Googleの3H戦略を再考する

2017/12/08
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文:大下文輔

Googleは、2014年に3H(またはHHH)コンテンツストラテジーを打ち出し、日本においても相応の影響を及ぼした。例えば、動画に注力しているパナソニックにおいても、動画コンテンツ制作には3Hの考え方を取り入れている。本稿では、3Hの考え方について再整理してみたい。

3H戦略のあらまし

3H戦略は動画をマーケティングに取り入れようとする企業が増加の兆しを見せた2014年にGoogleがその考え方を流布した。その内容は、2015年6月に、Googleのビジネスマーケティング統括部長の石井哲氏が、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー上で紹介している。ダイジェストしてみると次のようになるだろう。

  • 情報の民主化が起こり、企業が一方的に消費者をコントロールできない時代になった。
  • そうした環境下で、ブランドが発信するメッセージは、消費者にとって価値あるコンテンツとして興味あるものでなければならない。
  • そのためにはターゲットとなる消費者のインサイト、すなわち気持ちの中味を理解する必要がある。
  • それらを踏まえ、GoogleではYouTubeの視聴傾向を分析し、YouTube視聴者が好む動画の種類を分類し、企業・ブランドにとって役に立つであろう3つの方向性に整理した。
  • その3つがHero、Hub、Helpの3つである。YouTubeの動画から導いたものではあるが、あらゆるコンテンツに応用の利く考え方である。
  • HEROは、「多くの人が持つ、人間の普遍的な欲求を刺激するもの」である。多くの人が共感し、誰かと共有したくなる(共有という行動を促す)。
  • HUBは、「ブランドが対象とするターゲットが身近に感じる世界観や価値観を意識したもの」である。
  • HELPは、例えば検索を通じて、「消費者の顕在化したニーズに応える」ものである。
生活者の興味関心を捉えるコンテンツ 出典:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

生活者の興味関心を捉えるコンテンツ
出典:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
(※画像クリックで拡大)

もう少し端的に3H(による動画)とは何かを本田哲也氏が解説している。HEROは、一言でいえば「ブチ上げ動画」、大きな話題性があって、たくさんの人が見るようなもの、HYGIENE(HELPの旧称)はHEROの真逆で、地味なお役立ちコンテンツであり、ノウハウ物のようなもの、そしてHUBはHEROとHYGIENEの間を埋めるもので、YouTuberとの企画ものであり、新しい視点を消費者に提供するという点で重要であり、PRにも近い、というのが本田氏の見解である。

3H戦略の今:YouTube動画配信のフレームワーク

現在、Googleの中ではYouTubeをどう使うかという観点で、上述の3Hの定義はそのままに、それぞれのタイプ別特性に応じて、プログラミング(配信スケジュール)を設定する際のフレームワークとして位置づけられている。YouTube Playbookに収められたこちらのページが、現在Googleが用意している、ハウツーも含め、もっとも整理されたドキュメントだと思われる。英文だが、そこの事例を見るとより理解しやすいと思う。

これは、YouTubeというチャネルのみならず、他のメディアでも利用可能である。大きく言うと、次のようになる。

HEROは、新製品発表や大規模キャンペーンに絡めて投入するものである。そのイベントが決まったら、キーとなる単語をGoogle Trendsを使ってトラックしよう。当該イベントの前に補完的な動画によってプレバズ(イベント前のSNSシェアなど)を喚起し、イベントを盛り上げよう。投票、ランク付けなどどのようにユーザーに関与してもらうかを考えよう。SNSへのポストやオフライン広告などを利用して、動画単発にならないように注意しよう。

HERO動画で、どのようにストーリーラインを構築していくかは自由で、例えば、1話完結型でなく、複数の動画のシリーズにもできる。Googleとしては、ビデオの長さによる3種類(Bite/Snack/Meal)を消費者の関心度合いに応じて使い分けることを提唱している。Bite(つまみ食い)は10秒未満でキーメッセージのみ、Snack(おやつ)は10秒~30秒でキーメッセージの意味を伝える、Meal(食事)は、30秒以上で、テレビコマーシャルで伝えきれない部分も付加して伝える。

HUBは、編集スタイル(一目であれだ、とわかる個性的で強いビジュアルやトーン)を決めて打ち出し、年間を通してコンスタントにリリースを続けるべきである。大事なのは一貫性である。一貫性は、動画リリースのサイクル、フォーマット、イントロや締めなどの要素にわたって保たれるべきである。一貫性によって、ユーザーの期待感やロイヤリティ、馴染みや安心感をもたらすことができる。

HELPは”always-on” すなわち消費者が検索などを通じて、「見たい」「知りたい」といったニーズに応えられるよういつでもアクセス可能な状態で置かれておくべきものである。HEROがPush型のコンテンツであるのに対し、HELPはPull型コンテンツである。Google Trendsでどのようなコトバが流行っているか、あるいは定常的によく検索されているのか、などを押さえておこう。重要なのは「発見されやすさ」である。見つけられやすいようにタイトルやタグの工夫を行おう。

マイクロモーメントとEncounter(遭遇)の問題

動画配信のスケジューリングから見た3Hのタイプ分けはスッキリしてわかりやすい。しかし、これは基本的には動画という形式(そしてYouTubeというチャネル)を固定した考え方であり、石井氏が示した消費者インサイトベースの考え方と趣を異にする。そのことが関係しているかどうかわからないが、現在3HはGoogleとして積極的に打ち出していないようである。

Googleには消費者インサイトベースのコンテンツ戦略を含むマーケティングの考え方として、マイクロモーメント(micro-moments)がある。マイクロモーメントとは、消費者が何かをしたいと思ったときに、モバイルデバイスを手にする瞬間のことを指す。動画コンテンツの配信においても、モバイル機器に向かうユーザーのコンテクスト(どこで、何に関心を持っているか)を今、この瞬間に捉えて対応することが重要になる。事実、冒頭にあげたパナソニックでもモーメントを意識して、発信タイミングをコントロールしているとしている。

マイクロモーメントを意識したものの例として、すでに報告した石井龍夫氏のプレゼンテーション中に採り上げられた事例がある(記事中では事例は割愛した)。髪型が崩れることを女性が気にするタイミングは梅雨時であるとつきとめ、自社サイトに同社の商品であるリーゼの梅雨対策のコンテンツを載せ、同時に各県ごとに、梅雨入りになった日から広告動画の冒頭に「~県は梅雨入りしました」といった動画を載せ、自分の地域で梅雨入りがらみの検索があったときを捉えて個別の動画送信を行うようにした。

マイクロモーメントの考え方は、2004年にP&GがFMOT(First Moment of Truth)の考え方を打ち出したことに端を発する。消費者の購買決定は、店頭に並べられた商品群を見て3秒から7秒でどれを買うかを決める、それをFMOTと呼んだ。
そして、2011年にGoogleは、消費者はサーチやSNSを通じて何を買うかを決める瞬間があるとし、それをZMOT(Zero Moment of Truth)と呼んだ。
ZMOTの考え方を、モバイルファーストのライフスタイルに合わせ、購買行動だけでなく、(購買につながるような)アクション全体に拡張したのがマイクロモーメントだと言える。
情報過多で、消費者の注意の持続時間が短くなっている、思い立ったらすぐ購買行動へとつなげることもできる(リアルな店舗でなくても買いやすくなっていること)、モバイルの浸透により、カスタマージャーニーが直線的でなくなったことなどが、マイクロモーメントの背景にある。

3Hのタイプ分けと併せて、消費者がブランドと関連した行動を起こす瞬間をいかに捉えるか(例えば特定の検索用語を見るなど)を考え、コンテンツ発信のタイミングをHEROにぶつけたり、HELPに配置したりすることが有効だろう。

その場合、重要なのはコンテクストを捉えて、コンテンツとEncounter(遭遇)するように計らうという考え方である。これはリーチ拡大や認知の増大ありきの発想とは異なることに注意したい。

2014年~2015年にかけての動画の立ち上がりの時期を考えれば、本田氏が上出の記事で書いているように、3H戦略は動画の役割を類型的に示すことで「バズってドカン」のために動画を使おう、というステレオタイプからの卒業を促すという点で一定の使命は果たしたように思う。
2017年の今、3Hを使うなら、動画配信のフレームワークとして活かしつつ、マイクロモーメント的なユーザー行動の発想を併せて使うことが求められるといえよう。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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