消費者の主体性に着目したマーケティング

――『ネットイヤーグループ:メディアラウンドテーブル』報告

2017/09/08
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文:大下文輔

2017年8月4日、ネットイヤーグループは同社が6月に開始した「ネコ型マーケティング」に特化した社内組織「ネコラボ」を新設したことを発表するとともに、同社グループ企業のクレデンシャルズ(その会社がどんなことができるかをアピールするもの)をプレゼンテーションした。
登壇者は、ネットイヤーグループ代表の石黒不二代氏、同社取締役の佐々木裕彦氏、トライバルメディアハウス社長の池田紀行氏で、それぞれ順にデジタルマーケティングへの取組、ネコ型マーケティングの説明、熱狂マーケティングの説明を中心としたものであった。なお、ネコラボの所長には峰村仁子氏が就任した。

ネコ型マーケティング熱狂マーケティングの大まかな内容についてはすでに報じた通りである。そこで、今回は、ネットイヤーグループとして力を入れ始めたネコ型マーケティングについて、発表を踏まえた考察を試みたい。

ネコ型顧客の定義はブランドごとに設定した方がよいのではないか

手短に言えば、ネットイヤーグループの「ネコ型マーケティング」は、企業の施策に反応しないけれど、ロイヤリティ(loyalty)のある顧客を同定して「ネコ型顧客」と名付け、彼らに対する企業の接し方について探ろうとするものだ。

ネコ型マーケティングの前提条件は次のようにまとめられるだろう。

1)世の中には企業が行う施策に反応しない(企業から見れば反応してくれない)顧客層と、そうでない顧客層に分かれる。
2)施策に反応しない顧客について、行動履歴などから、把握しやすくなった。例えば、購入頻度や購入量が高いかどうかと、メールの開封率やキャンペーン応募率などと組み合わせることがデジタルデータによって個人別にわかる。
3)企業のマーケティング施策は、購買頻度や購入量、金額が多い顧客をロイヤリティの高い顧客と見なし、一律にエンゲージメントを高めることができると考え、実践してきた。
4)施策に反応しない、けれども何らかの理由でロイヤリティの高い顧客は無視できない程度にはいると考えられるため、彼らに対して何らかの対応が求められるはずだ。

ここで、ネコラボは、「ネコ型顧客」を以下の3条件を満たす人として、操作的に定義した。

①好きなブランドがある
②そのブランドの購入頻度・量が多いかどうかに「はい」と答えた
③挙げられた施策のうち、利用するものが半数未満だった

①②を満たしつつ、挙げられた施策のうち、利用するものが半数以上の人たちを「イヌ型顧客」と定義している。

ネコ型、イヌ型の分類は上記のように定義されているため、その人たちが過半数の57%いたという事実を、そのまま、「施策に反応しないロイヤル顧客」が世の中に57%いる、と解釈することはできない。むしろその数字に大した意味はなく、「企業の施策を積極的に利用しない顧客が無視できないほどいる」という程度に捉えておくべきだ。

なぜなら、企業の持つブランドによって、施策の内容や重みはさまざまに異なることや、経営管理上、ブランドの購入頻度や金額などの中からどの要素を採用するか、その管理指標のどこで重要顧客とそうでない人を区分するかが違ってくるからだ。実際ネコラボでは、ネコ型マーケティングを実践的に進めるにあたっては、「ネコ型顧客」「イヌ型顧客」を固定的に決めてしまうのではなく、個別に設定すべきものとしている。

顧客の主体性に着目したことが、ネコ型マーケティングの特質

佐々木氏が語るように、ネコ型マーケティングは、多くのマーケティング施策が「施策に反応してくれる」ことを期待しているのに対して、その期待に応えてくれない顧客がいることへの対応である。彼らを無視することなく何らかのアプローチを試みることに、その意義がある。

施策に反応してくれない顧客、すなわちネコ型顧客は、企業からしてみると、「主体性を持った顧客」だと考えられる。「かまってちゃん」でない、「ほっといてちゃん」をどう扱うかは、多くの企業にとって難題と言える。

佐々木氏は打ち手の一例として、最近アーバンリサーチが実店舗において、「店員からの声かけ不要」を意思表示するためのブルーのショッピングバッグを用意したことを挙げた。

顧客、消費者が主体的な存在であることは、ごく当たり前の考えとも言える一方、マーケティングコミュニケーションは「人を動かす」すなわち、行動変容、あるいは行動につながる意識の変容をもたらすことを目的として行われる以上、「何らかの反応」を期待して施策が行われる。企業が想定した行動変容のルートには乗らないが、それでも「価格が安いから」、「なんとなく」でない何らかの意思や肯定的な感情を伴う購買には、顧客、消費者の主体性を想定せざるを得ない。

マーケティングが消費者の主体性を無視してきたわけではない。インターネットの普及以前からも、口コミによる推薦に着目することがあった。その後「バズ・マーケティング」やインターネット(とりわけ2010年代以降はSNS)を介した「シェア」という行動を利用しようとした動きがあったし、近年では「価値共創」のマーケティングや、アンバサダープログラム(アドヴォケイト)なども、消費者のマーケティングへの主体的参加を前提としている。さらには、サービス・ドミナント・ロジック(SDL)を軸にしたマーケティングの組み直しは、消費者の主体性をより前面に打ち出すものといえる。

また、戦略PRは、商品と直接結びつかない観点からのアプローチ(換言すると、宣伝臭を感じさせない情報提供)という点で、ネコ型顧客に対する有用な打ち手の1つであると考えられる。

ネコ型顧客というネーミングの巧みさ

ネコ型マーケティングは、「動いてくれない消費者への対応」という難題に取り組むに当たり、ネコとイヌというわかりやすいアナロジーで消費者を可視化した。そのことによって議論が活性化したり、クライアント(およびクライアント内のクライアント――意思決定者)への説得活動を容易にしたりする。それこそが、ネコ型マーケティングの最大の効用だろう。加えて、ネコとイヌは日本以外でも理解されやすい。

自社ブランドの施策をどのように行うのか、顧客の情報接触態度を1つの指標として、データドリブンで議論し、アイデア開発、実施、チェックする体制を整えることが、ネコラボとの共同作業になるのだろう。

ネコ型マーケティングはまだまだ模索の段階であると思われる。だからこその「ラボ」なのだろう。池田氏のトライバルメディアハウスが推進する熱狂ブランド戦略とネットイヤーグループのネコ型マーケティングの棲み分けや、「熱狂顧客」と「ネコ型、イヌ型顧客」との関連など、これからの展開に期待する。

ネコ型マーケティングは親しみやすい、顧客のイメージを膨らませやすい、などの利点によって進んでいくと思われる。何よりも時代は情報過多、選択肢過多であり、消費者が情報に対して防御的になりつつ、自分でそれらをコントロールできる環境が整いつつあるからだ。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。