KDDIのマーケター中東孝夫氏が描く、デジタルマーケティングのロードマップ

――デジタルマーケティング・トークセッション■あなたの知らないデジマの世界■「テクノロジー・ネットワーク」 2017報告

2017/11/24
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文:大下文輔

 

2017年9月11日、デジタルマーケティングに関するトークセッションが開催され、3人の登壇者による中味の濃いプレゼンテーションとディスカッションが行われた。
本記事では、B2Bマーケティングの論客、中東孝夫氏の『1からB2Bデジタルマーケティングを立ち上げることになったら』と題するプレゼンテーションを取り上げたい。

中東氏は、2016年8月はじめに、外資系のテクノロジー企業からKDDIの法人部門のマーケティング部長に転籍し、ABM(アカウントベースドマーケティング)を主軸としたデジタルマーケティングの仕組み作りや、人材育成、組織マネジメントを行ってきた。
その日のプレゼンテーションは、それらを総合した話であったが、とりわけMarketingBase読者の参考になりそうな、「デジタル成熟度モデル」を紹介する。
デジタル成熟度モデルを一言でいうと、デジタルマーケティングの仕組み作りを、段階を追って実践していく「ロードマップ」だと言えよう。ちなみに、タイトルの「1から~」というのは、以前書評した『ABM』にも記されているとおり、「日本では歴史的に法人のマーケティング機能が(実質的に)存在しなかった」ことが、KDDIという企業においても例外でなかったことを示している。

実践的なデジタルマーケティングの仕組み作り

そもそもデジタルマーケティングはある日突然ポンとできるようなものではない。そこで、段階を追ってどのように進めていくかについて、自分なりに考えてみた。それを「デジタル成熟度モデル」と呼んでいる。似たような考え方は他にもあるが、この成熟度モデルは、あくまでもビジネスの環境を想定して、実践的に行えることを優先している。

図1.デジタル成熟度モデル

図1.デジタル成熟度モデル
(※画像クリックで拡大)

成熟度モデルは、次の5つの段階からなっている。

  1. Request Based Publish(リクエストベースのサイト構築)
  2. Data Infrastructure (データインフラの整備)
  3. Analysis and Review Cadence (分析とレビューサイクル)
  4. Digital Vender Structure (ベンダーの選定)
  5. Content and Creative Optimization (コンテンツの最適化)

KDDIでは、この段階に沿ってB2Bのデジタルマーケティングを実践し、組織・スタッフを強化してきている。

第1段階:リクエストベースのサイト構築

着任当初の状況は、第1段階の、リクエストベースのパブリッシュを行っているという段階であった。実際は子会社にいる少数のウェブ担当者によって行われていた。
これは例えば、商品チームや営業企画チームから「今度新製品が出るから、それをサイトで紹介して欲しい」、というリクエストがあれば、それに対して「どのような内容の話を伝えたらいいのか、書面でください」というようにお願いをし、それに基づいて担当者が代理店に指示してページ作成してもらう、といった形で作業が進行する。
やっている内容は、指示された内容のとおりにウェブコンテンツを作り、ランディングページをパブリッシュすることである。この段階では、顧客に一方的な情報提供を行っているのみであり、マーケティングとは呼べない。

第2段階:データインフラの整備

当たり前の話だが、まともなデータがないのにビジネスをマネージできない。ABMでまず必要になってくるのが、ターゲット(取引先の交渉相手)を絞り込むことだが、そのためにデータはどうしても欠くことができない。
そこで、必要とされるカスタマーデータベースや、カンパニーマスターデータ、あるいはデータクレンジングオフィス(インバウンドのデータをきれいに整える、例えば重複を避けるために名寄せを行う部署)、などを整備することが必要になってくる。これが第2段階のデータインフラの整備である。

第3段階:分析とレビューサイクルの設定

データインフラが構築できたら、何をどのように分析をするか、どのような頻度で行うか(Review Cadenceまたはレビューサイクル)が設定できる。すなわち、年次レビュー、四半期レビュー、月次レビュー、週次レビュー、そして毎日のレポートなどのサイクルを決め、それぞれで行うアナリティクスがデザインされる。例えば、タグマネージメントといったことも、この段階できるようになる。
いろいろなサイクルで適切な分析とレビューを繰り返すことで、何か問題が起こった場合に、早めの軌道修正をかけることがこの段階を整えることによって可能になる。それを担当する部署が、デジタルマーケティングにおけるCOE(Center of Excellence:卓越したマーケティングの中核部門)として機能する。

第4段階:ベンダーの選定

どのような指標によってビジネスを管理していくか、そのためにはどの頻度でどのような分析と報告が有効になりそうかが、明らかになっていない段階でどのベンダーと一緒に仕事をするか決めると、ベンダーのいいなりになってしまう可能性がある、あるいはかみ合わない議論が延々続くことは想像に難くない。だから、ベンダーの選択は、マーケティングでやるべきことが明らかになり、ベンダーに必要とされる要件を判断できるようになった時点で行えばよい。
DMPをどう作るか、Media PlanやCreative Managementをどうするかについて、ゴールはここだと指し示しながら、一緒に協業関係を作り上げるベンダー選定は、この第4段階で行うべきことである。

第5段階:コンテンツ最適化

コンテンツの最適化は、以上の準備の上で、ようやくまともに実現できる。コンテンツマーケティングを行おう、あるいはSNSで施策を、などとすぐに何かを始めようとする動きが社内で起こるかもしれないが、データがあって、分析やレポートの体制ができていないと、手を出しにくいのではないだろうか。
何がいいのか、どういうことを判断できなければコンテンツの最適化は行えないし、協業するベンダーが適切なクリエイティブを提供してくれているかどうかもわからない。
データで語ることができない状況ではデジタルマーケティングとは言えないだろう。仮説を立ててコンバージョンを上げるためのテストを行ったり、SEOを行ったりCLM(Closed Loop Marketing)を実施したりするのもこの段階である。

オムニチャネルもこうした階段を上っていくことで可能になる。オムニチャネルは、つまるところシングルカスタマービューの把握をすることでもあるから、こうしたデジタルデータの扱いが成熟していないとできない。

着任後1年をかけて第1段階にあったものを、ベンダー選定の段階に移行させ、クリエイティブのプラットフォームを今ベンダーと協業して作っているというのが実情だ。

 


以上が中東氏の説明である。B2Bのデジタル成熟度モデルとしての説明だが、大枠を考えればそれはB2Cマーケティングにも応用可能だろう。
デジタルマーケティングの進化過程を、1)消費者とのコンタクトポイントであるオウンドメディアを用意し、何はともあれ情報発信を行う、2)必要なデータ処理のインフラ基盤を整え、インバウンドを中心とした消費者データを収集する、3)データの分析の方針と方法、レポーティングのサイクルを取り決める、4)デジタルマーケティングを実施するためのツールやベンダーを選定し、協業体制を築く、5)テストを繰り返し、コンテンツの最適化を図りつつ、マーケティング効率を上げてゆく、と捉え、その基本形を取り入れつつ、組織の状況、必要性に応じて細部を調整していけばよい。

 

イベント名:デジタルマーケティング・トークセッション■あなたの知らないデジマの世界■「テクノロジー・ネットワーク」
イベント日時:2017年9月11日19:00~21:00

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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