パートナーとしての広告会社

――ビズリーチ・電通共同開催セミナー「急成長企業の新時代マーケティング戦略とは」レポート

2018/06/15
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文:大下文輔

ビズリーチは、HR×Tech(ヒューマンリソースとテクノロジーの融合)を事業の中核概念に据え、企業の採用や人材活用を支えるビジネスを展開している。
2009年の事業開始以来、順調に成長を遂げ、昨年2017年11月に発表された日経NEXTユニコーン企業調査で、第6位の企業価値評価推計値を得ている。

同社では、2016年2月にテレビコマーシャルの放映に踏み切ったことがビジネスに貢献していることを実感しており、その取り組みの経験を公開すべく、2018年1月30日、電通と共同でセミナーを開催した。

登壇したのはビズリーチの執行役員でマーケティング統括の中嶋孝昌氏、電通のチーフプランナー浦崎永純氏、以前よりビズリーチとマーケティング領域のパートナーとして関わりCMプロジェクトプロデュースを行ったのはDistant Drums代表永田大輔氏である。

テレビコマーシャル実施の背景

テレビコマーシャルの放映開始は2016年2月から。中嶋氏によれば、それまでオフラインの広告を実施した経験はOOHなどであったが、思うように結果が出なかった経験から、マスメディアの利用には懐疑的であった。

当時のビジネス課題は2つあり、まず「ビズリーチの成長曲線を上げたい」ということであった。ウェブ広告はやっているものの、カバーするマーケットを拡げて成長のスピードを上げたい、というものである。
もう1つの課題は、「toB(企業クライアント)のリード獲得を推進し、契約の流れを増やしたい」ということである。知名度や実績が足りず、攻略できていない企業にアプローチすることで、新規リードを増やしたいというものである。
この2つの課題克服を目的としたコミュニケーションを実施するために、永田氏はカバレッジが広く、リーチ獲得の費用対効果の高いテレビコマーシャルの実施をすすめた。

プロジェクトの発足時、永田氏が強くアドバイスしたことは、パートナー選定にあたって、「競合コンペの実施をせず指名する代わりに、レベルの高いスタッフの参画を要求する」というものであった。
そこで中嶋氏は、旧知の企業にテレビコマーシャル実施にあたってどのようにしたかなど、詳しくヒアリングした上で、社内検討をし、永田氏のアドバイスを受け入れることにしたという。
結果として電通から、希望にかなう人材をスタッフィングできた。

クリエイティブの企画

TVコマーシャルという費用のかかる施策の実施にあたって、広告主はついつい欲張って「あれもこれも」といろいろな役割を1本のコマーシャルに盛り込もうとし、結果として伝えたい内容がストレートに伝わらないという非効率を生む傾向がある。
課題解決のために、永田氏が主張したのは、toB(採用企業)のリード獲得という目的に沿って、ターゲットオーディエンスを採用企業に絞り込むことであった。また、採用企業にこんな風に感じて欲しい、という本音を女性社員のアテレコによるモノローグで表現することにした。
また、大事なことを丁寧に伝えることを優先し、コマーシャルの長さを、当初は30秒オンリーとすることにした(筆者注:30秒CMは、15秒CMの倍の料金がかかるが、クリエイティブインパクトは2倍に満たないことと、Frequency(露出頻度・本数)が下がるため、この決断には勇気がいる。)。

コピーは「即戦力ならビズリーチ。中途採用でもいい人材に出会えます」というUSPを盛り込むこととした。ウェブ広告では、例えばデータベースを直接参照可能といったスペック回りに強みがあったが、TVコマーシャルで伝わる特性を見つけるために議論を重ねた。

永田氏によれば、演出プランを考えていたときに、ビズリーチの取締役から「何か象徴的なポーズを入れてみたいですね」というコメントがあり、それを取り入れて生まれたのが人差し指を立てるポーズで、テレビコマーシャルで使われたあと、他のメディアでも象徴的に使われている。

メディアプランの策定

メディアプランを担当した浦崎氏から語られた内容は、極めてオーソドックスなものであった。

CM放映の枠取り(ゾーニング)はターゲットオーディエンス(男性 25-59歳)の視聴効率を意識して選んだコの字で、日曜日午後を厚めに取るやり方。日曜日にCMを見たことが、職場での話題になるだろうという仮定による。
浦崎氏によれば、TVCM出稿とサイトアクセスをひも付けるツールにより、週末と月曜日のビジネス効率(企業クライアント登録/GRP)の良さは立証されているそうだ。

出稿量は、図2に示した通り、投下GRP(=延べ視聴率)と認知率(および予算)の関係から、認知効率が鈍化し始める1500GRPとした。また、局選定は電通のデータを利用して東京の2局に集中して出稿することにした。

広告主によるTVCM出稿への備え

TVCMの出稿をすることで、ビズリーチは何が起こるかを予想し、それに対する準備を行った。要約すれば、マーケティングの全体設計を見直し、細部をやりきることだ、と中嶋氏は言う。

具体的には、CM出稿に伴う流入経路別の導線を見直して工数見積を行い、それに見合った人材配置を行うこと(例えば、インバウンドコールの増加に備え、臨時に営業外の人にも対応してもらうなど)がある。
他にも、申込フォーマットの変更を含むウェブサイト/ランディングページの刷新をし、A/Bテストを繰り返して効果の高いものを採用したり、法人向けのスマホサイトを設置したりした。クロージング用の法人担当者向けのセミナーを新たに始めたりもした。
特筆されるのは、こうしたあらゆる局面でTVCMのビジュアル素材やキャッチコピーに込められたUSPを使って、ブランドとしての統一感が強化されたことだ。

そして、SalesforceとMarketoの組み合わせを中心としてリードジェネレーションからナーチャリングのシステムを刷新した。

こうした一連の作業が、TVCMの放映という1つの施策と連動して行われたことが課題としていた「ビズリーチの成長曲線を加速する」「toBのリード獲得を増やす」ことにつながった可能性は極めて高いと言えよう。

図1.CM投下量と認知率の関係(シミュレーション)

図1.CM投下量と認知率の関係(シミュレーション)

図2.CM放映開始に合わせたマーケティング準備

図2.CM放映開始に合わせたマーケティング準備

TVコマーシャルの効果

中嶋氏によれば、ビズリーチはROASによって広告効果を管理しているという。中嶋氏の提示したROASの式は、

広告経由による売上÷広告費×100

という形だが、特殊なケースを除いてこれは原理的に確定できない。「広告経由による売上」を特定できないからである。
例えば、CMを放映している時期に、テレビで社長がインタビューを受けて話題になったことが、売上に対して広告とどのような関係で貢献しているか判然としないなど、売上にはさまざまな因子が複雑に絡み合い、それが時間軸で変化することも加味すれば、きれいに分離できないのである(多重共線性と呼ばれる因子の相互作用は頻繁に起こる。また一般的に定義されているようにROASを 売上総額÷広告費×100 とした場合も計算がしやすくなっただけで、広告の効果が不透明であることには変わらない)。

そこで、ビズリーチでは何らかの方法で「ROASを推計」しているそうである(一定期間における基準となる売上(Base Sales)を設定し、それを超えた売上増加分(Incremental Sales)を「広告経由による売上」と定義しているようであるが、詳細は不明)。

ROASを管理指標としてビズリーチが採用する意味は、広告の目的を売上増加においており、広告がその目的に照らしてどうかという視点を持つことになるからだ、と中嶋氏は言う。

ROASによる効果検証はさておくとしても、TVコマーシャルが明らかな効果を生んでいることは登壇者が示した次のような変化によってわかる。

まず、転職希望者の認知率がCM開始前の9%から64%(2016年11月時点)に大幅増加し、業界の2大競合に続く地位になった。また人事担当者の認知率も同時期に56%にまでなった。知名度が上がったことで、アウトバウンド営業の効率がアップした。同時に、さまざまな企業とのパートナーシップが強化された。
toCの効果も上がり、新卒や中途採用者の応募増加につながった。
さらに、社員や社員家族へのモチベーションが上がった。
こうしたことは、肌感覚でわかることであり、確かな効果として関係者には伝わったことだろう。

広告会社の力を最大限に利用

浦崎氏も永田氏も、ビズリーチとの仕事は非常に進めやすかった、と強調した。
その理由を挙げると、まず、トップの明確なコミットメントがあること。自身が納得し決断したことについては、経営者として責任を取るということを南社長は折りに触れて明言したという。
また、ビズリーチでは担当者が最終的な意思決定者を連れてきて、クリエイティブの内容について膝詰めで議論できるような風通しの良さも印象的だったとのことである。クライアントの会社全体で意思疎通が良くできていること、提案に耳を傾ける姿勢が、広告会社としてはよりよい提案をすることに集中できたということのようだ。

筆者は、先述したように広告主がテレビ広告以外のコンタクトポイントを、ブランド価値を効果的に向上させるような形で連動させていった背景には、広告会社からのアドバイスが大きいのではなかったかと推察する。テレビ広告は1つのきっかけに過ぎず、それを梃子(てこ)にしたマーケティング諸活動の整備こそが、広告会社とチームを組む最大の恩恵ではないかと思う。

*追記:なお、同じ制作チームが手がけた、ビズリーチの運営する、挑戦する20代の転職サイト「キャリトレ」のCMが5月19日より放映されている。

 

イベント名:ビズリーチ・電通共同開催セミナー!『急成長企業の新時代マーケティング戦略とは』
日時:2018年1月30日

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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