クオリーズの声を聴け――JMRX:定性調査に関する国際コンベンション報告【後編】

2016/01/14
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卓越したマーケティングリサーチを実現しようと志すマーケティングリサーチャーのコミュニティ、JMRX。2015年12月21日に開催された勉強会での、グローバル定性会議の参加報告模様をレポート。後編では、パリで11月に催されたESOMARの定性調査の大会報告の続きからお届けする。
前編はこちら


 

星晶子さんのMillennialsに対する3つのプレゼンテーションのダイジェストに続き、吉田朋子さんが4つのプレゼンテーションを紹介した。うち、3つをここでご案内しよう。

ビッグデータの増加にともない、個々の分析から統合へのニーズが強まる

QRCAにおいてもそうであったように、テクノロジーの進展に対する脅威や戸惑いがクオリーズ(定性調査に関わる人たち)にも広がっている。そこでディジタルによる定性ビジネスの構造破壊とそのインパクトについてのプレゼンテーション。タイトルは「テクノロジーは定性リサーチを食い尽くしつつある?」と刺激的である。大きく結論を言ってしまえば、テクノロジーの進歩がTHINKERS(考えるクオリーズ)の活躍の場を拡げている、というもの。根拠は、ビッグデータが増えるにつれて、クライアントは、事実の積み重ねだけでは見えてこない要素の関係性を解き明かし、Whyを見つけ出し、そこに働く感情を知りたがっている、ということ。活躍の場が拡がるのはビッグデータ周りである。個々の分析(analysis)にとどまるだけでなく、統合(synthesis)がより強く求められている。ある大手クライアントは「どんな人工知能や機械学習をもってしても、人間による定性インサイトの代替にはなり得ていないのが現状」という。

定性調査が20世紀のモデルを乗りこえるための課題として、まず、リクルーティングでテクノロジーの取り込みがうまくいっていないことが挙げられた。つまり世の中には生活者の生きた声による非構造データが豊富にあるのに活用されておらず、ジオロケーション、ビーコン、電子財布などのテクノロジーを取り込んでいく必要があるとのこと。また、ムードボード、コンセプトステートメントなどの時代遅れの刺激提示やパワーポイントによるプレゼンテーションなど改善の余地は大きい。いずれにせよ、ヒューマンな洞察が求められているのは間違いないが、テクノロジーを避けずにこれを身につけて価値を高めていかないと、クオリーズはテクノロジーに食い尽くされ、サバイバルできなくなる、という警告で締めくくられた。

 

ビッグデータの周辺で定性リサーチの活躍の場は広がる

ビッグデータの周辺で定性リサーチの活躍の場は広がる
(吉田さんがこの時発表されたスライドがこちらでシェアされている)

データと向き合うのに定性のセンスが有効な時代

2つ目のプレゼンテーションは、「天才多くして知恵少なし」と題された2人のイギリス人によるもの。彼らは、今の時代を「ポスト定量時代(Post-Quantitative World)」と呼ぶ。その挑発的な設定のもと、クオリーズが肝に銘じておくべきことを伝えるという主題である。ポスト定量時代は、

1)定量が機能しなくなってきた
2)伝統的定性の価値は依然として求められている
3)新しい定性の新手法の隆盛

という3つの特徴があるとする。定量調査が機能しなくなっていることには、自発的協力者の不足、代表性の希薄、母集団定義の困難、ルートバイアス(回答のメディアやデバイスによるバイアス)や回答の質低下などが関連しているとする。夥しいデータが集まるにつれ、統計的な頑健性が低下しているという皮肉に対して、データと向き合うのに定性のセンスが有効になると主張する。

そして、新手法(天才:Genius)、例えばニューロサイエンス、表情認識、モバイルエスノなどは、一見定量と定性の中間にいるように見えて、実は本質的に定性である。定性の要件は、柔軟な問いかけとありのままを観察でき、データは非構造であり、それらを反復的に分析してゆくものである。新手法は、いずれもこの要件を満たしている。クオリーズに対して言いたいことは、定性データも沢山増えてきた中で、クライアントサイドのインサイトマネージャーは、社内をしっかりと説得し、愚直に地道な、そして表面的でない分析を行うべきである、ということ。そのために必要なスキルはトライアンギュレーション(Triangulation)と統合(Synthesis)すなわち方法やデータソースを複合的に組み合わせて、得られた知見をまとめ上げること、である。目新しい手法(天才)に浮き足立つことなく、知恵にフォーカスしよう。

インサイトを発掘し、イノベーション・アイデアを発信し合うダノン

3つ目のプレゼンテーションはダノンのインサイトエコシステムという先進事例。一言で言うと、複数のインサイト発掘の場を用意し、そこで得られた発見事項をミーム(伝染性の情報)として社内全体に行き渡らせるようにし、ビジネスゴールにつなげるよう活性化しよう、という試みである。インサイト発掘の場はこれまでのようなテーマが生じた時に企画・実施されるリサーチから、常設コミュニティやe-リスニングなどを通して、ウェブ・リアル問わず絶え間なく続ける消費者との対話へと進化している。それらをダノンスタジオという情報システムとリンクさせ、消費者から得られた刺激をベースにイノベーション・アイデアを発信し合うもの。ダノンスタジオの活性化のポイントとして挙げられているのが次の8点である。

1)企業がどこに向かおうとするか、明確なマニフェストを示すこと
2)正しい運営チームを組織すること
3)ビジネスニーズを理解し、課題解決に必要なインサイトにフォーカスすること
4)参加意欲があり、興味深い発想に富んだメンバーを募ること
5)忙しい社員にも見てもらえるようにとにかく短く、なるべくビジュアルで発信すること
6)幹と枝、拡散と収束を行きつ戻りつしながら議論をすすめるように導くこと
7)オンラインとオフラインの両方を活用すること
8)リーチ数や投下時間、理解や共感についてのフィードバックを随時提供して、エンゲージメントにつなげること

である。

 

ダノンは得られたインサイトを社内で共有し、ビジネスゴールにつなげるよう活性化

ダノンは得られたインサイトを社内で共有し、ビジネスゴールにつなげるよう活性化

 

報告者の吉田さんが2つの国際会議で感じた流れとしては、定量と定性を含めた複数の手法、データソース、分析視点などによるクライアントの課題解決への指向があること、テクノロジーというツールを使いつつも、人間に対する洞察が重要だという基本は変わらないということ。今回のコンベンションの流行りコトバは、”connecting the dots”なのだそうである。Synthesisが強く意識されていることの現れでもあるだろう。

90分の報告を聞いただけでも、伝統的な枠組にとらわれない定性調査の今の空気に触れることができた。もっと多くのマーケティング関係者に届いて欲しい内容だと思う。

前編はこちら


プレゼンテーションのタイトルとオーサーは以下の通り。

“Is Technology Eating Qualitative Research?-The very real impact of digital disruption on qualitative agencies-”
Ben White, ruby cha cha, Australia
Ellen Baron, ruby cha cha, Australia

“Too Much Genius, Not Enough Wisdom - It’s all becoming qualitative nowadays-”
Andrew Vincent, Waves, UK
Frances Williams, Next Retail Group, UK
Helen Clark, Waves, UK

“The Danone Activation Studio - Turning consumer insights into company-wide memes”
Annemiek Temming, Danone Benelux, The Netherland
Anouk Willems, Insite Consulting, The Netherland
Tom De Ruyck, InSites Consulting, Belgium

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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