Disruption(破壊)から Reinvention(再発見)へ

――「Adobe Summit 2017」レポート

2017/03/28
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 AdobeSummit

寄稿:武井涼子

2017年3月20日から4日間、ラスヴェガスで「Adobe Summit 2017」が開催された。参加者は世界各国から1万2千人。昨年の1万人を優に超え、Adobe Summit史上最大となった。なお、日本からの参加者は200名程とのこと。

250を超えるセッションが開催されているこのサミット。まずは、ジェネラルセッションと呼ばれる全体セッションで、会長、社長兼CEOのシャンタヌ・ナラヤン(Shantanu Narayen)氏と、デジタル・マーケティング担当エグゼクティブ・バイス・プレジデント兼ゼネラル・マネージャのブラッド・レンチャー(Brad Rencher)氏がスピーチを行い、大きなテーマとアドビの今年の方向性を示した。その内容を解釈してみたい。

 

今回のAdobe Summitのテーマは”Make Experience Your Business”。つまり、エクスペリエンスをちゃんとした売り物にしようということ。

AdobeSummit_Make Experience Your Business

CEOのスピーチのポイントは3つあったと思う。

1つ目は、もはや「Disruption(破壊)」の時代は過ぎ、いよいよ「Reinvention(再発見)」の時代が来た、という宣言。確かに、みんなDisruptionにはもう飽き飽きしている。時代の大きなシフトが起きているのも事実。その変化をうまくとらえていると思った。

今までのデジタルマーケティングは、必要なデータをとにかくスピーディーに集められるようになることが最大のテーマだったが、DMPが本格的になってきたことで、カスタマージャーニーを顧客一人一人のデータまで落として一貫して見るのに必要なデータ一つ一つはある程度整った印象がある。となると、次の課題は、いかにこの一つ一つの各種のデータをby nameでつなぎ合わせ、タイムリーに必要な分析を行えるようにするか、そしてそれをいかにエクセキューションに移すかだ。

言うなれば、今までは、一つ一つの精度は高いかもしれないが、データが細切れで、個別の戦術に強かったデジタルマーケティングが、いよいよ、顧客のジャーニー全体、つまりはマーケティング戦略そのものをデータドリブンで描けるものにシフトしてきているということだ。今回、そのことをReinventionという言葉で端的に表してくれたのにはすっきりした。

デジタルマーケティングがバズワードと個別機能を追いかける時代から、本格的マーケティング戦略構築に主戦場を移し、マーケティング戦略構築全体がデジタルなデータドリブンでできるようになってくる。襟を正して、再度、「買ってもらえる仕組み」を作る、というマーケティングの原点を考え抜く必要があるだろう。

2つ目は、とはいえ現状に甘んじていることは戦略でも何でもない、という示唆。原点に戻るといっても、次元は変わり、環境は大きく進化している。今までのやり方と同じやり方でマーケティング戦略を構築していては、二歩も三歩も遅れてしまう。 データドリブンの環境を整え、精度とスピードを加速度的に上げて戦略を構築していかないと、勝ち続けることはもうできない。どんどん先に進まないといけないことに変わりはないのだ。

3つ目は、アドビの社としての宣言でもあった、Experience Cloudの発表。マーケティング関連の商品群すべてをExperience Cloudのもとに統合する考え方で、これからアドビが戦う主戦場はエクスペリエンスである、という覚悟でもある。エクスペリエンスこそが「買ってもらえる仕組み」を唯一保証する、というのがアドビの主張だとも言えよう。

事実、ナラヤン氏に続いてスピーチをしたレンチャー氏も「これからはブランド認知ではなく、ブランドエクスペリエンスが重要になる」と語り、エクスペリエンスを重視している企業が、そうでない企業より20%以上収益が高いことを示した。

「昔は食べ物を買うと言ったら材料を買いに行ったけれど、今はすでに下準備もされていて、レシピも付いたものが家に届いてほしいと思ってしまう。洋服も、自分向けにコーディネイトされたものがはじめから提案されるべきだ……ついでに返品もできるべきだ!と思ってしまう」(レンチャー氏)。

顧客がきっとこういうものがほしいだろうな、ということを企業が想像して提供する時代は終わり、企業が顧客の声を具体的に聞いてエクスペリエンスを形作る時代が来ている、とのこと。企業は顧客と共に考え、顧客の望むエクスペリエンスを提供する際に、ついでに商品も売る。主に売るのはエクスペリエンスであり、具体的な商品はエクスペリエンスの構成要素。そんな時代がもう来ている、というのだ。

 

では、そこまで大事だとされるエクスペリエンスとは何か?アドビの考える良いエクスペリエンスの4つの構成要素が示された。

1.Know me and respect me
顧客が、知られていて、しかも尊重されていると感じる状態を維持すること

2.Speak in one voice
どのデバイスを見ても、一人の顧客として扱われていて、企業からのメッセージにぶれがないと感じられる状態を維持すること

3.Make technology Transparent
顧客が、テクノロジーの難しさを意識することのない状況を維持すること

4.Delight me at every turn
すべてのタッチポイントで顧客を満足させること

それでは、これをどのように創り上げるのか?「そのためにもっとも大事なのはコンテクストである」とレンチャー氏は言う。このコンテクストを作るために必要なのが、瞬時に行われる顧客の選択に対応できるサービスデザイン。そしてそのサービスデザインを効率よく作るのに必要なことこそが新しい技術がないとできないこと、つまりイノヴェーションであるという。

このことに実際に納得できる事例に、その後のセッションの一つで出会った。それはコカコーラGO!の事例だ。コカコーラGO!のウェブサイトは、450以上のサイトを51カ国語で運用中である。以前、その大量のコンテンツ制作に顧客がソーシャルメディアに投稿したコンテンツを活用する仕組みを自力で構築しようとしたそうだが「絶対やめたほうがいい。悪夢だった。運用だけでみんなが疲れ果ててしまった」と、コカコーラのリサ・ロジャース(Lisa Rogers)氏は言う。

しかし、その後アドビが買収したLivefyreを使うことで、ソーシャルメディアコンテンツを、企業が使える形にしたうえで、ある程度のキュレーションまで自動で行えるようになり「コストも大幅に下がり、人も思い切り減らせた」(ロジャース氏)とのこと。技術の力で、顧客が満足するタッチポイントでのエクスペリエンスを効率的に形づくることができるようになったのだ。

 

最後に新しく発表された商品であるExperience Cloudについて、簡単に整理しておきたい。Experience Cloudの下には、キャンペーンの実行と管理ができる機能、つまり、マーケティングサービスのデジタルサポートを行うMarketing Cloud、広告のプランニングとコミュニケーション管理機能を整えたAdvertising Cloud、そして、顧客のデータ管理と分析機能を整えたAnalytics Cloudの三つが収まり、しかも、Creative CloudとDocument Cloudと同じプラットフォーム上でシームレスに動くように構築されているとのこと。

また、アドビは今回、マイクロソフトとの提携も発表。Dynamics365との提携で、CRMまで一気通貫で顧客データを見る体制も整えた。アドビとマイクロソフトの製品ラインナップだけで、マーケティング戦略とブランド戦略の実行にかかわる機能をすべてカヴァーし、とにかく、マーケティング担当者が知りたいデータはすべて、すぐ手に入り、どんなエクセキューションにでも持っていけるバックアップ体制を作ろうとしているようだ。

アドビは何を目指しているのか?アイソバーのナヴニート・ヴィルク(Navneet Virk)氏の言葉を借りれば「アドビは、マーケティング担当者がITと独立して、好きなようにエクスペリエンスを形作れる世界を実現しようとしているのだ」とのこと。エクスペリエンスはもはやマーケティングをも超える概念。マーケティングプランの立案が、コトラーのマーケティングプロセスからカスタマージャーニーの構築と運用に取って代わられたように、アドビの押すエクスペリエンスが、マーケティングに取って代わる言葉になる日も近いのかもしれない。そんなことを考えたジェネラルセッションだった。

 

記事執筆者プロフィール

グロービス経営大学院大学 准教授/声楽家 武井涼子(Ryoko Takei)

グロービス経営大学院大学 准教授/声楽家 武井涼子(Ryoko Takei)

声楽家とマーケターのマルチキャリアを歩む。電通、外資系広告代理店でブランド戦略、インタラクティブ戦略を。その後、FIFAマーケティングを経て、コロンビア大学でMBAを取得。帰国後は、マッキンゼーを経てウォルト・ディズニー・ジャパンに転職。現在、グロービス経営大学院大学で准教授、及びファカルティ本部主任研究員。著書には『ここからはじめる実践マーケティング入門』 (ディスカヴァー21社)がある。 その一方、数々のコンクールで入賞を果たす声楽家でもある。2017年も奏楽会「こうもり」(5月)二期会「サロン・コンサート」(11月)横浜シティオペラ「不思議の国のアリス」(12月)等に出演予定。2014、15年には国際連合本部のイベントで日本歌曲を披露するなど国内外で活躍。2017年2月にはopus55よりCD「日本の唄~花の如く」がリリースされた。 東京大学卒業、コロンビア大学MBA修了。東京二期会、日本演奏連盟会員。

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