セールスフォースのエリック・ストール氏が語る「マーケティングに求められること」とは?

2017/12/05
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インタビュアー:武井涼子

2017年11月8日、セールスフォース シニア・ヴァイス・プレジデント(Marketing for Commerce Cloud and Marketing Cloud)のエリック・ストール氏にインタビューを行った。Dreamforceの会場であるサンフランシスコのモスコーン・センターでのことだ。

 

Q(武井涼子):デジタル・データにおいても、カスタマー・ライフサイクルのすべてのフェーズのデータがそろってきている。現在の課題はなんだろうか?

A(エリック・ストール):当たり前だが、データはあるだけでは何も答えを出してはくれない。どう活用できるかが大切だ。

 

そのためには人をトレーニングすることに尽きると思う。ソフトウェアはもともと難しいもので、それがだんだん簡単になってきているとはいえ、今もすごく簡単、というわけにはいかない。扱えるようになるにはトレーニングが必要だ。以前に比べれば圧倒的に簡単なEinstein(アインシュタイン)などのAIも利用できるようになってきているけれども、良い結果を生み出せるようにデータを使いやすく整えるのは人間の仕事だ。

家を建てるようなものと考えてもらえるとわかりやすい。セールスフォースは木材やトンカチなど、すべての必要な道具は渡す。しかもなるべく簡単に使えるようにして渡すが、家を設計して建てるのは当事者でなくてはできない。戦略を考え、キャンペーンを構築し、コンテンツを制作するところは、スマートな人がやらなくてはできないんだ。

 

Q:ジャーニーをどれくらいの長さで作ればよいかわからない、どのような接点を組み込めばよいかわからない、という声をよく聞く。そもそも、マーケティングにおいては、顧客経験をどこまで広く考えるべきだと思うか?

A:コンテクストが成立するところをすべて押さえればよいのだと思う。例えば、Uberのアプリは、うまく顧客の体験をデザインしている。彼らは、経験を売っているわけであって、移動する距離にお金を払ってもらっているだけではない。だから、乗る前、乗った後もジャーニーの一部になっている。会社ごとに、どのような経験を提供するかを考え、経験全体をカヴァーすることが重要だ。すると、会社全体にジャーニーの範囲は及ぶことになる。

会社全体のリエンジニアリングをデジタル起点で考え行わない会社は、そのうちなくなってしまうだろう。
考えてみてほしい。20年前にはCIOはいなかった。いたとしても、システムのことばかりを見ていた人だったと思う。しかし今やCIOの仕事はサーバのお守ではなく、会社全体のデジタルトランスフォーメーションに関わる戦略的なものだ。

ジャーニーは考えようと思えば、想像力でどうにでも広げられる。しかし、その中で自社のリソースを考えて、戦略的に、ブランドづくりに深く関係するところ、つまりコンテクストを作れるところに注力していくのが大事なのだと思う。

 

Q:セールスフォースはどのようなブランド戦略を取っているのか?

A:ブランド戦略が無いとカスタマージャーニーはそもそもつくれない。だから、セールスフォースもブランド戦略とブランディングには非常に注意を払っている。ブランドのコントロールとは「フィーリング」をコントロールすることだから、繊細に扱わなくてはいけない。

セールスフォース内では、この分野は創業者であるマーク・ベニオフが非常に深く関わっている。例えば、ブランディングであれば、セールスフォースはアウトドアや国立公園のようなイメージを大事にしている。また、ブランドの浸透については、社内で多くのミーティングなどをしてしっかり共有するようにしている。ここにもCEOが深く関わっている。

では、どんなフィーリングを私たちが共有しているかというと、私たちの成果として、どこかの会社の売上が20%増えた、というようなニュースは、もちろん大事だけれども、でも数字をただ価値あるものと捉えるというのはセールスフォースのブランドとは異なるんだ。その成果を上げるのに際して、どんな人がどういう働きをしたのか。成功を勝ち取るために努力した人のストーリーを聞いて、どうやって、会社に、社会にインパクトを与えたか、そういった人への共感を大事にするのが私たちだ。

例えば、地域の小規模なお店の人が、セールスフォースを使うようになり、コミュニティ全体の動き方までをも変えていった、というような話は、社会に大きな違いをもたらしている。そういう成功こそが、楽しい成功だと思うんだ。

 

Q:これからのマーケターに求められる人材要件はなんだと思うか?

A:よく言われていることではあるが、マーケティングとテクノロジーは切っても切れない関係になってきているので、マーケターがデータベースのコンセプトや、アナリティクスやレポーティングの意味合いを理解できるようにならないといけない。

マーケティングにおけるテクノロジーの活用とその進化は大変なスピードで進んでいるので、アドテク、メールマーケティング、機械学習など、利用しているツールの種類や使われている技術は混沌(こんとん)とした状態になってきている。メディアも多様化が激しく、さらに拍車がかかっている。例えば、とあるソーシャル・メディアの扱いが重要だとなったら、そのメディアのオーディエンス・モデリングの癖を理解した上で、アドテクがどうなっているのかも把握した上で利用しなくてはならない。

一人ですべての細かい技術を抑えることはできないし、アウトソースするべき仕事もたくさんあるけれども、テクノロジーで何ができて何ができないのか、それはどうしてなのかはマーケターが理解していなくてはならない。

よく、取引先が「それは、できません」と言うことがあると思う。でも、なぜできないのかは仕組みを知っているとわかる。本当にできないのか、それとも、本当はできるけどやり方を思いつかないのか、もしくは、大変だからやらないのか、などがわかる。状況に応じて、相手に動いてもらうためには、自分が理解していないと相手の言いなりになってしまう。だから、マーケターのテクノロジーへの理解が、必要なのだと思っている。

 

エリック氏の話は、マーケティング業界全体の傾向から、セールスフォース自体のブランドにまでおよんだ。その中で浮かび上がってきたのは、まさに、マーケティングは愚直にやるべきことをやっていくことが重要、ということであろう。丁寧にブランド戦略を作り、それを浸透させ、ブランド戦略に基づいた戦略的なカスタマージャーニーを作成して、データを使ってそれを回していくことが、飛躍するセールスフォースの原動力なのだと感じた。

今回のDreamforceは17万1千人を集めた。サンフランシスコのダウンタウンでも、セールスフォースはひときわ目立つビルを本社としている。大企業から街の商店まで幅広い顧客を抱え、快進撃を続ける原動力は、愚直で王道を行くマーケティングにあるのだな、と思わされたインタビューであった。

 

記事執筆者プロフィール

グロービス経営大学院大学 准教授/声楽家 武井涼子(Ryoko Takei)

グロービス経営大学院大学 准教授/声楽家 武井涼子(Ryoko Takei)

声楽家とマーケターのマルチキャリアを歩む。電通、外資系広告代理店でブランド戦略、インタラクティブ戦略を。その後、FIFAマーケティングを経て、コロンビア大学でMBAを取得。帰国後は、マッキンゼーを経てウォルト・ディズニー・ジャパンに転職。現在、グロービス経営大学院大学で准教授、及びファカルティ本部主任研究員。著書『ここからはじめる実践マーケティング入門』 (ディスカヴァー21社)は日本説得交渉学会の学会賞を受賞。 その一方、数々のコンクールで入賞を果たす声楽家でもある。オペラでは『魔笛』(侍女)『ラ・ボエーム』(ミミ)『こうもり』(ロザリンデ)「不思議の国のアリス」(女王)等に出演。コンサートでは「二期会サロン・コンサート」や国際連合本部での日本歌曲コンサートなど国内外で活躍。CD「日本の唄~花の如く」(opus55)東京大学卒業。東京二期会、横浜シティオペラ、日本演奏連盟会員。

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