人材不足への対応と個を意識したマーケティング

――2018年のデジタルマーケティング

2018/02/09
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文:大下文輔

マーケティング人材の社内育成化の流れ

デジタルデータがビジネスのあらゆる局面に入リ込むことにより、マーケティングの対象領域が格段に拡がった。昨年紹介されたデジタルマーケティングの定義による対象領域は、従来型のマーケティングに加えて、ECチャネル、サプライチェーン、ロジスティクス、テクノロジーなどを含んでいる。
そして、デジタルマーケティングの肝心要がデータドリブンな(データに基づく)意思決定である以上、売上につながる最重要のマーケティングリソースは、いうまでもなく自社データである。

以前指摘したように、マーケティング上の喫緊の課題の1つが人材不足である。
この問題の解決に向けての一手段は、パートナー企業に機能の一部を代替することではある。しかし、外部に依存する部分が多くなればなるほど、非効率や不都合が起こる。
何よりもマーケティングが経営の中枢と不可分になるに従い、経営者とマーケティング担当者間の「文化」の共有が求められる。文化とは自社の目指すもの、経営観の理解、業界や競合他社に対する認識、自社製品・サービスへの愛着やプライド、意思決定プロセスや組織行動の特性などを含む。
そこには固有の「コトバ」が使われることも日常的だ。そして自社製品への深い理解(表に出しにくい要件も含め)、得られる社内情報の鮮度や各部署へのアプローチのしやすさがある。

そうしたことを考えれば、自社で新たなマーケティング領域に適応したスタッフを獲得・養成するのが理にかなったやり方であることに異論はないだろう。個人ですべてを兼ね備えることは難しいにしても、必要とされる知識を一通り身につけることを目標した人材養成が求められており、そうした人材が外部のコンサルタントやエージェンシーをコントロールする存在としても必要になってきている。

データドリブンによる意思決定のための、サイエンティフィックなアプローチは、従来型のマーケティングの知識を土台として備えた上で、デジタルマーケティングの基礎となるデータ処理と解釈が正しくできること(必要な統計的知識)と、さまざまな定性的手段(例えば個別の行動トラッキング)を組み合わせたインサイト導出に明るいことなどの能力を必要とする。
また、マーケティングの主要な部分は、戦略的思考を駆使して構築されたシナリオに基づく消費者へのアプローチであるから、マイクロモーメントの見極めやカスタマージャーニーの理解、そしてそれらのコンタクトポイントなる、レガシーメディアを含めたメディアの特性理解が求められる。
さらに、情報発信の効果効率に影響するアドテクノロジーや、セグメンテーションについてのツールに関する実践的知識、さらにはクリエイティブの良し悪しを判断できる能力など、理想像を追い求めれば世界的に見ても極めて稀少な人材となる。
得意不得意を補えるチームをどのように育成するのか、そうした体制構築をHRの人と一体となって動けるようなCDO(Chief Digital Officer)やCMOもまた、極めて少ないだろう。それは、とりもなおさず人材育成こそが、企業としてのマーケティングパワーの生命線を握るポイントであることを示しているし、それを支援できるような教育の分野にもビジネスチャンスがあることを意味する。

One to Oneへの傾斜

マスマーケティングを志向する企業も、オペレーションの効率上マーケティングターゲットをマスとして見るけれども、以前からユーザー個人を意識しないわけではなかった。
現在では、ターゲットとしてのマスがどんどん多様化し、小さな集団(花王のコトバで言えば「スモールマス」)として捉えたほうがマーケティングの効率性につながることや、またそうしたスモールや個人で捉えた方がマーケティングの効果効率に有効であることから、マーケティングは個人を捉え、LTV(生涯価値)の向上を目指している。
個人を同定し、コンタクトポイントをまたいだ動線で行動をトラッキングして行くことが、不完全ながら徐々にできてくるようになってきている。
例えばTVの視聴者としての個人が、スマートフォンを持ってリアルな空間でどのような行動をしているかなど、あるいは自社製品のエンゲージメントのあり方をモニターできるように、ということで次々と個人に対するアプローチが可能になってきている。
1990年代前半に初めてOne to Oneが提唱された段階では、(特殊な例を除いて)実践方法を持たなかったものが、テクノロジーの進展でようやく実現の兆しを見せてきたことには感慨深いものがある。ABMも基本的にはOne to Oneアプローチである。

LTV重視の傾向は、所有することの価値が、借りることや共有することで充足される形に変貌し、契約形態としてサブスクリプションが根づくことと関連している。マーケティング努力の多くは、新規獲得に比べて、エンゲージメント強化と離脱防止をより重視するようになるだろう。

自社固有のデータを含め、個人単位のデータ取得にマーケティングコストをかけることになるだろうし、個人に向けたマーケティングの効果指標として、ROC(Return on Customer)などが採用されるようになるかもしれない。

テクノロジーが挑むコンテクストの見極め

適切な相手に、適切なタイミングで、行動のトリガーとなる情報を提供する、というのがマーケターの目指すところである。適切なタイミングを知るには、情報を届ける相手が置かれた状況を知ることが必須になる。
言い換えれば、適切なタイミングとは、適切なコンテクストの下で、と同義であると言える。コンテクストをさらに分解すると、場所、時間帯、天候、誰といるか(1人か)、何をしているか、気分はどうかなど、多くの変数が絡み合ってくる。
そうした中で、いかに相手の状況をリアルタイムで捉えられるか、あるいは、このタイミングならという洞察(梅雨入りの昼休み、誕生日の前の夜、初日の出の少し前)の得やすいものをつかみ取るかが、顧客に「私を知っている」という感覚をもたらすことにつながり、エンゲージメントを高める上で重要な要素になるに違いない。

残念ながら、今のところ一般に開放されていないが、日本でも昨年末に発売されたスマートスピーカーや、スマートフォンによる音声検索データは、リアルタイムのコンテクストを知る上で最も優れた手段の一つだ。
今何を知りたがっているか、したがっているかが検索内容から推察され、それが同様にどこにいるか(スピーカーなら自宅であること、スマートフォンならGPSでわかる)、どんな気分なのか(音声のリアルタイム解析)がわかる。

コンテクストの見極めが充分行えない状況でも、広告などの情報提供を有効にするためには、媒体の環境に馴染んだコンテンツ広告を磨く、というやり方になるだろう。その意味で、存在を強く主張するポップアップ型の広告はブラウザでブロックされることもあり、下火になるだろう。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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