応用科学に近づく消費者行動研究

――第53回消費者行動研究コンファレンス報告:「先端テクノロジーが変える消費者行動分析」

2017/01/06
  • facebookでシェア
  • twitterでシェア
  • G+1
  • はてなブックマークに追加

文:大下文輔

日本消費者行動研究学会が主催する研究コンファレンスが11月12日~13日の両日、専修大学で行われ、「2020年の消費者行動研究を考える-変容を迫られる消費者行動研究」をテーマに公開シンポジウムが実施された。タイトルが示すとおり、問題意識としては、近年起こっているさまざまな変化によって、消費者行動研究もそれに応じた変容を求められているのではないか、そして少し先の消費者行動研究はどうなるのか、ということである。そのコンファレンスの中から、「先端テクノロジーが変える消費者行動分析」と題した発表をダイジェストして紹介する。登壇者はトランスコスモス・アナリティクス取締役副社長兼マクロミル総合研究所所長の萩原雅之氏である。萩原氏は、2011年に『次世代マーケティングリサーチ』を上梓し、2016年11月にはムック『最新マーケティングの教科書 2017』の中で、『マーケティングを変えるデジタルテクノロジー』という一章を著している。

トランスコスモス・アナリティクス取締役副社長兼マクロミル総合研究所所長の萩原雅之氏

トランスコスモス・アナリティクス取締役副社長兼マクロミル総合研究所所長の萩原雅之氏

以下は萩原氏の発表内容をダイジェストしたものである。

人工知能が世論調査に勝利した米大統領選予測

先に行われたアメリカ大統領選挙の予測において、世論調査が機能しなかったことはリサーチ業界に大きな衝撃を与えた。他方、トランプ氏が勝利するであろうことを人工知能のシステムが予測していた、という報道がある。この予測は、FacebookやTwitterなどに投稿された内容のうち、エンゲージメントに焦点を当てた分析を行い、過去3回の選挙結果について正しいシミュレーションを行わせた上で、今回の結果を言い当てるというものであった。人工知能による予想は無視できなくなっている一方で、選挙結果の予想など、「なぜそうなるのか」が明瞭でないという一面もある。

消費者理解は「集めるデータ」から「集まるデータ」へと重点がシフト

消費者理解を目的としたマーケティングのリサーチは、データ収集のあり方が大きく変化した。もともとあった伝統的な方法は、対象者に対して「答えてもらう(Asking)」タイプ、あるいは、データを能動的に「集める」ものだが、近年は消費者の行動ログやセンサーや消費者が発するSNSでのデータなどが自ずと「集まる」ものを「傾聴する(Listening)」と言えるものである。

(※画像クリックで拡大)

(※画像クリックで拡大)

Asking系の「集める」データは、あらかじめ仮説を立ててそれに対応した質問を考え、検証することが分析目的であるため、聞いたことへの答えは必ず得られるし、データは構造化された扱いやすいものである。また、人間(リサーチャー)を通じて収集するため、バイアスに対する戦いがある。一方Listening系の「集まる」データは、既にデータが存在しているため、仮説の検証よりはむしろ課題や仮説の発見が分析の目的になる。ビジネスの観点からはイノベーション、すなわち世の中になかったものを発見するという場合に採用される。消費者ですら何が欲しいかわからない時代には、こちらのアプローチが適合的である。そして、データは構造化されておらず、かつ秒単位、リアルタイムでデータが生成される(フローデータ)であるために、集計や分析が難しい。また、バイアスではなくノイズとの戦いになる。

テクノロジーの発展でさまざまな分析が可能に

「集まるデータ」はテクノロジーとの関連が深い。例えば、かつては飲料の自動販売機から得られるデータは、どの商品がどの地域でどの期間に何本売れたか、といった売上データに限られていた。しかし、JR東日本の自販機「acure」の場合、複数のメーカーが相乗りできるようにしつつ、顔認識可能なカメラ、気温センサー、Suicaによる自動決済、デジタルサイネージによるパネル表示が可能になったことで、データの種類と量が格段に増し、さまざまなことが分析可能になった。例えば顔認識で、購入者の性、年齢別に紐づけて、パネル上で行ったオススメに従ってどんな商品を選んだのか、とか、気温と各商品の売れ行きの関係といったことである。

先端テクノロジーの中でも、影響力の大きいものはビッグデータ、AI、IoTの3者である。この3点を組み合わせた場合のビジネスのフレームはほぼ一致しており、富士通、NECといった国内企業の他、Cognitiveを標榜するIBM、あるいはセールスフォース、Microsoftなどに共通して採用されている。それは、

  1. センサーやログで人やモノから情報を取得する
  2. インターネットを通じてクラウドにデータを蓄積する
  3. クラウドに蓄積・統合されたデータをリアルタイムに分析する(その際、必要に応じて人工知能技術が使われる)
  4. 分析に基づいてモノや人にアクチュエートされる(働きかける)

という4段階を踏む。とりわけ第4段階のアクチュエーションは、制御、誘導、予測などを意味する最近のキーワードになっている。

消費者インサイトにつながる、新しい手法の浸透

新しいさまざまなマーケティングリサーチ手法が、世界でどの程度使われはじめているかを示したのが次の図である。

(※画像クリックで拡大)

(※画像クリックで拡大)

繰り返しになるが、Listening系の分析手法が盛んになってきていることがうかがえる。
最近ではソーシャルネットワークのデータも、テキスト(文字)データだけでなく、画像をそのまま認識させることが増えている。実際、TwitterやInstagramでは、テキストよりも画像のみの投稿も多い。投稿された写真の顔を認識してどんな人か、あるいはどんなブランドがどんな状況で使用されているか、などをデータとして取り込めるようになっている(Ditto)。あるいは表情解析とアイトラッキングを組み合わせ、それをCM評価に利用する例など非構造データ、無意識領域への応用が進んでいる。

ビジネスフレームワークに呼応したテクノロジーの消費者行動研究へのインパクト

テクノロジーによる消費者行動研究へのインパクトは、先に示した、ビジネスフレームワークに対応する形でまとめられる。

  1. データ収集:これまでになかったデータが新たにとれるようになる。これはGPSやWi-Fi、あるいはスマートフォンによるデバイスの多様化などとデータの生まれる場所が飛躍的に伸びたことと関連している。
  2. データ統合:既存データの組み合わせや転用で新しい価値が生まれる。これはDMPやシングルソースデータなどの利用が進んだことが大きい。
  3. 仮説と分析:仮説検証では難しかった発見やアウトプットが可能になる。これはAIがデータに基づき、人間にはできなかった最適解の発見が見られることと関係する。
  4. 予測と活用:データに基づくアクチュエーションや運用と一体化する。例えば非構造化データであるLINEチャットのデータを、消費者サポートに活かしたりできる。

萩原氏は「観測・測定・分析テクノロジーが高度化しあまねく使われるようになって民主化することで、消費者行動研究は自然科学や応用科学に近づいている」と言う。そして、「そのことは最終的に生活クオリティと人間の幸福への貢献につながるだろう」と締めくくった。

 

イベント日時:2016年11月13日
場所:専修大学

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

株式会社スペースシップ 人材募集中!
タグ: