成長に向けての振り返り

――書評『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す 「劇薬」の仕事術』

2019/01/11
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マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す 「劇薬」の仕事術
発行日:2018/11/1
著者:足立光
発行:ダイヤモンド社

文:大下文輔

P&GのOBマーケターに見る共通部分と個性

本書の著者、足立光氏の講演は、これまでMarketingBaseで2回取り上げた(シナプスCMOセミナー講演Adobe Symposium講演)。いずれもマクドナルド時代のものである。客足が遠のいていた、かのファストフードチェーンを見事に復活させ、すご腕マーケターとの評判はますます高くなった。
しかし、足立氏は走り続けて息つく間もなく、さらなる成長を求めて次の職場へと旅だった。
USJを成功に導いたその勢いで次のステージに進んだマーケター 森岡毅氏、あるいは、資生堂のCMOとしてブランドマーケティング組織を軌道に乗せた後、やはり次のステージへと向かった音部大輔氏と通じるものがある。

実はこの3人はP&Gで若き日を過ごしている。他に、『マーケティング参謀』の書評で紹介した土居健人氏もP&Gの出身である。いずれもが、勢いを保って次に進んでいる。足立氏を除く3人はいずれも、自らが主体となって経営支援を行う会社を設立している。
彼らのように各分野の企業で華々しい成果を上げている、P&G出身の一群のマーケターは俗に「P&Gマフィア」と呼ばれる。本書『「劇薬」の仕事術』を含め、書評したいずれの本においてもP&Gでの経験がその後の活躍の基礎になっていることが色濃く出ている。

そこにはいくつもの共通点があるように思うが、特に印象深いのは、常に「目的」・「理念」といった活動の上位にあるものを強く意識した上で戦略を立て、実践していること、ブランドに対する深い理解があること、仕事を効率的に進めるための型を持っていることだ。いずれも、仕事を通して、そして組織的に訓練を受けてきたに違いない。本書でも、そのことは存分に語られている。

同時に、それぞれが個性的である。いずれもが仕事を通して考え抜き、いろいろと試行錯誤をした揚げ句に、いろいろな流儀が生まれているように思う。あるいは得意技、武器を身につけている。
本書を読むと、足立氏の個性は、その強靱(きょうじん)な心身のパワーと身軽さにあるように思われる。誰もがまねることのできる能力と、そうでない部分があると気付くと同時に、個性を自覚して磨くことの重要性もわかる。

足立流connecting the dots

本書は、著者のビジネスパーソンとしての振り返りでもある。職歴にとどまらず、社会人に至る自己形成の段階で、親からのアドバイスや中学高校時代の行動、大学のゼミでの教えなどを含み、「ビジネスをする人」のありように繋がるスパンの大きさが特徴だ。
そこから言えることは、「人と同じことをしない」というポリシーや、「自分で考えて、自分で決める」という行動指針などが人生の縦糸として存在し、それがビジネスをする上でも密接に繋がっている。職歴を含め、時系列で振り返ることによって、経験の蓄積、成長の様子が包み隠さず読者に公開されている。

本書を読んでいて、ふと思い出したのがスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式に招かれて行った有名なスピーチだ。その主題の1つが「connecting the dots」、すなわち、今何か起こっていることが将来どうなるのかは予測できないが、後から振り返るとそのことが糧になっていることがある、だから今を信じて生きろ、仕事をしろという意味のことだ。

「振り返り」は著者の仕事術の1つとして重要なものである。実行したことをレビューして、これからやろうとすることに繋げて行く、今の時代に即していえばPDCAを回すという手続きの一環だ。
P&G時代に、レビューとそこから学習したことを情報共有することの有意義さに気づいていた著者は、後に転籍した有名企業でレビューが習慣化されていないことに驚き、レビューを行うことを率先し成果を上げることで、その組織が成功するための手法として定着させるということを行った。
著者にとって振り返りとは、次のステージに飛躍するための重要なプロセスであり、本書は単なる「回想」ではなく、著者自身が次のステージへの飛躍を求めるために実践している「振り返り」でもある。
本書でも触れられているが、著者は苦境に陥っていたマクドナルドをやりがいのある転職先と捉えてチャレンジし、業績をV字回復へと導いたあと、次なる成長を求めて、ポケモンGOで知られるナイアンテック社に転籍した。新たな天地に身を投じる前の時期に本書は書かれている。

時間という資源を最大に利用し、主体的に仕事を選び取る

先に引用したジョブズのスピーチをあらためて観てみると、そこでの主題が本書の内容と呼応していて、それがなぜか偶然とは言えないように思える。1つは、時間という有限な資源の重要性を説いていること。
足立氏も、限られた時間をいかに有効に使うかということに最大限の注意を払っていることが随所に伺える。例えば、通勤の電車内でスマホゲームをしてはいけないと言い、テレビも見ない(理由は、単位時間の情報量が少ないから)。そして、職場からできるだけ近いところに居を構えることを薦める。
究極的には、体験的に4時間睡眠でも仕事に差し支えないとのことである。何事も徹底する、という著者の生きざまが本書には溢(あふ)れていて、常人にはまねのできない域に達しているものも少なからずあると思う。

ジョブズのスピーチの残りの1つは仕事への愛の話だ。ジョブズは仕事を愛することの意義を説く。
そして、足立氏も「仕事が楽しくなければ、人生は楽しくない」と言い、「ワークライフバランス」という考え方に異を唱えている。ワーク(仕事)とライフ(人生)を二項対立の構図に押し込め、「ワーク=悪、ライフ=善」のように捉えるのはそもそもおかしいというのが著者の主張である。

これは仕事に対する主体性の問題だと言える。著者の選ぶ仕事の多くが崖っぷちの状況であり、そこにわざわざ飛び込んで仕事をしているにもかかわらず、著者はストレスを感じることがない、と言い切る。数多くの修羅場を経験して、ストレス耐性が高いことに加えて、自分が仕事をコントロールするという構えを失わないことも大きく影響していると思われる。

仕事術とリーダーシップ

著者は優れたマーケターであると同時に、数々の成功を収めた経営者でもある。本書は著者の「振り返り」によって得られた教訓が各章各節の見出しになっていて、生きたビジネスのケーススタディを通じての、「仕事術」のショウケースとも言える。先に述べたように、「劇薬」と表される著者が実践していることは、必ずしもまねして良い結果に繋がるかどうかわからないものもあるが、おおむねなるほどと思うものばかりである。それは、一般のビジネスマンとして役立つものもあれば、マーケターとして役立つものもある。そして、経営者でもあった著者のリーダーシップに対する教訓も含まれる。

本書を読んでいて学んだことの1つは、マーケターとして優れた仕事をするためには、その人なりの「人間観」を確立すべきであることである。著者は「人はやりたいこととやらなければならないことしかしない」というドライな目を持つ一方で「人は情で動く」ことを理解して、それをビジネスに活用する。場合によっては感情で意思決定をしてしまい、失敗しながらもそれを教訓として披歴することで、「情」と「理知」の両面をどのように活かすか、という問いを読者に投げかけてもいる。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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