訳したいということで、版権をとったとのこと。

「ここのところ、ゲームの歴史についての本が出て来ています。例えば『セガ vs. 任天堂』などですね」。そうしたことも、翻訳の後押しになった。

翻訳を楽しんだ6カ月

小林さんは、現在ITのコンサルタント企業に所属しており、今はクライアントに常駐して仕事をしている。たくさんの本を出してはいるが、専業の著述家あるいは翻訳家というわけではない。それでも年に1冊以上のペースで出している。どのくらい時間をかけているのか気になって尋ねてみた。

「編集担当者とのやり取りもあったし、忙しい時期もあったりして6カ月くらいはかかっていますが、実質3カ月くらいです。でも、翻訳それ自体は楽しいし、スムーズに事は運びました。第一印象は、テクニカルな用語も出てはきますが、それは得意ですし、その点での苦労はないのだけれど、読んだ時ビジネス書のような平板な感じに陥らないように気を配りました。例えば、文のリズムやテンポ感を考えたり、しゃれた言い回しをうまく使ったりするなど、編集者の力を借りながら、普段訳しているビジネス書と違う部分に注意を払って訳を進めていきました。ビジネス書でもそうですが、翻訳の楽しみは著者の思考を追体験できることで、この本もそうした楽しみがありました」。

また、テトリスは自分でもハマッたゲームだけに、興味はひとしおでした。このゲームに関して、当時のことを知る人によれば、任天堂が悪者といったイメージがファンの間ではあったように聞いていましたが、実際の所はそうでもなかったことが印象的です。もう1つ、ボーナスステージの所など科学的な豆知識が挟んであって、読んでいて面白かったです」。

テトリスの思い出

小林さんは、1973年生まれ。任天堂のファミコンが登場したのが1984年で、小学校の高学年にして家庭用据え置き型ゲーム機の誕生を知ることになる。ただ、小林さん自身はファミコンを買ってもらえず、中学校になってMSXという当時の入門機的な規格のパソコンでプログラミングなどを始めた。

「ゲームはもっぱらアーケードゲーム機で遊びました。小学校高学年くらいから、本当は行ってはいけないゲームセンターに、なけなしのお小遣いを握りしめて行き、1回50円で遊んでいました。ゼビウスやドルアーガの塔やスパルタンXなど、ビデオゲームの黄金期とも言っていい時期だったと思います。テトリスも中学生のころ、そうしたタイプのマシンで遊んだと思います。それがソ連のゲームだというのは、横長のディスプレイ上に縦長のプレイエリアをはめたときの余白部分に、ロシア風の絵やら音楽やらがあったことでわかりました。ただ、パッケージのゲームを買った記憶はありません。家庭用のゲーム機はPlayStation®2を2000年に買ってからですが、アーマードコアなどのロボットゲームにハマりました。今の奥さんと一緒にクラッシュバンディクーで遊んだのも思い出です」。

今でも遊んでいるのかと思いきや、「スマホにはいくつか入れて遊んでいますが、どちらかというとテレビの大画面でやるのが好きです。Amazonのファイアスティックを手に入れて、テトリスなども入れて、子どもと一緒に遊ぶこともあります。ただ、自分たちが時間を忘れてハマってしまった経験から、子どもによくないと思い、ゲーム機は与えていません」。

今の50代以下は、家庭用のゲーム機の浸透を通じて、ビデオゲームが「子どもの遊び」から「大人も含めた日常の遊び」に変わった時代に直面し、親としてもゲームで遊ぶ世代かもしれない。

ビジネスパーソンへのメッセージ

この本はビジネスに携わる人にとってどのような参考になるのだろうか。

「本書に描かれているように、ビジネスの成功は、資本、資金の豊かさではなく、持っている資源をどのように組み合わせたりつなぎ合わせたり知恵を使ってうまくやることで生まれるのだ、ということだと思います」と小林さんは締めくくった。

 

――

話を伺っていてとても気になったのは、お手軽を好む時代の流れが、知識にも及んでいるということを再認識させられたことだ。ページ数の多い本は読むのに骨が折れる分、考える余地も多く、あるいは、よく咀嚼(そしゃく)されているので、知識として定着させやすい。時間とお金という資源をあえて知的興奮のために捧げることは、AIなどテクノロジーの助けを借りるということが、単なる他力本願に堕してしまうことを防ぐ手だてのはずだ。しかも、それは、けっしてつらいことなどではなく、楽しいことであるはずなのだが。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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