サイエンスとアカウンタビリティ

――デジタルマーケティングの2017年

2017/02/07
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文:大下文輔

マーケティングサイエンティストが必要とされる

ビジネスは、日々、不確実性と格闘している。不確実性の源泉は、今ここに存在しない未来である。その不確実性は時間を超越できない限り、おそらく未来永劫ビジネスにつきまとう課題だ。マーケティングに期待されていることも、こうした「不確実性の低減」の占める位置が大きい。不確実性の低減は、確実なこと(すなわち、主として過去に起こった事象)を見て、これから起こりうることを見通すこと、つまり、予想や予測によって(でなければ、信仰や占いによって)行われる。

近年、テクノロジーの後押しによって、マーケティングに直結するデータ量は飛躍的に増えている。とりわけ、消費者行動データは、リアルタイムに、かつ、リアルな場で取得されることが増え続けている。意識データの他に無意識データの採取技術も進化し、データ統合・分析などのツールも整備されてきた。そして、それがビジネスのフレームワークに対応して進化している。

そのフレームワークを見たときに、1つ気になることがある。「仮説と検証」をビジネスとの関係で考えた時に、ビジネスの打ち手に連なる「仮説」は機械的に導かれるものではないはずだ。

「検証」については、データサイエンティストの領域だ、と言い切ってもいい。決まったデータをどのように解析すれば仮説を検証できるかについては、統計学の知識やツールを駆使する技量があれば事足りる。
しかし、曲者は「仮説」である。どのような施策を「仮説」として据えるのか、は解析ではなくさまざまな探索、あるいは閃きをもとにして行われる、きわめてクリエイティブな作業である。マーケティングはデータありきでなく、データと仮説を行ったり来たりする往復の過程だと思う。

書評した『確率思考の戦略論』の中で、USJのビジネスを回復させるためにとったやり方は、まさに目的を定め、さまざまな打ち手を講じて、その打ち手の確からしさを「仮説と検証」のプロセスを通じて合理化していった。しかし、その打ち手やそれにつながる仮説は、探索的に導いたものであった。検証に必要なデータセットを探す、というプロセスも経験に裏打ちされた職人技に近い。

デジタルテクノロジーによってデータの種類と量が増えたことは間違いないが、マーケティングに必要な「打ち手」を講ずることと、それを使った「確からしさ」を確認する作業へとつなぐのは、基本的に「データの解析」を超えた「マーケティングサイエンティスト」の領域である。いや、マーケターの領域かも知れない。マーケターにサイエンティストとしての素養が備わっているか、サイエンス(主として統計)を理解し、サイエンティストと組んで戦略を立ててそれを実行できる「マーケティングサイエンス・チーム」が求められるはずだ。

コンシューマーサイドプラットフォームの漸進

コンシューマーサイドプラットフォーム(CSP)は、広告主や媒体のメリットを最大化するプラットフォームではなく、情報の受け手である生活者のメリットを最大化するプラットフォームとして、江端浩人氏により提起され、2014年以来その進展に期待を寄せているものであるが、2017年は2つのテクノロジー/システムの普及を契機としてCSPの整備が進んでいくのではないか、と考えている。

1つ目は、Apple Payやその他の電子マネーによる支払いシステムの普及である。これらの支払いシステムは、Money Forwardなどによる家計と資産の管理と結びつき、銀行や証券口座などを含む1つのエコシステムを形成して行くこととなろう。これらは、データを自分でハンドリングする行為を推進させることになる。それを推進する力は、気軽な支払いという(「おトク」を離れた)利便性である。

もう1つは、個人認証の要となるマイナンバーカードである。マイナンバーカードも、コンビニエンスストアで印鑑証明や住民票の発行が可能となるなど、少しではあるが利便性がある。マイナンバーカードでやれることが今後増えることで、CSPの守備範囲がぐんと広まるのではないか、と期待している。

ABMを起点にしたBtoBマーケティングの導入と整備が進む

昨年あたりから、日本でもにわかに注目が高まったアカウント・ベースド・マーケティング(ABM)は、わが国のBtoBにおけるマーケティングの未整備(もしくは不在)を浮き彫りにした。その様相は、マーケティング部署そのものが存在しなかったり、CMOがいても機能していなかったり、マーケティングオートメーションツールを導入したのはいいけれども、使い切れずに形骸化してしまったりということである。

そのような中で、ABMが注目されるようになった最大の理由は、その採用によって効果が上がるという評判によるものである。また、現場がビジネスを動かす、稟議システムを背景としたボトムアップスタイルがABMに適合しているという期待もある。ABMが機能するドライバーは、最終的に力を持っている営業部門がマーケティング部門の仕事、すなわち前工程としての創出案件を受け容れやすくなっていることも大きい。

このように、BtoBにマーケティングが「活用」できる環境が整ったことから、BtoBマーケティングが一挙に進むことが期待される。ABMは、大企業に適合していると言われるが、大企業によってマーケティングが進むことは、その後の中小企業のBtoBへのマーケティング導入への刺激になることも考えられる。

ビジネスのアカウンタビリティとエシックスについての関心の高まり

キュレーションメディアを巡る、剽窃と、クラウドソーシングを駆使しての常識外れの低賃金を前提としたコンテンツの粗製濫造は、大きな社会的問題となった。個人の自由に根ざした「働き方」の問題以前の「働かせ方」により、デジタルマーケティングビジネスのあり方、ビジネスエシックスに対する世間の関心は高まるだろう。コンプライアンスはもちろんのこと、その前提となる倫理観を見つめ直すことがデジタルビジネスに求められている。

また、ツールの導入をしたのはいいけれど、使いこなせていない、などの状況があれば、マーケティングROIなど、アカウンタビリティが求められるようになるだろう。これはデジタルがマーケティングの必要道具となり、企業の本丸に入り込みつつあることの証でもある。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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