施策に反応しない顧客を探る

――ネットイヤーグループのネコ型マーケティング

2017/08/08
  • facebookでシェア
  • twitterでシェア
  • G+1
  • はてなブックマークに追加

文:大下文輔

ネットイヤーグループは、ユーザーエクスペリエンスをベースにした、デジタル時代のマーケティングの各種サービスを提供する企業として知られている。2017年6月、同社は消費者の情報接触、取得態度を軸にした消費者セグメンテーションについての調査研究を行い、今後その知見を利用した体験価値向上への取り組みを行う、と発表した。名付けて「ネコ型マーケティング」である。ネコ型マーケティングとは何なのか、同社でこのプロジェクトを担当するNEKO LAB研究所の野木博司氏、峰村仁子氏、日下陽介氏に話を伺った。

施策に反応しない「ネコ型顧客」の存在を仮定

ネコ型マーケティングは、ネコ型顧客とでもいうべき消費者がいるのではないか、との仮説から出発した。ネコ型顧客とは、あるブランドの購入頻度が高い、企業から見ればロイヤル顧客なのに、素直に企業の施策に反応しないタイプの顧客を指す。CRMでは一般にクロスセルやアップセルを実施しようとして、いろいろなプロモーションを行うが、思い通りに反応してくれない、それでいてそのブランドを購入してくれる一群の顧客がいる。

「マーケティングの施策をいろいろ考えても、本当に反応してくれるのだろうか?自分たちが、そうした企業からの働きかけに素直に反応するタイプでないことから、同じような人たちがいるのではないか?ということをいろいろ話し合いました。そしてその人たちをネコ型とネーミングしました」と野木さん。

ネコ型顧客の行動は例えばこんな形であらわれる。ショップのメンバーズカードは毎回忘れるし、ポイントの後付けもまったくしない。でもよく買いに来る。あるいは、メルマガやクーポンに反応しないけど、特典もないタイミングでふと買いに来る。オンライン/オフラインなど買う場所も一定でないし、買うタイミングも規則性がない。こうした人たちの行動は、CRMの分析だけではよくわからず、そのためにもネコ型顧客の存在を確認し、意識や行動を把握しておく必要がある。

「もともとネコ型、イヌ型、という分類は人事コンサルテーションの分野(山本直人氏の『ネコ型社員の時代』)や、生き方についての啓蒙などで使われていましたが、マーケティングの分野では特に見当たりませんでした。そこでネコ型、イヌ型について検証してみよう、と調査にかかりました」(野木さん)。

ネコ型顧客は過半数いる

そこで、全国の男女15歳から69歳までの好きなブランドがあり、なおかつそのブランドの購入頻度が高いと答えた男女約6万人というかなり大きなサンプルサイズで調査を実施した。調査対象者が好きだと回答したブランドに対して、購入頻度が多いかどうかのほか、一般に実施されるメルマガ、クーポン、プレゼント付キャンペーンなどの施策に応じるか応じないかを訊ねた。そして、1施策1点となるようにして各対象者のスコアを算出し、半数以上の施策に反応する人を「ブランドの施策に反応する」、半数以下の人を「ブランドの施策に反応しない」として分類。前者を「イヌ型」、後者を「ネコ型」と定義した。

その結果、好きなブランドに対して購入頻度が高いと回答している人でさえ、ネコ型顧客は過半数の57%もいることがわかった。

調査のリーダーシップをとったのは峰村さんだが、「購入頻度が高くて好きなブランドだから、もっとイヌ型が多いのではないかと思っていたので、結果は驚きでした」と言う。「時代背景に、消費者の情報取得のスキルが上がっていることや、スマートフォンなどの普及により片手でいろいろ操作ができるようになった結果、消費者に情報選択の主導権が移行していることが挙げられますが、ネコ型がここまで多いとは予想外でした」。情報環境の変化は、ネコ型顧客の増加を促しているのではないか、と同社では見ており、今後追跡して調べる予定だ。

ネコ型顧客

ネコ型顧客
(※画像クリックで拡大)

操作的に定義されているため、セグメントの大きさは定義によって変わるものの、ネコ型の消費者、すなわち、自我関与が高くとも、企業の施策に素直に反応しない人達が一定数いることが確認されたことの意味は大きいだろう。

「人のタイプ」は、情報が届かない要因になりうる

ネコ型顧客の存在は、情報環境や社会変化だけでなく、情報取得の態度が原因となって情報が届かなくなっている可能性を示唆するものだ。情報があふれることによって、情報への接触機会が分散化して認知が高まらないという問題は、マーケターが直面する大きな課題の一つである。また、メディア接触のパターンの変化によって、マスメディアでのリーチが稼げないなどから、なかなか情報が届かないという指摘もなされてきた。ネコ型顧客は、そうしたこととは別に、企業がどんな情報を発信しようとも「反応するかしないかは(つまり情報が届くか届かないかは)自分が決める」という人たちなのである。このことは、マーケティングの主語が企業から消費者に移行している、という主張とも一致する。

ロイヤル顧客は従順である、すなわちブランドが好きでよく買ってくれる人はほぼ全員が企業の提案に喜んで応じてくれるはず(イヌ型ばかり)、といった従来の常識は疑ってかかる必要がある。ネコ型マーケティングはそうした消費者の意識と行動を把握することから出発し、人の情報接触態度に応じたやり方を模索することに主眼がある。

ネコ型イヌ型の構成比に、年齢差や性差、あるいは商品カテゴリー間での大きな差はなかった、というのも興味深い発見の一つである。

定量調査に加えて、多くの社内スタッフに対してヒアリングを行ったほか、アンケート回答者のなかからネコ度合いの高い人10人を選んで、1対1のインデプスインタビューも実施したとのこと。「イヌ型の人は回りがどう見ているのかを気にするとかはミーハーなところがあるのに対して、ネコ型の人は回りを気にせず自分の感覚を優先することなどが確認できたほか、ネコ型の人は単に機能だけでなく、生産国などにこだわりを見せるなどの発見がありました」と野木さん。

ネコ型顧客への対応は、やはりタイミング、内容、経路を考えて

ネコ型顧客への対応は、彼らの行動や意識を踏まえて、どのようなメッセージ(施策)をいつ、どこで発信するかを考えることが大事だ、というのが日下さんも含めた3人の意見である。だから、ネコ型顧客の行動の経路をしっかりと踏まえて、MAなどとも連動させる必要がある、という考え方だ。ネコ型の新規見込顧客をイヌ型に変えることはほぼできないだろうから、それぞれの顧客タイプに応じたカスタマーエクスペリエンスを採り入れて施策を打つ必要がある、というのがコンセンサスだ。

ただ、ネコ型マーケティングはまだまだこれから、という部分も多く、ネットイヤーグループはクライアントと協業しながらそれを模索していく、としている。「幸い、興味を示して一緒にやろうと言ってくださる企業もあります」と野木さんは言う。

ネコ型、イヌ型のセグメンテーションは感覚的に理解しやすいものである一方、ブラックボックス的な要素は少なく、同じ概念でセグメンテーションは可能だ。それでも、ネットイヤーグループがネコ型マーケティングを始めるのは、これまでのデジタルマーケティングの各種サービスを通じて培ったワンストップでのソリューション提供ができるからだ、とのことである。 なお、同社のネコラボページはこちら

ネコ型マーケティング
http://www.netyear.net/nekolab/index.html

 

取材先(敬称略):ネットイヤーグループ NEKO LAB研究所
所長  峰村仁子(ネコ型)
研究員 野木博司(ネコ型)
研究員 日下陽介(イヌ型)

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。