統合に向かう――デジタルマーケティングの2016年

2016/01/22
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大前研一氏がボーダーレスの世界を説いたのが1989年。当初は国境を意味していたこのコトバも、さまざまな分野に拡張されて考えられるようになった。それが最も劇的だったのが、1995年にニコラス・ネグロポンテが主唱したアトムとビットの融合だろう。アトム(モノの最小単位 )とビット(情報の最小単位)、すなわちモノと情報というそれまではっきりとした境界があったものが、デジタル技術の進展でボーダーレスになったことで、産業にも人の暮らしにも大きな影響を与えた。1990年代半ばのMITでの研究報告を見ると、その当時の、最新の研究テーマだったものが、今実用の段階になる、あるいはこなれた形で日常に入ってきている。

DMP運用の機会増大

2016年のテクノロジーの動向を、10の戦略的トレンドとしてガートナーが発表した内容をZDNetの解説で読むと、その中心に据えられているのが、デバイスメッシュとよばれる、さまざまなエンドポイントをつなぐ、動的なネットワークである。スマートフォンのようなモバイル機器だけでなく、ウェアラブル、家電、車載機器を含むあらゆる機器がつながり、情報の生成と送受信が行われるようになる。

そのことにより、IoTというモノのインターネットの概念がさらに拡張されて、Information of Everythingへと進む。そこでは、単なるテキスト、音声、動画の情報だけでなく、感覚情報やコンテキスト依存型の情報なども含まれる、というのがガートナーの予想だ。そして、ユーザーはデバイスメッシュの連携により、空間・時間の連続性が維持され、移動にともなう環境の変化に対してもシームレスなユーザー体験ができる、と言う。

これは、前のコラムで述べたように、こうしたことが2016年のホットトピックになるわけではなく、こうした方向への準備を今からしておこう、という呼びかけである。ただ、この方向性は、アトムとビットの結合がより普遍的になり、データの爆発的増加にさらに拍車がかかることを意味する。

こうしたテクノロジーのトレンドがマーケティングに及ぼす影響は、DMPの本格運用が早晩必要になってくるということである。すなわち、データの統合、つなぎ込みを行い、それらをダッシュボードで運用するという流れは、避けて通れなくなるだろう。
日経ビジネスが公開している、2016年のマーケティング&セールストレンドを見ると、幾人かはデータ統合の観点からDMPに言及しており、芽生えは感じられる。クロスチャネル、マルチチャネルからオムニチャネルへという流れもそうした融合・統合の流れの一環だと思われる。

シングルソースデータの進化で描かれる顧客像

ベムこと横山隆治氏の2016年のトレンド業界予測(1~34~7)は、そうした統合的なデータ運用の流れをより強く反映している。予測の3と5と番外は相互に連関している。それぞれ、

予測3) 全数系テレビ視聴データと全数系購買データが紐づく年
予測5)マーケティングダッシュボードから事業ダッシュボード・経営ダッシュボードへの進化の年
番外)ブランド横断型マーケティング担当(DMPによるデータマーケティング担当)が重要な機能として認識される年

となっている。データの統合が進み、デジタルマーケティングが経営の中心に座るとともに、ブランド横断、事業横断的な人材が求められる、ということである。とりわけ筆者(大下)が注目しているのは、予測3の視聴データと購買データの紐付けである。これは横山氏著作の書評にも書いたとおり、個人をメディアのオーディエンスと商品の購買者、サービス利用者という両方の側面から見られるようにしたもので、マーケティング・データベースとして強力な「シングルソースデータ」の進化形である。進化した部分はそれぞれのデータの細やかさと豊富さである。もちろん、これらに他のメディアの視聴状況や、カードに紐付かない購買などを今後取り込んでいくことが求められる。一人一人の消費者を多面的、かつ動的にとらえることで、多様な施策につながる。

シングルソースデータは、近年よく言われるようになった、シングル・カスタマービューの拡張版ととらえて良い。

 

シングル・カスタマービューのイメージ

シングル・カスタマービューのイメージ(出典:エクスペリアンジャパン(株)資料より)

 

シングル・カスタマービューは、現在主にネットマーケティングの文脈で使われており、購買チャネルも接触メディアも限られているが、近いうちに、シングル・カスタマービューは、(ネットとリアルのあらゆるデータを融合した)データベース(すなわちシングルソースデータ)から描かれる顧客像という形に収斂するだろう。先進的なグローバル企業は、データ取得の未来に備えて、デバイスメッシュを研究する、というのが筆者の2016年の予想である。

データ量の爆発的増加が促す変化

データ量の爆発的増加は、質量転換というパラダイムを誘発するかもしれない。これまでは、質的データと量的データ(したがってそれぞれのリサーチ)は明確に区別されていた。
これもずっと先の話であるが、機械学習の進化によって数値データだけでない、各種の非構造化データがうまく処理できるようになれば、これまで主にリサーチのエキスパートに頼っていたインサイトの導出がビッグデータから可能になるかもしれない。そして、これもボーダーレスの一形態に違いない。少なくとも人工知能のマーケティング応用への関心は継続して高まるだろう。もちろん、機械・分析アルゴリズムに頼れない部分はいくらでも残るだろうが。

そう言えば、以前の記事で報告したように、質的調査の2015年流行語は「Connecting the Dots」だった。そしてSynthesisが質的調査の主要なテーマになっていることも見た。

マーケティングにおいて、質的量的な、さまざまなデータの統合(今のところはそれぞれを複合的に見ること)を図りつつ、消費者の行動や意識とその変化を探るべくターゲットイメージを明確化してコミュニケーションを図る、という作業は変わらず、顧客とのエンゲージメント(またはロイヤルティ)を作り上げるためにブランドのマネジメントをやる、という基本は変わらない。ただ、データの取得が容易になったことで、できることがより多くなったことは間違いない。その意味で、武井涼子氏がマーケティングの「原点回帰」を2016年のキーワードの一つに選んだことは納得がいく。

最後に、今年と言うよりは中期的な変化、ということで筆者がとらえている流れについて表にしてみた。「ボーダーレスの今後」とも言えるのではないだろうか。

 

ボーダーレスの今後

 


本稿で取り上げた2016年予測記事は以下の通り。

ガートナーの2016年戦略的テクノロジTop10を考察–「デバイスメッシュ」とは?(ZDNet)
2016年マーケティング&セールスの最新潮流とトレンド(日経ビジネスONLINE)
・2016年広告マーケティング業界7つの予測 1~34~7(業界人間ベム/横山隆治氏)
2016年、マーケティングは「原点回帰」する(NEWSPICKS/武井涼子氏)

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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