成果の上がるABMは正しい理解から

――「Marketing4.0、次世代マーケティングプラットフォーム研究会」レポート

2017/02/14
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文:大下文輔

ターゲット企業に面でアプローチして効果を上げるABM

次世代マーケティングプラットフォーム研究会はマーケティングに関わる個人が任意で参加する勉強会で、会員数5,400人と、同様のものとしては最大規模を誇る。会員アンケートにより設定された第10回総会のトピックは、アカウントベースドマーケティング(ABM)である。すなわち、ABMはマーケターの関心が高い話題の1つであると言えるが、折しもこの総会の翌週に『究極のBtoBマーケティングABM(アカウントベースドマーケティング)』が刊行され、基調講演はその著者である庭山一郎氏によるものであった。
「BtoBマーケティングのニュースタンダード ABM」という講演タイトルが示す通り、ABMは今後、マーケティングの主流に位置するものとして捉えられている。庭山氏によれば、米国において、近年のBtoBマーケティングのさまざまなカンファレンスの主題がABM一色と言って良いほどだそうである。

左からマルケト鈴木氏、B&Bハッカー飯室氏、Sansan石野氏、KDDI中東氏、シンフォニーマーケティング庭山氏、ガートナー川辺氏

左からマルケト鈴木氏、B2Bハック飯室氏、Sansan石野氏、KDDI中東氏、シンフォニーマーケティング庭山氏、ガートナー川辺氏

基調講演から、ABMとは何かについて要約を試みると、大規模な取引先の企業、すなわち特定のアカウントを対象とし、そこからの売上を最大化するために、当該アカウント全社にわたる顧客情報を統合し、マーケティング担当と営業担当が連携して戦略的にアプローチするマーケティング手法である。

ABMは考え方として特に新しいものではないが、ターゲット企業に注力した営業活動に、デジタルコミュニケーションなどのマーケティング活動を組み合わせ、ABMによって再構築することでその効果を最大化するため、概念ではなく実践的な手法になっている。その有効性を示す事例が数多く出てきたことで、ABMを採り入れることが大企業のBtoBマーケティングを大きく変えているという現実がある。

ABMの源流を遡れば、個人を対象としたOne to Oneマーケティングが、個人の生涯価値を高めるということを目的としていたことに帰着する。市場シェアでなく、個人内シェアの集積としての売上(個人の中の売上を経時的に最大化しつつ、その個人を増やす)という概念、すなわち個人のLTV(生涯価値)の最大化という概念を企業に拡張したものと言える。

ABMへの関心は高いが、実践はまだこれから

庭山氏の基調講演を受け、ABMに造詣の深い6人によるディスカッションが行われた。うち、モデレーターをマルケトの鈴木仁氏が務めた。

冒頭、実際にABMを実践している企業がどのくらいあるか挙手を求めたところ、ほとんど手が挙がらなかった。おそらく日本でのABMは、名前は聞いたことはあるけれども内容はよく理解されておらず、実践も「これから」というステージなのだろう。

主題は3点。第1に、「ABMの定義はどうあるべきか」ということ。庭山氏の講演中の、ABMは進化が著しく共通の定義がない、という発言を受けてのものである。

これには、ABMを実践している立場のKDDIの中東孝夫氏から、ABMの定義であると共に、マーケターの心意気としても、1)マーケティングの後工程(主に営業)の生産性を上げる 2)対象アカウントを設定する 3)マーケティング資源を傾斜配分する、ということだと提示した。

また、リサーチ会社であるガートナージャパンの川辺謙介氏からは、同社の定義として「購入プロセスのすべての段階を通じ、識別されたアカウントおよび個人へのターゲティングおよびエンゲージメントを目的とした、予測的なリード・スコアリングを利用する従来からのリード管理、パーソナライズされたコンテンツ、およびプログラマティック広告に対するアプローチのことである」という定義が与えられたが、これはリサーチ会社ゆえの幅広く通用することを考慮してのものだとの説明があった。

第2のディスカッションポイントは、ABMの実践で留意すべき点について。

前職がGEで、大手製薬会社8社が取引先企業だったという飯室淳史氏は、20年来同社がキーアカウントマネジメントという名のもとに、ABMと同様のことを行ってきた経験を踏まえ、「ABMは営業担当とマーケティング担当がタッグを組まないと絶対にうまくいかないので、両者によるチームを作り、よく話し合ってゴールを共有しながら、お互いの役割を決める必要がある」と指摘した。その8社の大手製薬会社のうち、きっちりとしたABMスタイルを採り入れているのは1社のみだとのこと。実際にはその顧客の中に自社のオフィスを作るなどの取り組みを営業主導で行い、マーケティングは現時点ではサポートに回っているが、その企業からの売上規模の累計は100億円を上回るそうだ。

中東氏は、「まず少数の企業が大きな社内の売上割合を占めている場合で、なおかつ営業が充分にアプローチし切れていない企業に導入することが有効であるが、話し合ってばかりいるよりは、実際やってみるということも必要だと考える」という。

Sansanの石野真吾氏は、営業担当に、どのようになれば理想であるかと問うと、「この人に会いたい、と言えるリードの供給や、有効な接点情報がわかること」と言われたとのエピソードを語った。石野氏が重要と思うことは、データベースをきちんと整備すること、ツールに踊らされないことである。

庭山氏は、ABMは成果が如実に出る方法だが、まずは正しく理解してほしい、本を書いた動機もそこにある、と語る。米国でもABMは、例えば、「グローバルIPに対してリターゲティング広告を打つのがABMである」、あるいは、「安い人件費で雇用した人にコールドコールをバンバンかけさせるのもABMのやり方である」などといった情報が横溢しているが、それでは成果は出ない、と指摘する。

第3点目はツールおよびツールベンダー利用の留意点についてであった。

ガートナーの川辺氏は、さまざまな角度からツールの分析を行っているが、とにかく数が多く、買収や分岐による変化が激しい、ということを指摘した上で、「ターゲティングして、エンゲージして、コンテンツを載せてということが横につながっておらず、サポートされていない。それらがマーケティングオートメーションの中でつながるという考え方もあるだろうが、どう援用していくのか、はこれからの課題だろう」と述べた。

中東氏は、「我々マーケターが何のためにそれを使うかを明確にしておく必要がある、また、ベンダーはデータクオリティに関してほとんど言及しないが、データの維持管理をどうするのか。箱だけ売って中味について言及しないのはいかがかと思う」と指摘した。

鈴木氏は以上を次のような内容で総括し、パネルディスカッションを締めくくった。
庭山氏の講演により、ABMは効果があり、取り組む価値がありそうだということが見えた。その上で、実践で留意するポイントはいくつかあり、まずはプロセスの観点から上流(マーケター)から下流(営業)へという流れの中で、下流をどのように効率化するか、という視点が必要である。また、ABMはオールマイティな方法ではないため、自社やその商材の適応度合いについて見極めることが求められる。
そして、組織が重要だが、アカウントに対して営業とマーケティングがどうアラインメント(連携)をとっていくのかを考えるべきである。ABMのツールについてはまだまだ未整備の状況ながら、ユーザーとしてはなぜ、そのツールを使うのかを考える必要がある。

 

イベント名:Marketing4.0、次世代マーケティングプラットフォーム研究会
イベント日時:2016年12月2日
場所:六本木クロスマーケティング
基調講演:シンフォニーマーケティング株式会社代表取締役 庭山一郎
パネルディスカッション
モデレーター:マルケト マネージャー ビジネスデベロップメント鈴木仁
パネリスト:B2Bハック ファウンダー 飯室淳史
      Sansan マーケティング部 エバンジェリスト 石野真吾
      KDDI ソリューション事業本部 ソリューション事業企画本部 ソリューションマーケティング部 副部長 中東孝夫
      シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎
      ガートナージャパン リサーチ部門 顧客関係管理(CRM) アプリケーション リサーチディレクター 川辺謙介

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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