成長に伴う痛み

――2017年のデジタルマーケティングを振り返る

2018/02/02
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文:大下文輔

インターネットの中立性撤廃

デジタルマーケティングの発展は、インターネットの普及進展とともにあったことは疑いない。そのインターネットは、オープンで中立、そして非中央政権的だとほとんどの人が思い込んでいた。
だが2017年12月半ば、米国FCCはその中立性を撤廃する決定を下した。インターネットの下では誰もが等しくその恩恵に浴することができるというイデオロギーが崩れることで、ビジネスにどのような影響を及ぼすか、これからいろいろ取りざたされることになるだろうが、中長期的に見てインパクトは少なくないだろう。

オープンであるべきインターネットにグレートファイアウォールを設けて、国家的な検閲システムを敷き、政治的な中央集権システムによる言論統制をインターネット上でも可能にした中国が、巨大な市場を囲い込んでビジネスにおける成功企業を輩出させているのは何とも皮肉だ。
この中国のインターネットの特徴は、権力による監視機構によって、管理統制が行き届いており、利便性と引き替えに個人情報がありとあらゆる局面でデータとして記録されることで、(権力側から見れば)透明性の極めて高いネットワークである。
共産党の一党独裁という特殊な体制だが、この透明性の高さと(言論統制による)秩序が保たれる中、シェアリングエコノミーや、キャッシュレス社会といった社会変革につながる動きが急激に進んでいる。
こうした動きがわが国でも注目をされるようになったのが2017年の特徴だっただろう。その中国では、非中央集権的で匿名性も高い仮想通貨は法的に通貨として認められず、取引所は厳しく規制を受けている。

広告主が無警戒・無関心でいられなくなる時代に

年末に東洋経済が、「ネット広告の闇」を特集した。ここで闇と呼ばれているものには、大きく言って3つある。
1つはアドフラウド(広告詐欺)と呼ばれる、広告表示やクリック数の不正な水増しによって広告費用を搾取すること。
もう1つはビューアビリティ、すなわちディスプレイに広告が視認可能な状態で表示されているかどうかの問題。業界にビューアビリティ確保の統一基準がないことも知られている。
最後に、ブランドセーフティ。アダルトを含む公序良俗に反するコンテンツと同時に目に入ることや、そうしたコンテンツを数多く含むサイトへの出稿により、ブランド価値を毀損(きそん)する恐れが生じる。

こうした広告の闇と呼ばれるものは、一言でいえば広告取引の不透明性を意味する。その背景には広告取引の複雑さや、需給バランス(質のよい広告枠の取り合いと、質の低い広告枠の供給過剰)の問題なども絡む。
アドベリフィケーションによって、視認性や配信サイトの確認などもある程度はできるが、アトリビューションモデルなど、複雑な取引はさらに複雑化していて、結局はイタチごっこになっているという関係者の指摘もある。
さらには、広告主の代理店任せと無関心、そして数字しか見ない、という態度も良く聞こえてくる批判である。

フェイクニュース、情報漏洩、詐欺など、インターネットを巡る負の側面はインターネットにビジネス、利害という要素が付加されるようになって起こってきたもので、それは一種の成長の痛みに近いと筆者は感じている。
そうしたものと向き合いつつも、そこに次々と生まれる新しい可能性によってさらに進歩が生まれるというのが「テクニウム」の性質だ。

2017年の冒頭に記したような「アカウンタビリティとエシックス」の必要性は確実に高まっている。

データは集まっている。ただし、CSPはまだ

同じ2017年の年頭には、CSP(Consumer Side Platform)の進展に対する希望的観測を述べた。消費者データは確実にさまざまなポイントで収集が進んでいるのを感じるが、それが果たしてConsumer Sideのものとして活かされる機運があるかというと、まだまだそこまでいかない、というのが正直な見解だ。

消費者データの収集が進み、顧客理解を進めようという動きは着実なものとして感じる。マクドナルドオイシックス花王、その他2017年に取材したケースはさまざまな形で、顧客理解を進めながらその打ち手を探っている。
顧客理解をどうするか、についてはそれぞれが抱える製品特性や、マスマーケティング時代の調査ノウハウといった資産を活かした独自のものになっていること、幅広いコミュニケーションが視野に入っていること、そして最終ゴールとしてのブランディングや売上拡大やROIの改善などを見据えて行われていることなどが特徴である。

複雑化と人材不足

デジタルマーケティングの浸透に伴い、一層深刻さを増しているのがあらゆる層での人材不足である。
例えば、広告のメディアプランはオンライン/オフラインのメディア連携が必要となる。そうすると、メディアプランの複雑化が起こり、メディアの費用配分(Budget Allocation)や効果指標の設定が難しくなる。
さらに、各種メディアやディスプレイサイズが複雑化すると、作るクリエイティブも多様化を免れ得ない。動画広告一つとってもテレビ、PC、スマートフォン、デジタルサイネージなどの種類の増加の他、秒数もどのようにするかも考えないといけない。
メディアをどう使うかはコミュニケーションデザインに基づいて決まるわけだが、メディアプラン上重要なのは空間(コンタクトポイント)だけでなく時間的な配置があり、さらにその中でクリエイティブの当てはめがある。
加えて、費用配分で問題になるのは、クリエイティブの制作費と媒体費用である。これだけ変数が増えるなかで、何を効果指標にし、どのように進めていくのかは、専門性もそれなりの経験も必要となる。
それを広告主としてエージェンシーをパートナーに据えて渡り合っていくとなると、一筋縄ではいかない。さらに、エージェンシーをデジタルメディアとマスメディアに分断してしまうことで、それぞれが利潤追求を動機として動いてしまえば、ここでも最適なBudget Allocationは阻害される。多様なメディアの理解と、効果指標の設定や、クリエイティブの良し悪しの判断がしっかりできる人材を探すことも、育成することも容易ではない。

人工知能利用の萌芽

ディテールの複雑化は、最終的な情報の縮約を必要とする。ツールによるダッシュボード化は進行しており、ツールはさまざまな機能を包含し、統合化されてきつつあるが、まだまだ使いやすいレベルにある、とはいえないようだ。だから、ツールの導入に対しても、人材不足の中で、コンサルテーションビジネスの活躍余地が生まれている。
そうしたツールの進化にあわせ、ABM(アカウントベースドマーケティング)も徐々に浸透しているようであるが、2017年に特筆されるべき動きとしては、人工知能(機械学習)が、マーケティングにおいて使われはじめるようになったことである。Adobe Senseiや、IBM Watsonのマーケティング利用などがその例だが、今後もこの流れは止まることはないだろう。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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