価値づくりの未来を見るレンズ

──トライバルメディアハウス主催「熱狂ブランドサミット2017」レポート 後編

2018/02/16
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文:大下文輔

「われわれは、知らず知らずのうちにかけているレンズがあるのです」と一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授の藤川佳則氏は語る。世界を見るレンズをかけ替えることで、価値づくりに関わる見え方、考え方が変わる。

トライバルメディアハウスが主催した『熱狂ブランドサミット2017』レポートの後編は、『サービス・マネジメント|「価値づくり」の未来』と題された講演をお届けする。

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 准教授 藤川佳則氏

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 准教授 藤川佳則氏

価値づくりの背景にある地殻変動:SHIFT、MELT、TILT

世界を変える地殻変動ともいうべき3つの大きな流れがあり、そしてそれがモノやサービスといった企業が提供するものの実態にどのような変化を生んでいるかをまず捉えることが重要だ。そのうえで、価値づくりを見通す3つのレンズ(ものの見方のメタファー)を紹介し、そのレンズをかけ替えることで実務に携わる人が、所属する企業などが提供するビジネスの価値づくりの未来を考えてみよう、と呼び掛けるのが講演の主旨である。

数十年単位で起きている、3つの大きな地殻変動であるが、これはすでに報告したように、SHIFT、MELT、TILTの流れである。

SHIFT(シフト:移行すること)は、いわゆるサービス化の流れである。産業構造を第1次から第3次までの3分類で捉えてみると、どの国においても例外なく第3次産業の割合が増えている。

MELT(メルト:溶解すること)は、端的に言えば既存の産業の垣根がなくなることである。後述するように、モノづくりの企業が、モノにサービスを付帯させてあらたな価値づくりを行う、あるいはサービスの企業がモノ(ハードウェア)を作るという例もMELTの例である。

TILT(ティルト:傾斜すること)は、中国やインドの経済的台頭が示すように、モノやお金や人の流れが北緯31度(日本でいうと鹿児島県佐多岬)を境にして、それよりも南にどんどんと流れていく事象を指す。

ところで、講演ではこれらの変化を視覚的に確認できる方法として、学校教育でも使われているギャップマインダーを使って説明された。(使い方は例えばこちらを参照)

図1.3つのレンズ

図1.3つのレンズ
(※画像クリックで拡大)

グッズドミナントロジック(GDL):第1のレンズ

さて、藤川氏は講演の冒頭で、デジタルによって破壊される経営論理の例として、アバス・メディアの上級副社長(当時)のトム・グッドウィンがTechCrunchに寄稿した記事の例を挙げた。
それは、「興味深いことが起きている。2015年、世界最大のタクシー会社であるUberは1台もクルマを保有せず、世界最大のメディアオーナー企業であるFacebookは1つのコンテンツも生み出さず、世界最大の小売業であるAlibabaは1つの在庫も持たず、世界最大の宿泊サービス提供業者であるAirbnbは1つの不動産をも所有していない」というものであった。

何が興味深いかというと、「価値づくり」という観点からすれば、われわれが知らず知らずのうちにかけているレンズの存在がそこに見出されるからだ。
それは、タクシー会社なら、タクシーと運転手という経営資源が価値づくりには必要で、それによって顧客にサービスを提供する、あるいは、ホテル経営なら、建物や部屋や従業員という経営資源を動員してサービスを提供し、それに対する対価を支払ってもらう。
すなわち、バリューチェーンが、川上の活動から川下の活動まで1企業やグループ内で整えられ、消費という終端を持つということでもある。このレンズがもつ、重要な2つの前提は、「価値を作るのは企業であり、お客さまではない」ということと、「バリューチェーンの終わり(消費)以降には、価値が生まれない」ということである。

企業が経営資源によって、モノかサービスを提供し、価値を作るという前提をもつレンズが、グッズ・ドミナン・トロジック(GDL)と呼ばれるものである。そこでは、モノか、モノでないサービスか、が明快に区別されている。

例えば、サッカーボールという商品(グッズ;モノ)は、サッカーボールの原材料を加工して流通を通してお客さまに届けられる。スポーツ用品メーカーは、その商品を開発し、製造し、流通、販売、マーケティングを行い、顧客に届けら(販売さ)れ、ここで一連のバリューチェーンが完結する。

サービス・ドミナント・ロジック(SDL):第2のレンズ

アディダス社が2014年に発売したマイコーチ スマートボールは、見た目は普通の5号球と変わらないが、中に加速度センサーが組み込まれている。それにより、キックスピードや回転数、飛行軌道などのデータを、アプリケーションを通して取得できるようになる。同時にそのデータはアディダス社側で蓄積される。
このボールを使う顧客は、自分のキック、シュートを改善しやすくなるという便益を得るし、アディダス社には、そのデータを利用して新たな価値創造のチャンスが生まれる。すなわち、価値の源泉はボールというモノの販売に限定されず、それが使用される段階で生成されるデータを活用したサービスにも拡がる。例えば、プロリーグの公式球となった場合のさまざまなデータは新たなBtoBのビジネス価値を持つ可能性が出てくる。
ボールというモノの使用が新たなサービスを生みうるということである。そして、顧客と企業の価値共創を繰り返し行う機会が生まれることは、バリューチェーンが販売時点では終わらず、ずっと続くということを意味する。

また、もともとはモノを作っていなかったGoogleやAmazonがモノを作る(例えばAIスピーカーなど)という反対の方向に向かうこともある。いずれもモノを媒介としたデータによる各種サービスに繋がる。

このように、価値づくりがモノとサービスの区別がなくなった状態で続く場合、それらをすべてサービスだ、という考え方に置き換えて見るのがサービス・ドミナント・ロジック(SDL)というレンズである。

図2.LENS1とLENS2の比較

図2.LENS1とLENS2の比較
(※画像クリックで拡大)

マルチサイド・プラットフォーム(MSP):第3のレンズ

価値共創の相手が複数にわたると、その価値が多様化して、価値獲得の選択肢が増える。そのように、「複数の顧客グループ間のインタラクションを可能にし、価値創造を図る技術や製品・サービス」のことをマルチサイド・プラットフォームという。これが第3のレンズである。
例えば、Airbnbというサービスは、当初は部屋を「貸す側」と「借りる側」という二つの市場を相手に提供されるツーサイド・プラットフォームとして立ち上がったが、利用者の増加に伴い、ある地域の部屋の稼働率をデータ化できるようになると、これがその地域の飲食業や観光業など異なる市場への送客に結びつくようになると、「ツーサイド」が「マルチサイド」になる。

このマルチサイド・プラットフォームの例として、講演で説明された興味深い例が、LifeStrawという商品である。
これは、直径2.5cm長さ22.5cmの筒に吸い口をつけ、浄水用のフィルターを詰め込むことで、99.9999%バクテリアやサルモネラ菌を除去して水を浄化できる。だから、飲用に適さない川の水や泥の水などもこれで吸い込んで飲めば1000リットルまでは安全に飲むことができる。

これをGDLのレンズで商品化すると、キャンプ用や災害向けの商品として成立する。実際にAmazonなどでも約2,600円で売られている。その場合、日常使用されるものでなく、相応の値段がするため、ニッチな商品になってしまう。

飲料用の水を水道から簡単に手に入れられない人は、地球規模で10億人おり、彼らにこの商品の機能の需要がある。しかし、その場合、価格は2,600円と、必要な人にとってはあまりにも高い金額である。GDLのレンズをはめたままでは、それがボトルネックになって、商品化はできない

しかし、LifeStraw社はアフリカのケニア(TILTにあるように北緯31度以下の地域)で、80万世帯約400万人の人を対象に無料で配った。
それにより、この製品がなかった時代に比べて、身近にある泥水などが飲めることで、遠い距離まで歩いて水をくみに行く必要もなくなるとともに、滅菌のために煮沸する必要もなくなって日常生活に大きな変革が生まれた。煮沸の必要がなくなることから、そのための樹木の伐採も燃焼も必要がなくなった。このことから、伐採と燃焼によってもたらされていた二酸化炭素の削減量が計算される。
国際機関から二酸化炭素削減の取り組みとして認可されることで、LifeStrawは企業(あるいは個人)に対してオフセット・クレジットの販売やその取り組みへの寄付を集めることが可能となり、利用者から料金徴収することなく、日用品としての用途を拡大し、事業として成立させることができた。

すなわち、LifeStrawの「価値づくり」を考えるにあたり、GDLというレンズを外し、SDLやMSPのレンズに掛け替えることで、利用者・国際機関・カーボンオフセット利用企業という複数の異なる顧客と価値共創を図るプラットフォーム化したといえる。このように、価値共創の相手を複数に拡げると、価値創造と価値獲得の選択肢を増やすことができ、いままでにない「価値づくり」の可能性を作り出すことができる。LifeStrawという、インターネットやデジタルテクノロジーとは直接関連のないような事業においても、このように可能性の拡大を図ることができる点が注目に値する。

以上が藤川氏の講演の要旨だが、価値づくりという観点から、今ある商品を使ってどのようなビジネスが可能かを、レンズをかけ替えによって、より考えやすくなる、との理解が本講演の価値だったと言える。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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