情報過多に適応したコミュニケーションの模索

――マーカスエバンズ主催CMO Japan Summit 2017報告:資生堂ジャパン『データが顧客エンゲージメントの関係を左右する』

2017/08/04
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文:大下文輔

マーカスエバンズが主催するCMO Japan Summitが2017年6月14日と15日の2日間、東京目白のホテルで開催された。企業のマーケティング幹部を対象にしたこのイベントは、今日的なマーケティングについての各社の取り組みを中心としたプレゼンテーションやディスカッションが合わせて11行われた。実務家による実践ベースの話が主体であることから、参加者の実務への参考になったものと思われる。
ここでは、MarketingBase読者の参考になると思われるプレゼンテーションの一つとして、資生堂ジャパンの小林篤史氏による『データが顧客エンゲージメントの関係を左右する』と題したプレゼンテーションを再構成してお伝えする。

資生堂ジャパン EC事業推進部 小林篤史氏

資生堂ジャパン EC事業推進部 小林篤史氏

(文章の主語は特に断りのない限り、プレゼンターの小林氏である)

消費者の中で、すぐに上書きされてしまう情報

今日話すことは、資生堂のワタシプラスというサイトにおいて行っている、データとDMP(Data Management Platform)によってお客さまとの関係をいかに親しいものにしていくかという取り組みである。

手始めに、自分を例として、情報取得のあり方を見ると、電車の中でスマートフォンを手にしているとき、1分の間に40ほどのニュース記事をざっと見て、その間10ぐらいの広告に接触している、というような状況がある。スマートフォンは、自分で何かをしているときにも、アプリのプッシュ通知、メールの着信、LINEで人からの話しかけなど、絶えずさまざまな情報によって直前の情報が上書きされるという事態が起こっている。関心領域は広く、情報の取得経路も多岐にわたる。

かつては、大人の情報取得と行動もより単純だった。例えば資生堂の商品をテレビコマーシャルで流すと、それを見た人が店頭に行く。店舗でも資生堂の商品を中心として並んでいて、コミュニケーションの成立はずっと容易だった。

しかし、店舗でもブランドや商品が多種類で目立ちにくくなり、情報の上書きが頻繁に起こると、「人の頭の中に何かを残す」というのはずっと困難になる。だからこそ、基本に返って、「どんなお客さまに」「どんなタイミングで」「適切なメッセージを届けるか」を絶えず考えて行くことが重要だと言える。

そこで、我々がDMPを使ってどのようにコミュニケーションを行っているかを説明したい。

データをつなぎ合わせることで、お客さまをよりよく知る

DMPをつくった理由はシンプルで、「お客さまのことをもっとよく知りたい」ということである。

消費者の情報取得や処理が複雑化するのと同時に、デジタルであれば、行動の軌跡がログという形で記録され、我々もそれを入手して見ることができるようになった。ログをつなぎ合わせてみれば、そのどこかに、お客さまの美容に対する意識が潜んでいるだろう、それを探すこともできるだろうと考え、行動につながる意識の瞬間を「モーメント」と呼んでいる。

ただし、美容や化粧に対する意識は、「資生堂」と「資生堂以外」で考えた場合、後者の占める割合がより大きいことも踏まえておく必要がある。商品の比較をしたければ、@cosmeに行くだろうし、商品を探したいというときにはGoogleやYahoo!で検索をかける。詳しい使い方などでは、自分の気になっているモデルさんのブログやキュレーションサイトを見たりすることもあるだろう。そのため、資生堂の外については、社外のサイトと提携する、あるいは外部のDMPから情報を入手するなどの方法を合わせて、お客さまのことを知ろうと努めている。

DMPの構成としてはまず、ファーストパーティ(自社)のアクセス、通販購買系のデータと会員に関する情報データ、そしてリアル店舗についての購買に関するデータなどが入っている。次に、提携サイトや資生堂に関連の深いであろうメディアのデータを格納している。さらに、パブリックのDMPがあり、これらを連携させている。

それをどう活用するか?

その前に行動のデータをそのまま、モーメントのデータとして捉えていいのか?という問題がある。あるところに来訪するのには、人それぞれの理由があるはずだ。商品の比較のために来たということもあるだろうし、新発売の情報が気になって来たり、最近買った商品をどう使うか確認しに来たりすることもあるだろう。ある行動の前後にどのようなことをしているのかがわからないと、その行動の意味づけができない。

お客さまの意識をモーメントで捉え、選好で管理する

そこで我々は、今の行動の前後に何をしたかを掛け合わせて、モーメントとすることにした。例えば、ある商品を買ったという情報があり、その2-3日以内にその商品の情報ページに来た時には、その商品の詳細について詳しく知りたい、という目的で来ただろうと推察できる。そうしたことの積み重ねとして、その人の趣味趣向、ブランドに対する思いなどがわかる。それを我々はUser Preference Management(ユーザー選好管理)と呼んでいる。

その管理方式は、ユーザーのプレファレンスマスターデータをつくる、というイメージである。ユーザーのプレファレンスは、1)デモグラフィック属性(性、年齢など)、2)購買チャネル/メディア選好(購買チャネル、利用デバイスなど)、3)商品・ブランド選好(購入履歴、ブランドロイヤリティ、ブランド購入検討状況など)、4)美容一般に関する選好(美容意識、情報探索状況など)の4つの項目で構成される。
これらのプレファレンスと、行動データ(ある行動とその周辺の行動)をひも付けることで、行動の意味を推し量り、行動のモーメント(ウキウキなのか、ドンヨリなのかなど)を理解できる。

刈り取り中心から、対話によるモーメントベースのコミュニケーションへ

我々は、モーメントをDMPで管理し、それをBIツールで可視化している。それを見て、打ち手(例えばどこに、いつ、どんな広告を出すか)を講じている。その結果をDMPに入れることで、サイクルをつくって回している。

そして、今は過渡期だが、商品ベースのコミュニケーションから、モーメントベースへのコミュニケーションへの移行を行っている。

商品ベースのコミュニケーションとは、お客さまの状況にかかわらず、例えばトライアルセットを購入した人にはX日後にアフターフォローのメールを送り、しばらくしたら購入促進メールを送ったりするという画一的なやり方でアプローチすることである。そこには、顧客状況への配慮や対話の存在がなく、場合によってはメーカーの押しつけによる、いわば刈り取り型といえるアプローチである。
モーメントベースのコミュニケーションが目指すのは、そうしたことからの脱却、つまりお客さまの考えていることを知った上でそれを後押しするということだ。言い換えれば、適切な「お客さま」に対し、適切な「(モーメントを捉えた)タイミング」で、適切な「場所」へ、適切な「メッセージ」を届け伝えることにある。

お店を考えてみると、よい店員は、お客さまの状況を目で見て判断し、(モーメントに応じた)適切なタイミングで声がけして、的確なアドバイスができる。それと同じことをデジタルで実現しようとしているのだ。

モーメントベースのコミュニケーションの実例

実例の詳細については、自身の経験からしても他社事例をそのままの形でやっても失敗することが多い。考え方が参考になるという観点から事例をお話ししたい。

まず、タイミングについてだが、美白関連の広告で媒体に記事を出してから、お客さまが購入するまでの時間分布を調べてみると、その多くが3日以内にその商品を買ったという事実が見つかった。その経験をもとに、サンプル品が家に届くという応募・抽選のキャンペーンの応募者に対し、抽選に当たったかどうかにかかわらず、3日後に「買いませんか?」というメールを出してみた。結果としてCVRが3~4%上昇した(売上金額に換算すると大きな収穫)。すなわち、キャンペーンに応募したということで、その賞品への関心が高まった(自分ゴト化した)タイミングを捉えて、施策を打ったと言うことである。

他にも、LINEの場合は、1時間以内に反応が起きやすい、あるいはメールへの反応は時間的なバラツキが大きいなどと媒体特性が違う。LINEは友だちのような親しい感覚を持たれやすく、モーメントをうまく捉えられれば効果が大きい反面、気に入らないと感じられた瞬間にいきなりブロックされてしまうというリスクも高い。そうした特性をつかんでおくことが重要だ。

あるいは、メッセージ(クリエイティブ)でいうと、Instagramでコミュニケーションをする場合、サイトに掲載しているクオリティの写真でなく、Instagramで好まれる傾向を反映した彩度を落とした写真を使うことで、「いいね」の反応数が明らかに増える。クリエイティブは媒体をどのように見ているのか、を意識することもまた必要で、その状況に応じて静止画、動画の選択を行う。


以上が小林氏のプレゼンテーションの概要である。ポイントは、複雑な情報環境に適応するために、容易になった行動データと外部データの連係でDMPを構築し、それを使って顧客の気持ちを推し量ってコミュニケーションをとることで、ビジネスの効果、効率を上げることができるということである。広告を単体で捉えるのではなく、消費者との対話を念頭に置いて、コミュニケーション全体のアロケーションが必要になる、という認識がここでも確認されたのである。

同じくCMO Japan Summit 2017のスターバックスコーヒーのセッションをレポート第2弾として掲載しているので、ぜひご覧いただきたい

 

イベント名:CMO Japan Summit 2017
イベント日時:2017年6月15日
場所:椿山荘東京

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

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