エンゲージメントエコノミーというビジョンで進める統合マーケティング

──マルケトの『MARKETING NATION SUMMIT 2017』報告

2018/01/19
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文:大下文輔

マーケティングオートメーション(MA)ツールのリーダー企業であるマルケトが、年に1回ユーザーや潜在顧客など、同社製品を中心としたコミュニティのマーケティング担当者を主な対象として開催する『MARKETING NATION SUMMIT』。日本での開催は今年で3回目を迎えた。MAツール自体の歴史が浅いにもかかわらず、その発展には目覚ましいものがあり、このイベントへの参加者数も年々増えている。その基調講演で語られた同社の取組について、主にその理念であるEngagement Economy(エンゲージメント・エコノミー)を中心に報告する。

エンゲージメントエコノミーの時代に勝ち抜くために

キーノートスピーチで登壇したのは、マルケトの本社CEOのスティーブ・ルーカス氏と、同じく本社の戦略担当 シニアバイスプレジデント、TKケーダー氏である。2人とも、今年のテーマである、エンゲージメントエコノミーの理念について語った。主としてルーカス氏のスピーチをベースとしてダイジェストしてみよう。

スティーブ・ルーカスCEO

スティーブ・ルーカスCEO

世界はありとあらゆる形で変わってしまった。10年前に誰が、20億人以上のアクティブメンバーからなる、1つのソーシャルネットワークで結ばれると想像できただろう。われわれのコミュニケーション速度はかつてないほどのスピードで、そしてソーシャル、モバイル、チャット、メールなど、さまざまな形でコミュニケーションするようになった。だが、マーケターとしての仕事はまったく変わらない。それは、人を刺激し、興味を引き、動かすようなストーリーを伝えること。しかも、適切なタイミングで、適切な場所に、適切な方法で行うことだ。そのような個々人が関心あるストーリーを、何百万人という人に対して、どうやって伝えていけばよいのだろう?

変わったのはテクノロジーばかりではない。情報量の増加によって、顧客の期待や態度、行動も変化した。例えば、たくさん送られてくるメールも、次々にゴミ箱に入れたり、購読を止めてしまったりする。それは自分に関係ないものだからだ。そうした態度は、BtoBの購買担当者においても変わらない。ワンダーマンの調査では、「私」を理解し、大切にしてくれるブランドだけを検討すると答えた人が79パーセントもいるなど、いくつかのデータで裏付けられている。必要なことは、それがBtoBであれ、BtoCであれ、1人ひとりに対して、パーソナライズされた情報を届けることである。それを何百万人に対して、メールを送り、ソーシャルメディアやモバイルで一気に愛着を生む(engage)ことができるのが、マルケトの提供するサービスだ。

情報が大量に送られてくるため、人々の注意が及ぶ範囲が狭くなる。われわれマーケターは、顧客や潜在顧客や購買担当者に対してエンゲージメント(与えられた情報によってもたらされる、ブランドに向けての好意や関心)をより価値あるものとして築き上げなければならない。

学校で習ったファネルはどんどん通用しなくなっている。なぜかというと、カスタマージャーニーが直線的でなくなっているからだ。今の購買担当者はメール、ソーシャル、イベントなどいろいろなジャーニーをたどって情報を仕入れる。だから、われわれが仕立てたジャーニーを強いるのではなく、彼らのジャーニーを理解する必要がある。

エンゲージメントエコノミーとは、人々をエンゲージすることのすべてである。マーケティングするのではない、エンゲージするのだ。マーケターとしてわれわれは顧客のあらゆる経験のポイントで、あるいは購買担当者のあらゆるジャーニーのポイントでエンゲージする方法を模索しなければならない。

そして、エンゲージメントエコノミーにおいて、マーケターは量ではなく価値を打ち出していくことが大事だと強く思うことが必要だ。

マルケトは、エンゲージメントエコノミーで勝ち抜くための、簡潔な公式を用意している。
それは、次の3つのステップをたどる。

  1. よく聴くこと(Listening)–情報を収集する
    ユーザーに接触できるあらゆるチャネル(顧客接点)を通じて、顧客の声を注意して繰り返し聴くこと
  2. 学ぶこと(Learning)–気づきを与える
    購買担当者の声を分析し、どのような情報が彼らにとって価値があるか、あるいは障害になるかを理解すること
  3. エンゲージすること(Engaging:好意や関心でブランドにつなげること)–顧客体験を設計する
    Listeningしたデジタルチャネルを介してユーザー、顧客や見込み客をつなげること

マルケトのエンゲージメントプラットフォーム

マルケトはマーケターがエンゲージメントエコノミーで勝ち抜くためのテクノロジーとして、新しい「エンゲージメントプラットフォーム」を導入した。

(※画像クリックで拡大)

プラットフォームの基盤となるのは、顧客が誰で、どのアカウントに対してマーケティングをするのかを理解するための、顧客データとIDのデータベースである。昨年から個人データとは別に、マルケトで力を入れているABM(アカウントベースドマーケティング)に向けて、アカウントプロファイルも新たに加えた。

このデータベースの上に、3つの主要なエンジンを置いている。1つ目はマーケティングオートメーションのエンジンで、Listening、Learning、Engagingを自動化するものである。2つ目はアナリティクスエンジン、3つ目はマルケトとして新規のAIエンジンである。

このプラットフォームに沿って、eメールエンゲージメントアプリケーション、セールスエンゲージメントアプリケーション、ABMアプリケーションなどマルケトのさまざまなエンゲージメントアプリケーションが利用可能だ。そして、エンゲージメントプラットフォームでは、700ものパートナー企業が、マルケトのオープンプラットフォームに向けて、マーケティングテクノロジー業界最大のエコシステムを構築している。

AIに関して言うと、マルケトは(Google Cloudとの提携により)『Content AI』という新しいテクノロジーを提供している。Content AIはマルケトのアプリケーションを使い、聴くこと、学ぶことを通じて理解した、顧客が求めているものに合わせて、メールやウェブサイトなどのコンテンツを逐一パーソナライズすることができる。そして、顧客の嗜好(しこう)が変われば、コンテンツはそれに合わせて適宜組み替えられる。マルケトは『Content AI』に投資していくことで、「どの顧客にターゲティングするのか」「どの広告を出すのか」「どのオーディエンスにするのか」といったマーケターを悩ませるさまざまなことをAIで解決していく方向である。

われわれはすべてが一新され、スピードが増して行くエンゲージメントエコノミーという世界に突入した。人はそこで、個人としてエンゲージされることを望んでいる。それに向けて、マーケターは適切なタイミング、場所でメッセージを届け、ストーリーを語ることをしてゆくべきであると信ずる。

ツールベンダーは、ビジョンでリードし、エコシステムを作る方向にある

以上がルーカス氏の講演内容のサマリーである。エンゲージメントエコノミーは、当初、経済の仕組みをさすコトバかと思っていたのだがそうではない。エンゲージメントエコノミーとは、テクノロジーによって加速度的に物事が動いていく世界そのものを指している。経済原理と言うよりは、エンゲージメントが重要となる世界(経済圏:エコノミー)という意味のようだ。

今回のMarketing Nations Summitを通じて感じたことは、ツールベンダーのあり方として、Adobe SymposiumでAdobeが示した方向性と大筋において共通していることだ。それを一言でいうなら、単体のツールとして磨きをかけるよりは、オープンプラットフォームを提供し、トップが示した明確なビジョンに沿って、さまざまなパートナー企業とともに、統合的なマーケティングツールとしてのエコシステムを作って勝負をかけるというやり方である。世界的な大規模企業に対応できるような大がかりな仕掛けを作りながら、中小企業に対しては、必要なコンポーネントをアソートして提供する、という方法をとっている。

マルケトも、マーケティングオートメーションのツールベンダーという殻を破っている。それが証拠に、ルーカス氏の講演中、プラットフォームエンジンの1つとしてマーケティングオートメーションに触れた以外に、オートメーションについて言及することはなかった。

今後は、マーケティングの対象となる顧客には、パーソナライズすることで価値が生まれる。そのためにAIを活用しようという考え方は、ごく自然な流れだと思われる。それが実用化しつつある中、マーケティングはいよいよ本格的なOne to Oneの時代に足を踏み入れたように思う。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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