測ることの難しさ

――Advertising Week Asia 2017報告

2017/06/27
  • facebookでシェア
  • twitterでシェア
  • G+1
  • はてなブックマークに追加

文:大下文輔

Advertising Weekは、広告を中心としたマーケティングコミュニケーションの世界最大級のイベントの1つだが、2016年から東京でもそのアジア版が始まり、今年(2017年)は、5/29(月)~6/1(木)の4日間、六本木の東京ミッドタウンで「Advertising Week Asia 2017」が開催された。
FacebookやGoogle、Tencentといったデジタルメディア企業の本社幹部をはじめ、世界的な広告会社、クリエイティブエージェンシー、広告主の代表者による12の基調講演の他、76のセミナー/ワークショップが行われたが、ありがたいことに、一部の内容を除き、ほぼすべての内容が翻訳付でオンライン試聴できるようになっている。

中国のスマート企業の存在感

このイベントで印象に残ったことの1つは、中国のデジタル環境の進展ぶりとマーケットの大きさである。中国の3大IT企業はBaidu、Alibaba、Tencentの3社でその頭文字をとってBATと呼ばれる。これらの3社はアメリカのMITが発表する2016年のテクノロジーレビューの中にある「50のスマート企業」にランクインしている。なかでもBaiduは、Amazonに次いで2位であり、Alphabet(Google)や、Facebookなどを上回っている。ちなみに中国企業は50社中5社がランクイン。日本はトヨタの17位が最高で、27位Fanuc、38位Lineと合わせて3社がランクインしている。

Baiduによって行われた『中国ビジネスにまつわる10の数字』というセミナーで示された象徴的な数字として、次のようなものがあった。デジタルの決済金額600兆円(2016年の年間数字)。アリババが11/11に行ったグローバルフェスティバルというオンラインセールでの1日の売上金額が1兆8,882億円。中国のモバイルユーザーは6.9億人。いずれも巨大な数字である。

オンライン決済は、ウィチャットペイ(微信支付)やアリペイ(支付宝)などの普及によってはるかに日本を凌駕しており、現金による支払の頻度は日本に比べて格段に少ない。中国の10代および20代の97%、すなわちほぼ全員がインターネットユーザーであり、彼らはあらゆることをスマートフォンで済ませる傾向が強く、アプリサービスが発達しており、例えば「お手伝いさん探し」のアプリによる個人サービスの人材派遣や、デリバリーサービスが最近急激に普及している。

中国のモバイル利用サービスがここまで急速に発達した理由として、日本よりも社会インフラの整備が進んでおらず、広大な土地でいろいろと時間がかかったりすることがあるからだと、バイドゥ株式会社の国井雅史氏は言う。考えて見れば駅やコンビニなど、いたる所にATMがあって現金が引き出せるし、紙幣や硬貨の印刷・製造技術高度化して、偽札をつかまされたりする可能性がない日本では、現金を使うことで「何ら不便を感じない」状況がサービス提供側も支払う個人にもある。生活における変化へのモチベーションの低さが、デジタルテクノロジーの発達を妨げている可能性があることを感じた。

巨大なマーケットで集まる金額も多いということを背景にし、BaiduやTencentは研究開発に投資している。その結果、画像技術や音声技術、自然言語の処理技術など、世界のトップクラスの技術水準を維持している。
Baiduはスマート家電と自動運転技術のデモビデオを上映したが、スマート家電では、Amazon Echoによく似たスピーカーが映っており、中国語でさまざまなことをコントロールしていた。
またTencentのコーポレート・バイスプレジデントのスティーブン・チャン氏による基調講演では、AIによるリアルタイムのニュース記事作成がロンドンのファッションウィークで行われた事例が紹介されるなど、先進的な取組が目を引いた。

日本の若者の視聴行動

国を問わず、マスメディアを通じたメッセージの伝達で、特に苦慮しているのが若者層である。わが国でも、10代20代では、マスメディアの視聴割合が他の年代に比べて少ない。

若年層を動かすマーケティングアプローチ~動画は今、どう見られているのか~』と題されたセミナーで、博報堂DYメディアパートナーズの吉川昌孝氏から興味深い報告があった。同社は、首都圏在住の大学生を対象に、就寝前のモバイル行動を探るため、対象者の寝室にカメラを据えて行動に密着し、後日インデプスインタビューを実施した。

紹介された例の1つは、2つのテレビ画面と、スマートフォン画面をOnにし、それらを同時に視聴するというものである。一番奥のテレビ画面には、以前録画していたドラマを再生し、より手前にあるテレビ画面ではリアルタイムでオンエアされている番組を見、さらに近くにあるスマートフォンではSNSなどをやっている。代表性があるか、あるいは実際にどの程度いるのか、はともかく3つのスクリーンを一度に見るという行動は、少なくともそういう視聴行動を日常的にする人がいて、今後そうした人が増える可能性があるということだ。

吉川氏は、若者のモバイル視聴行動の特徴として、

1)気分の赴くままつまみ食い
2)LINEが来たら即返信
3)関連動画は出したまま
4)「メインかサブか」わからない

としている。同氏はこうした動画もSNSも次から次へ切り替えて同時視聴、発信する現象を「Chain Viewing」、すべてが従で主がない視聴行動を「Simul Viewing」と名付けた。

こうした視聴行動は、人間の認識のあり方が変化する可能性を示唆している。どれが主でどれが従だかわからない、にしても、アテンションを高速でスイッチしながらこれまで以上の情報量を取り込んでいこうとする試みだとも言える。また、同時に注意の持続時間に変化があるかもしれない、と思う。

YouTubeは、2015年11月から導入したバンパー広告で、その長さを何秒にするかについて、ユーザーの1%を対象にさまざまな長さのCMの秒数を変えて露出し、また、ファンから寄せられた離脱の起こりやすさを中心として、最適な秒数を割り出し、次第にユーザー対象ベースを拡げてロールアウトしていったのだそうである。YouTubeは自らの媒体を使って、強制視聴環境下での最適な秒数を最大6秒であると割り出したわけである。

TV視聴率の中味:何を測っているのか?を巡って

水曜日(5/31)の夕刻には、デジタルインテリジェンスの横山隆治氏と榮枝洋文氏、資生堂の音部大輔氏によるディスカッションが行われた。内容の詳細は横山氏のブログDI社のホームページに掲載されている。

議論の中心は、テレビ広告の到達価値をどう設定すべきか、であった。前提となるのは、GRPは露出の指標であって、到達の指標ではなく不十分であるという考え方だ。また、本当に到達しているのか、ということを確認するのは容易ではないこともある。

広告は目的に照らして「どのように」到達したかが重要である。以前は広告がもっとよく到達していたという仮説に対して、音部氏は「シーブリーズの広告を見たといっても、ブランドに関係なく広瀬すずを見ていたかもしれない」と疑問を呈した。インターネットの広告は誰にどの程度到達したかを把捉するのには向いているが、YouTubeで問題になったように、過激な思想信条を表明する動画の中あるいは前後に広告が挿入された場合、広告主にとっては期待に比べて価値が下がる可能性は高まる。

広告の価値を反映できるようなTV到達の測定は難しい。なぜなら、価値につながる要素(変数)はたくさんあり、コントロールはほぼ不可能なものが多いからだ。それらについて十分に考察する紙幅はないが、ここではそうした変数を列挙しておきたい。

・視聴環境
  -スクリーンの大きさや画質
    ◇55インチの4K画面と、4.7インチの小さなスクリーンでは、印象が異なる
  -音響装置
    ◇サラウンドスピーカー等による大きな音で聞く場合と、電車内などで無音の視聴環境の場合
  -スクリーンの枚数
    ◇3枚スクリーンなどで、主従の区別なくつまみ食いをする場合と、1枚に集中して見る場合
  -スクリーンからの距離
    ◇手もとで集中して見る場合と、スクリーンから離れて見る場合

・視聴態度、視聴者の状況
  -集中して見るか、ながら視聴、つまみ食い的な見方か
  -見るときの気分
  -体調が良いか悪いか
  -期待して見るか、そうでないか

・視聴場面のコンテクスト
  -前後にコマーシャルが続いた場合とゼロの場合
  -何度も見たか否か。連続して同じものを立て続けに見たか
  -好きなコンテンツを見たあと、見たくないコンテンツのあと
  -過去のブランディング。コミュニケーション総量

・コマーシャルの内容、品質
  -「売らんかな」を感じるかどうか
  -内容が伝わってくるか
  -共感が生まれるか
  -覚えやすいか、理解しやすいか

等々

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

株式会社スペースシップ 人材募集中!