オンライン定性調査の特性と行方

──JMRXセミナー第64回、『オンライン定性調査の現在と未来』報告

2016/08/23
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文:大下文輔

リサーチャーの勉強会である、JMRXのセミナーは定性調査に関するものが比較的多いのが特徴だ。今回もオンライン定性調査について、その分野で実務経験の豊富な、定性調査維新の会(という会社 ※1)の、藤吉孝之氏の紹介が行われた。以下はその発表の中から、重要と思われる部分を抜き出しつつ、若干の補足とともにまとめたものである。


オンライン定性調査は、文字通り定性調査をオンライン、つまりインターネット上で行うものである。

オンライン定性調査はやりとりの同時性があるかどうかによる、同期―非同期軸と、モダリティの違いによる、話す/聞く/動画―読む/書く/写真軸の2軸の組み合わせにより、以下のように分類される。

オンライン定性調査にも様々な手法がある

定量調査では、質問者も回答者も気軽に利用できる環境が整い、インターネット調査が他の方法よりもよく利用されるようになった。翻ってオンライン定性調査は、徐々に成長しつつあるとされるが、現段階ではわが国のリサーチ市場の1%(金額ベース)を占めるに過ぎない(JMRA調べ、2015年調査)。海外では最も高いのがドイツの4%で、アメリカでも1%である(ESOMAR)。ただし、定性調査の市場規模それ自体は、アメリカは日本の10倍あるため、絶対的な金額もおよそアメリカの10分の1とみてよい。

オンライン定性調査の3つの長所

オンライン定性調査の長所となる特徴としては3点ある。第1は地域の偏りや制約がないこと(No Geographic Barrier)、第2は生活場面に近い環境で訊けること(Context)、第3は行動の瞬間の意識・態度を調べられること(In-The-Moment)である。

会場に対象者を集めて行われる定性調査の多くは、首都圏や大阪圏を対象にして行われる。それは、調査対象者にとっても、クライアントにとっても会場に足を運ぶことに問題がない地域ということがもたらす、地理的な制約(Geographic Barrier)である。この地理的な制約によっていくつかの問題が生じる。1つには、地理的に異なる態度や趣味がある場合に、それをカバーできないことである。例えば、食品を対象とする場合、味の好みは地方によって異なるため、必要に応じて多地域で実施する必要が出てくる。他にも、地域を限定することで出現確率の低い条件を満たす対象者選定(リクルーティング)では、適切な対象者が見つかりにくいことがある。オンライン調査なら地域を日本全国に拡大できるし、会場の制約も受けない。

会場での定性調査は、生活の場とは異なった状況にあるので、実勢の自分に即して答えるのではなく、あるべき自分のイメージにもとづいた回答をしがちである。自宅は、よりリラックスできる環境でもあり、本音を引き出しやすい環境にあると言える。例えば、乳幼児が側にいても調査できる環境は、例えば会場調査では出にくい子煩悩なパパの実像を引き出しやすい。また、実際に自宅で使用しているブランドなどに関して、食品の場合は冷蔵庫、シャンプーやリンスなら浴室など、その場でスマートフォンを利用して静止画や動画を撮影・送信してもらうことで、よりリアルな形で見出すことができる。これが、オンライン調査が実情(Context)に即したアドバンテージを持つということである。

商品を何らかの形で使ったことについて、会場調査では、時間が経ってから、その体験を思い出してもらいつつ意見を訊くことが中心となる。その人が普段食べているものとの比較をしながら、食べた感想をその直後に訊くことが可能になる。あるいは、インターネットのウェブのページをその場で参照してもらいつつ、話を聴くこともできる。それがオンライン調査が、その瞬間に(In-The-Moment)強いということである。

使われ始めたハイブリッド調査

オンラインの定性調査には上記の長所がある一方で、対象者相互の意見交換による態度変容など、グループダイナミクスを見たい場合などは、対象者が同じテーブルに集まる会場調査でのグループインタビューが優れている。そのため、昨今は両者の特徴を併せ持ったハイブリッド調査(オンラインのOne on Oneと、会場でのグループインタビューまたはOne on One)が使われるようになってきている。ハイブリッド調査の大原則は、オンライン調査とオフライン調査の対象者が同一であることだ。そのことにより、調査対象者が、時間を経たり、他者と係わったりすることによってどのように変わったか、あるいは変わらなかったかを見極めることができる。

以上のような特徴を踏まえ、「ハイブリッドを含むオンライン定性調査を利用すべき時」として、調査会社のdubでは、以下のようなケースを挙げている。

1)地理的にサンプルが拡散している時
2)対象者に考える時間を与えたい時
3)対象者からオープンでクリエイティブな反応がほしい時
4)対象者から「その瞬間」の写真やビデオを集めたい時
5)プロジェクトを迅速かつ柔軟に進めたい時
6)後のFace to Faceインタビューのために想像力豊かな対象者を探し出したい時
7)オンライン上のサービスや製品をリサーチしたい時
8)時間を経ることによって態度や行動がどのように変化するかをトラックしたい時
9)対象者に時間や経験を与え様々な角度の視点から回答を得たい時
10)トピックが人前では答えにくいセンシティブなことである場合
11)個人のストーリーとグループリアクションのバランスを得たい時

最近の定性調査の3つの進化

ハイブリッド調査を含め、最近の定性調査の進化は3点ある。残りの2点は、定性調査のDIY化とOA(Open Answer)への利用である。

DIY化は、定量調査でも拡がりを見せているように、リサーチのユーザーが、ウェブサービスを通じ、調査会社との直接の取引を経ずに定性調査を行うというものである。そのことで、従来の調査よりも短期間で安価に実施することができる、というのがウリになっている。

リサーチをしたい人が、オンラインで登録をし、対象者条件を入れると見積もりが出て来る、それを承認するとパネルに登録している人がスクリーニング質問に回答し、指定日時に掲示板形式のネットグループインタビューやビデオチャットによるインデプス調査を実施する、という手順になる。

DIY化は、その手軽さから、オンライン定性調査の普及に役立つだろうと思われる半面、インタビュアー/モデレーターのスキルによって結果が左右されやすいこともあり、モデレーターにはプロを利用したいというニーズは根強くある。そのようなニーズに応えるべく、Moderator Marketplaceというモデレーターとマーケターのマッチングが整備されつつある。これは、ランサーズやクラウドワークスなどの定性調査特化版として考えるとわかりやすい。

もう1点のOA(Open Answer)への利用は、ネットリサーチのOAをオンライン定性調査化しようという試みである。これは、定性と定量(Q+Q)のハイブリッド化の流れの一環である。Focus Vision定性調査維新の会がそうした流れを推進している。

 

セミナー日時:2016年7月29日
場所:日本リサーチセンター会議室
スピーカー(※1):株式会社 定性調査維新の会 代表取締役社長 藤吉孝之氏

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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