自分ごとの集積たる産業革命

――一橋ビジネスレビュー・スタディセッション報告:「新しい産業革命─デジタルが破壊する経営論理」【前編】

2016/11/07
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文:大下文輔

研究者と実務家の協業で捉えたデジタル産業革命

一橋ビジネスレビューの2016年秋号の特集は「新しい産業革命」と題され、デジタル化によるテクノロジーが人々の暮らし、新しい価値創造のあり方、企業経営などをどう変えているのか、その現象の前線を捉えつつその背後にある経営論理を探り、実務への示唆を得ようとするもので、実務家と研究者の共著論文によって構成されている。その読者向け勉強会である「一橋ビジネスレビュー・スタディセッション」の第9回では、この特集が総括された。マーケターが日々の仕事に影響をもたらすはずの、大きな流れを捉える一助にしたい、ということから、同セッションをレポートする。3つの講演とディスカッションで構成されたセッションを2回にわたってお届けしたい。

同セッションは、全体の進行役である、一橋大学大学院の野間幹晴准教授のあいさつで幕を開けた

同セッションは、全体の進行役である、一橋大学大学院の野間幹晴准教授のあいさつで幕を開けた

最初の講演は、「新しい産業革命─デジタルが破壊する経営論理」と題して、一橋大学大学院の藤川佳則准教授により行われた。

「稀少資源」のマネージメントから「潤沢資源」のマネージメントへ

藤川氏は、時代を捉えるキーワードは、「『稀少資源』のマネージメントから『潤沢資源』のマネージメントへ」だと言う。今までの経済学や経営学は、資源が稀少なものであることを前提として、それを市場レベルあるいは組織レベルでいかに最適化するかを課題としていたのだが、今現象として起こっていることは、消費者の行動が価値の源泉になる。すなわち価値創造の担い手は企業だけでなく顧客でもある。その場合、顧客の持っている資源、つまり知識や能力は地球規模で無限に存在する。今や組織の中に資源を保有する企業などのビジネス主体が価値創造の主体になっているのではなくて、世界中にあり余る状態で存在する資源をどのように組み合わせて、どのように価値創造をはかっていくかというところにどんな論理があるのか、それを組み立てていくことが問われていると主張する。

藤川佳則准教授

藤川佳則准教授

テクノロジーが牽引していく産業革命の背後に、地球規模で長期的に起きている3つの変化がある。それは、「シフト(Shift)」「メルト(Melt)」「ティルト(Tilt)」である。

新しい産業革命|デジタルが破壊する経営論理

(※画像クリックで拡大)

●「シフト」――世界経済全体がサービス化に向かう
ペティ=クラークの法則として知られているように、ある国での経済の成熟度が高まっていくと、その国の中でのサービスの割合が増えていくという現象があり、日本ではそれは既に7割、アメリカでは8割を超えていると言われている。中国でも一昨年第3次産業が第2次産業を超えた。

●「メルト」――既存の産業の垣根がなくなる
製造業のサービス化、その他あらゆる産業のサービス化という現象が指摘されている。ある企業が何業に属するかという業界の垣根がなくなった。かつては消費者の手に商品が渡る時点がバリューチェーンの終端であり、そこで価値が最大化されると捉えられていたものが、今ではIoTにより、商品を通じて、企業と消費者が常時接続する関係ができてきている。その場合、商品やサービスの価値創造は企業側にのみ委ねられたものではなく、消費者のとる行動が集積されて分析可能になり、それが消費者に還元されて、コスト削減や生産性の向上、あるいはよりよい体験へと導かれる。逆に、テクノロジー企業が、モノを提供し、それを介して新たなサービスを提供しようという流れもある。例えば、Googleグラスはメガネとして出されているわけでなく、ネットを介して新たなサービスを展開することが目的である。

●「ティルト」――ビジネスのフィールドは、北緯31度線より南に集まる
一昨年ラム・チャランという研究者と言うより経営思想家と言うべき人が、『これからの経営は「南」から学べ』(原題は「Global Tilt」)という本を出した。彼はその中で、「これからはお金の動きもビジネスの動きも人の動きも北緯31度以北から南へどんどんとシフトする」と述べている。例えば人で言うと、2022年には世界の中間層の数が、人類史上初めて貧困層を上回るという事実がある。この本では、そうした事実があるにもかかわらず、いまだに「これからの未来を語ろう」と呼びかけるほとんどの企業が、今でも本社を北緯31度(日本で言えば鹿児島県の佐多岬)以北に置き、そうした地域に集まって議論する、と皮肉っている。

 

藤川氏の話を受け、自動車産業のサービス化を中心に、新産業革命の実相について、シリコンバレーでベンチャーキャピタルを営む宮田拓弥氏が、「テクノロジーが変える人類の未来─シリコンバレーで起こっているオープンイノベーション」と題して講演を行った。

宮田拓弥氏

宮田拓弥氏

「オールテック」の時代

クルマの世界の出来事として、フォードがテクノロジーを採り入れてバスを運用するサービスの会社を買うという現象が2016年9月に起こった。これは、フォード社が自社を「自動車メーカー」から「移動サービス企業」へと再定義したことによる。テクノロジーにより、あらゆる産業が再定義される時代を宮田氏は「オールテックの時代」と呼んでいるという。同じ業界でサービス化の流れを代表している企業がUberである。

Uberは7年前にできた会社で、非常に伸びており、クルマを製造しないながら、トヨタに次いで自動車産業で2位の企業規模である(時価総額)。カリフォルニアでは日常の足として利用されていて、スマホのボタンを押せば1~2分で迎えにやってくる。アメリカだけでなく、インド、中国、シンガポールなど、こうしたライドシェアがインフラになりつつある。

Uberの設立当初は自社が雇っているドライバーが運転するクルマであり、便利ではあるがタクシーよりも値段の高いサービスであった。それが2012年にUberXというUberの本質的なサービスを開始した。運転するのはタクシーの免許を持っていない一般人で、その人の空き時間をシェアすることによって、来てほしい時にその一般のドライバーが運転してやってくるものである。そして2015年、Uber Poolというサービスが始まった。目的地が近い人達を相乗り(ライドシェア)で運ぶもので、1人あたりの値段も安くなることから、Uberの主流はUber Poolになっている。さらにUberは、ドライバーなしの自動運転のクルマの導入を今年試験しており、来年本サービスが開始される。

テクノロジーによる産業の「再定義」

(※画像クリックで拡大)

Uberと分かちがたく結びついているのは、スマートフォンによる情報インフラである。スマホのGPS機能により個人がリアルタイムの位置情報データを発することができるようになり、ネット上でのクルマの移動情報とのマッチングができるようになった。そのことで、オンデマンド配車、スムーズ決済、混雑時と空いている時間の料金をダイナミックに変化させる、といったことができるようになった。

オールテックの処方箋として、宮田氏が指摘したポイントは以下の3点である。

●変貌する事業の本質を理解すること
自動車産業では、クルマは所有するラグジュアリー商品からドライバー付でシェアするツールになり、間もなくドライバーなしのサービスになる。クルマという商品から、移動サービスにシフトしていることが見えていなければならない。

●テクノロジーカンパニーへと企業を変えること
例えば、「ニーマン・マーカス」という老舗の百貨店は、おじさん、おばさんが足を運ぶお店だった。ビジネスの行き詰まりを打開すべく、テクノロジーを専門とする部署を設け、他のeコマース企業のようにオンライン販売を強化した。ニーマン・マーカスをオンラインでリブランドし、今やオンライン売上比率が4分の1になった。(日本の大手百貨店は1%程度)

●オープンイノベーションを実践すること
変化の激しい時代にあって自社で賄い切れない部分は、ベンチャー企業などの先端的パートナーと組んで、キャッチアップすることが有効である。例えば、ディズニーは、60代のCEO、ボブ・アイガー自らがコミットして積極的にベンチャーと協業している。昨年公開されたスターウォーズに登場する「BB-8」というロボットは、Spheroという企業を自社内オフィスにおいてスタッフ育成を行いつつ、製作された。

後編に続く

 

イベント日時:2016年10月13日
場所:経済倶楽部ホール

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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