マクドナルドのマーケティング、デジタル活用の3ポイント

―― Adobe Symposium 2017報告

2017/11/10
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文:大下文輔

Adobe Symposium基調講演の1つは、マクドナルドの足立光氏によるプレゼンテーションであった。マクドナルドは、2016年の国内売上4,384億円、年間来客数約13億人というビジネス規模を誇っている。日本でビジネスを始めた46年前から、TV広告を中心としたマスメディアに巨費を投じて、マーケティングを行ってきた企業である。その中で、デジタルをどのように考え、活用し、マーケティングの変革につなげていくかについて、マーケター足立氏は自身の考え方とその実践を語った(日本国内事例)。

マクドナルドにおけるデジタルマーケティングのパースペクティブ

デジタルマーケティングで、一般の人が思い浮かべるであろう主な活動について、現状を概観すると以下のようになる。

  1. アプリは、ダウンロード数で3,700万、月間アクティブユーザー数は1,350万人を誇る。ダウンロード数は、Line、Twitter、Facebook、Yahoo!に次ぐ第5位である。
     
  2. ホームページは、順調なPVの増加を遂げ、2017年2月で、月間約600万PVである。昨年来、BurgerLoveというハンバーガーへの愛や情熱を打ち出したページを作ったり、最近では社長が関西弁でメッセージを発信する機能を一時的につけたりした。ちなみにCMSはアドビを採用。
     
  3. Twitterのフォロワー数は約150万。食品関係の中では、Starbucks、セブン-イレブン、ローソンに次ぐ4位。ただし、オフィシャルツイートをリツイートしたり「いいね」したりするエンゲージメント数は第1位である。
     
  4. デジタル広告では、媒体費用総額の約2割をデジタルに投じている。
     
  5. 動画は昨年から利用を始めた。現在は、日本で動画制作数は日本でもトップではないか、と言われている。

これら以外にもデジタルの利用はさまざまなものがある。まず、楽天やドコモと組んだポイントカードプログラム。店舗のWi-Fi、セルフオーダーKiosk、注文の時に見上げるデジタルのメニューボードがある。そして子ども向けの店内プレイランドを安全やメンテナンスのしやすさなどを考慮してデジタルに置き換えている。さらには、全店舗にBeaconが入っている。

以上のようにデジタルの利用は多岐にわたっているが、その目的は大別して1)認知を獲得すること、2)お客さまの体験を便利にすることの2つだ。

コミュニケーション戦略の変更にともなうデジタルシフト

もともと、マクドナルドは、TVコマーシャルを中心にしたマーケティングを得意としていたが、足立氏は2015年の就任後、コミュニケーションを大きく変更した。

その背景として、1つは、マス広告の影響力が低下し、消費者の情報取得が、モバイルにシフトしてきたことがある。もう1つは2015年に着任した当時、前年の不祥事などの影響もあり、赤字であることに加え、社会的な信用が失墜していたことがある。メディアやネット上ではマクドナルドに対するネガティブなコメントがあふれていた。

そこで、マス広告に大きく依存するのではなく、「メディア(PR)」と、「ファンの声(SNS)」を最大活用する、という戦略の転換を決断した。

ハンバーガーを食べなくとも、人は生きていける。だから「マクドナルドのハンバーガーを食べたい」という気持ちになってもらうことが重要だ。
PRはマス広告だけではスルーされがちな環境下で、「ニュースになっている」ことがわかると「それが流行っている」という意識が生まれる。言い換えれば「世間ゴト」化する。そのために、PRを増やし、とりわけ影響力の強い、Yahoo! NewsやLINE Newsのトップを狙うようにした。
また、友人、知人がSNSで「おいしかった」「おいしそう」などと発信すれば、それは「身内ゴト」として気になり、食べようとする動機につながる。すなわち、商品を知るという体験を、広告以外にデジタルの力を利用して行うことを大幅に増やしたのである。今では、デジタルはマーケティングの重要な一部になっている。

拡散を生むための、キャンペーンや商品の見直しとアライアンス

商品はPRを行ってからそのLaunch(新発売)までの間に期間がある。それを「PreBuzz」と呼んでいる。商品情報が、この期間にどれだけ「世間ゴト」として捉えられ、「身内ゴト」として拡散されているか、は明確に売上と相関がある。しかし、平凡なニュースリリースの発信では、なかなか採り上げてもらえず、興味も湧かない。そこで、次のような工夫をした。

  • キャンペーンを遊びゴコロ、ツッコミどころ満載のものにした。(タツタ対タルタ、正体不明の怪盗ナ「ゲッツ!」(ダンディ坂野を起用」など)
  • 参加型キャンペーンを実施した(名前募集バーガー、マクドナルド総選挙など)
  • 製品のコラボレーションを実施した(カルピスシェイク、森永ミルクキャラメルシェイクなど)
  • ハンバーガーなどのパッケージを、SNSに投稿しすいよう変更した(月見バーガーでは、ウサギの絵を配し、10個に1個は別の絵柄を加えるなど)
  • ネーミングを短く、キャッチーなものにした(必勝バーガー、超グラコロなど)
    →ネーミングが短くないと、ニュースのヘッドラインの字数を消費するし、覚えにくいので、漢字を多用しつつパンチを効かせた。

参加型キャンペーンの「マクドナルド総選挙」は、それが成功したことで2つの点で新しい変化をもたらした。
1つは動画の多用である。このキャンペーンでは、動画をコミュニケーションの主軸に据え、TVコマーシャルとは別に動画を31種類用意し、毎日出し分けていった。
また、もう1つは、キャンペーン結果のフィードバックによるさらなる認知拡大だ。参加型キャンペーンの結果をニュースリリース1本とFacebook、Twitterに流すと多くのメディアに採り上げられ、バズを産み、認知を獲得できた。しっかり仕込みができていれば、TV媒体費用を使わずとも、短期間で認知されることがわかったのだ。

また、コラボレーションは、パワーのある相手方の情報発信が期待できることと、製品の場合は味が想像しやすいため、コミュニケーションの力点を話題の拡散に置きやすいというメリットがある。

デジタルをマーケティングに活用するための3つのポイント

マクドナルドにおいても、デジタルは今やマーケティングに欠かすことができないものではあるが、マクドナルドには「デジタルマーケティング」という概念そのものがないとのこと。

足立氏によれば、マーケティングにデジタルを活用するポイントは3つある。

 1)「デジタル」という言葉を使わない
マーケティングにおいて使われているデジタル技術は、ソーシャルやプレイルームやポイントプログラムやビーコンやサイネージなどあらゆる局面で幅広い使われ方をしている。デジタルというコトバを殊更に使う意味がない。

 2)「デジタル」だけを考えない
キャンペーンには目的があり、リアルも含めてどう進めていくかという過程の中で、デジタルは必要なところに自然な形で入ってくる。「デジタルをマーケティングにどう活用するか」という問い自体が間違っている。

 3)明確なKPI設定を行う
KPIの設定により、目的が生まれ、「やらなければいけないこと」としてスタッフが動く。そこで、デジタルシフトに沿ってマーケティングのKPIを改訂した。従来のマクドナルドのKPIは売上と客数だったが、売上につながるプレバズの数を加えたのである。
また、メディアのKPIも、従来はマスメディアの効率(CPRPなど)およびPVなどの個々のデジタルKPIであったが、これに総合指標として、プロモーション認知度/メディア総額(すなわち、認知獲得効率)を加えた。

以上をまとめると、足立氏がもたらした変革は、マス広告に加えて、PRとSNSをコミュニケーションに据えて、話題化を図るというコミュニケーション戦略の転換を行ったことで、話題化し拡散するよう商品やキャンペーンの見直しを行うとともに、製品コラボレーションやアライアンスプログラムにより相手方のパワーをも利用したことである。
また、話題化をしっかり行うべく、社内の人を動かすために、KPIを改訂した。結果として、愉快なニュースが常時あふれているという状況を生むこととなった。

 

イベント名:Adobe Symposium 2017
イベント日時:2017年9月14日10:00~12:00

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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