クオリーズの声を聴け――JMRX:定性調査に関する国際コンベンション報告【前編】

2016/01/12
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卓越したマーケティングリサーチを実現しようと志すマーケティングリサーチャーのコミュニティ、JMRX。2015年12月21日に開催された勉強会では、年末恒例となるグローバル定性会議の参加報告が行われた。
「テクノロジーというツールを手にした定性の達人たちが、今、真剣に考えていること」と題し、フリーランス マーケティングリサーチャーの吉田朋子氏、インテージの星晶子氏が登壇した報告の模様をレポートする。


 

JMRX(Japan Marketing Research eXcellence)という名のコミュニティがある。リサーチャーが個人の資格で参加するもので、2010年3月に旗揚げし、マーケティングサイエンスやリサーチについての勉強会を重ねている。学会だと分野を絞って深く掘り下げる訳だが、こちらは手法や関心領域の垣根を越えて、幅広い話題について発表とディスカッションが行われている。時々お邪魔しているが、参考になることが多いので、折りに触れて報告していこうと考えている。第57回となる今回は、2つの定性調査に関する国際カンファレンスの報告が行われた。報告者はフリーランスの吉田朋子さんとインテージの星晶子さんのお2人である。盛りだくさんなので、前後編に分けてお届けする。

世界最大の定性リサーチャー組織QRCA

 

2つの国際カンファレンスの1つは、QRCA(Qualitative Research Consultants Association)で、フリーランサーを含む定性リサーチャーの集まりである。2015年の年次総会が、ディズニーランドのあるフロリダ州オーランドで、10月7日から9日まで行われた。参加者にクライアントサイドの人はおらず、リサーチの実務家のみを対象にしているため、クライアント対策的なコンテンツも含まれるそうだ。一例として、リサーチの場にクライアントがいて、彼らに見られる(Gaze)ことがリサーチの実施や報告にどう影響するか、ということを文化人類学者の立場からさまざまな角度で考察したセッションの紹介があった。結論としては、Gazeはリサーチプロジェクトに内在するパーツとして意識し、対応していく必要があるというもの。

テクノロジーのめまぐるしい変化にどのように対応していくか、というのも定性のリサーチャーにとって大きな課題となっている。自らテクノロジーに強い人になろう、という呼び掛けセッションもある。既に実施しているソーシャルリスニングやモバイルインサイト収集などに加え、これからは顔認識、予測アルゴリズム、ニューロサイエンスやバイオモニター、仮想現実ホログラム、ビーコン及びモバイルトラッキング、音声分析と符号化なども採り入れていこう、そして将来はそれらが統合的につながる形で使われるだろう、という結論。なお、吉田さんによれば、QRCAのサイトはとても親切で、そこにアクセスすれば、質的調査とは何かから始まり各種の知識が学べるとのことである。

クライアントサイド、リサーチ関連テクノロジーのプロバイダーも参加するグローバルな組織ESOMAR

ESOMAR(European Society for Opinion and Market Research)はヨーロッパの冠を掲げているものの、グローバルな組織である。定性調査の大会(ESOMAR Global Qualitative 2015)はテロ直後のパリで11月15日から17日の間に行われた。日本からの参加者も、キャンセルがかなりあったらしい。こちらは、QRCAのように、参加者に独立した実務家のような縛りはなく、クライアントサイドや、リサーチ関連テクノロジーのプロバイダーなど幅は広い。今年のテーマは”Creative! Collaborative! Cool!”

 

ESOMAR Global Qualitative 2015はハイライト動画が公開されている

 

吉田さんのESOMAR概要説明に続いて星さんは、Millennials(2000年代に成人を迎える若者)にどのようにリーチするか、という課題に取り組む3つのESOMARのプレゼンテーションを取り上げた。世界的に見て彼らの行動様式はそれまでの世代と違っており、以前のような調査のやり方では彼らの行動や心理を明らかにするのが難しく、確立された方法がある訳ではない。彼らへの理解が、多くのクライアント企業のマーケティング課題にもなっている。

何らかの定性調査に加えて、デスクリサーチや、フィールド、例えば真夜中のクラブや革新的な店やレストランに出てトレンドを探るほか、Tumblrなどで見つけたイノベーティブなアーリーアダプターたちの声を聴くなど、”常に複数の視点と方法を採り入れることが必要だ”、というのが基本認識である。

 

Millennialsの理解はマーケティングの大きな課題

Millennialsの理解はマーケティングの大きな課題

Millennials(ミレニアル世代)の小悪魔的感情にも訴えるアプローチを

3つのプレゼンテーションの中でもとりわけ面白かったものは、嫉妬や攻撃性や支配欲といった誰の心にも巣くっている小さな悪魔的感情(grey emotion)に着目したもの。Millennialsへのアプローチの一方法としてこうしたグレイ・エモーションを喚起するようなブランドのアプローチが有効だとされる場合も多い。明らかにしたいことは、

1)定性調査で人のダークサイドを調べることが可能か探る
2)greyが人々の購買にどのように影響するかを理解する
3)greyを利用したコミュニケーションに対する人々の態度を理解する

の3点である。要するに、正面切って尋ねたところでなかなか話してもらえないことをどうやって探るのか、というチャレンジである。

方法論としては、内省を促すために「懺悔室」のような光を落とし、機器類もおかない部屋を作りそこに対象者に入ってもらい、モデレーターは別の部屋から質問をする、といったやり方をとる一方で、Pinterest上に”ワルかったわね!(Wicked me!) “というフォーラムを設け、消費行動における「ちょっとイケナイ体験」をシェアしてもらう、というよりカジュアルなアプローチを採用することで、エピソードの数を集めると共に、グレイな感情・経験のビジュアル化などにも取り組んだ。集まったストーリーは、

1) 抑制が利かずに楽しみを求める:サイコパシー
2)とにかく人の上に立ちたい:マキャベリズム
3)自分大好き:ナルシシズム

の3つがあり、それが闇の三つ巴(Dark Triad)を構成するという形でまとめられた。グレイ・コミュニケーションへの提示については、realだとかcoolだといったポジティブな反応が得られた。

3つのプレゼンテーションを通じて得た、ミレニアル世代へのアプローチの1つは、

1)こうした世知辛い世の中では、greyも含めて幅広い感情を取り上げなければ共感を得られない

ということである。他には、

2)シェアできるすごい(epicな)ストーリーを
3)トップダウンのコミュニケーション、一方的な力関係はダメ
4)例えばリアリティショウのような、この世代が自分ゴトにできる設定を使う
5)TumblrやPinterestといった既存プラットフォームを使うのも有効
6)ビジュアル化、ビデオなど彼らのスタイルでのアウトプットを使って伝える

という示唆が得られた。

因みに、タイトルに書いたクオリーズ(Qualies)とは定性調査の関係者のこと。定量、定性をそれぞれQuantとQualという呼び方をすることがある。

後編はこちら


なお、星さんが報告された3つのプレゼンテーションのタイトルなどは以下の通り。

“How We Became Curators of Cool
What the Tumblr generation can teach us about doing research”
Els Dragt, MARE Research, Netherlands
Pernille Kok-Jensen, MARE Research, Netherlands

“When Joys of Consumption Have Shades of Grey?”
Sandeep Dutta, TNS Qualitative, India

“Project 72”
“Understanding the Millennial Experience in Las Vegas”
Axel Bedikyan, Cirque Du Soleil, Canada
Daniel Berkal, The Palmerston Group, Canada
Elana Gorbatyuk, SID LEE, Canada

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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