3つのAに焦点を当てたマーケティング

――Advertising Week Asia 2018 レポート(前編)「マーケティングを変えるGoogleの機械学習」

2018/07/06
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文:大下文輔

マーケティング、広告、テクノロジー、クリエイティブなどについての大規模なコンベンションであるAdvertising Week Asiaの3回目が、2018年5月14日から4日間で開催され、13,000人以上の来場者で賑わいを見せた。

その中から、Google提供の2つのプレゼンテーションを前後編に分けて紹介したい。前編は機械学習の広告への応用、後編は実店舗基点のマーケティングだ。

Google 検索広告/UX ソリューション スペシャリスト 統括部長 水谷嘉仁氏

Google 検索広告/UX ソリューション スペシャリスト 統括部長 水谷嘉仁氏

機械学習の位置づけ

最初に、機械学習の位置づけを整理しておく。まず、AI(人工知能)は機械を賢くすることを目指す研究分野である。その進化を支える技術の1つが機械学習だ。
その中でも、最近話題になっている手法がディープ・ラーニングと呼ばれるものである。ディープ・ラーニングを使うと、ネコならネコの写真を「これはネコの写真だ」ということを人間があらかじめ教え込まなくても弁別することができる。すでにGoogle フォトでは、自分が撮った写真を「トレーニング」「筋トレ」などのさまざまな言葉で検索すると、それに応じた写真を提示するようになっている。また、Gmailのスマートリプライという機能は、受信したメールの内容から、それに合った返事を機械学習によって予測して提示し、2タッチで返信が完了するように実装されている。また、Google翻訳も、機械学習によってどんどん精度を上げている。

機械学習を広告に活かす3つのA

機械学習を広告にどう活かしていくか、その考え方として、3つのAを拠り所(よりどころ)にするとわかりやすい。3つのAとは、Audience、Automation、そしてAttributionのことだ。この3つを組み合わせて、相乗効果を高めるやり方をGoogleではSmarter Togetherと呼んでいる。

まず、Audience(オーディエンス)であるが、従来は性・年齢など非常にシンプルな属性のみ判別可能だった。しかし、オンラインのデータが蓄積されることで、より細かな属性について扱えるようになった。
例えば、顧客セグメントを指定すると、機械学習によって、その顧客セグメントと同じように行動する類似ユーザ(Similar Audience)を特定することができる。

続いて、Automation(自動化)について。
限られた予算の中でいかに効果を最大化するかを目指し、広告の入札などこれまで労働集約的に行っていたものを自動化する。それにより生まれた時間は、戦略的な分析や目標のチェックなどに割り当てることができるようになる。
例えば、ホテルの検索広告において「ホテル 最低価格保証」といった広告のキーワードだけで入札しているものを、スマート自動入札の機能を使うと、どのような地域で、どのようなタイミングで、どのような人がコンバージョンする可能性が高いかを機械学習によって探り出すことで、オークションの入札単価設定をより適切に、最適化することができる。
また、入札だけでなく、広告の配信もDSA(Dynamic Search Advertising:動的検索広告)がある。DSAは、従来、このランディングページにはこのような検索ワードで来るだろう、という担当者個人の思い込みによって運用されていたものを、機械学習によって、検索行動をしている人が、より関連性の高い検索用語で、より効率的にランディングページに来るように運用することが可能になる。

そして、Attribution(コンバージョンへの貢献度を決めること)である。
これまでのAttributionは主に、コンバージョンへのラストクリックを中心に考えられてきた。これはビジネスにつながるアクションを起こす直前のクリックをもたらす刺激、すなわちその時に見ていた広告の優劣を判定する。
しかしそれは、例えばサッカーやバスケットボールなどのチームスポーツで、最終的にゴールした選手にのみ注目し、それ以外の役割を持った選手の活躍を無視するようなものだ。
Attributionは、サッカーに例えれば、パスを回したり、ドリブルで斬り込んだりするなど、ゴールに至るまでの過程も含めて、それぞれの選手の貢献度を可視化する手段だ。
機械学習を利用することで、最初の検索から、さまざまなコンタクトポイントで接する情報(広告)によって、それぞれがコンバージョンに至ったり、コンバージョンに至らなかったりする確率を計算し、それぞれの広告やキャンペーンの貢献度を測る。 機械学習にもとづくアトリビューションはDDA(Data Driven Attribution)と呼ばれ、会社ごとに固有のモデルを生み出す。

DDAによってどのような人がどの広告でどのタイミングにコンバージョンに至るかを特定できるので、それをスマート入札により、それぞれのAudienceに対してどの広告をどのタイミングで提示するかを最適化できる。その連携がSmarter Togetherだ。Smarter Togetherによって売上を倍増した例もあるが、肝心なのはデータの量と質である。

機械学習をビジネスに取り入れたホテル予約サービス

水谷氏から説明のあった機械学習を実践的に取り入れているのが、Loco Partnersが運営するRelux(リラックス)という高級ホテル・旅館の予約サービスだ。
Reluxのビジネスモデルは、楽天トラベルやじゃらんと同様の顧客とホテルのマッチングであり、宿泊予約に対して、ホテル側から手数料を徴収することで成立している。
最大手の同業者が20,000件以上の宿泊施設を扱っているのに対し、Reluxは、一般宿泊者のレビューではなく、審査員が統一基準で独自に格付けをしたホテルを約1,000件程度に厳選して絞り込んでいるのが特徴だ。

サービスの開始は2013年で、今年2018年3月に5周年を迎え、現在6年目。
そのマーケティングの変遷を見ると、初期にはSNSを活用した。当時は今より更に件数が少なく、より高級で宿泊料金も高額なホテルが中心であったのだが、絞り込んだターゲット層にアプローチでき、Reluxの美しい写真を見せることを考えればSNSとの相性は良かった。また、刈り取り、最終的なコンバージョンを中心にした購買ファネルの下側は、大手競合の得意とするところであったため、競争の軸をずらすという意味でもSNSを使うやり方によって大きくビジネスは伸びた。
しかし、狭いSNSのみの活用では、徐々にビジネスが頭打ちになってきたため、2年ほど前から、ファネルの下側への強化に注力し、SEMによるラストクリックの最適化を行った。
ここから、Googleとのコラボレーションが始まった。そこでも一定期間の成長のあと、鈍化に見舞われたが、その打開を果たすべく、今年からラストクリック中心のマーケティングから、機械学習による統合的なマーケティングへと大きく舵(かじ)を切ることにした。

Loco Partners 執行役員 プロダクト統括部長 宮下俊氏

Loco Partners 執行役員 プロダクト統括部長 宮下俊氏

3つのAの適用

まず、Audienceだが、新規と既存の顧客に分けている。既にReluxの会員になっている人のデータを活用し、機械学習によって類似ユーザーを探すという方法によって新規顧客を開拓している。言い換えれば、既存顧客の検索行動に近いユーザーに対してリーチを強めている。既存顧客に対しては、リマーケティング、すなわち再度の利用を促すために利用する。

Automationについては、スマートディスプレイキャンペーンを活用した。このスマートディスプレイキャンペーンは、写真とタイトルテキストと説明テキストをそれぞれ何パターンか入稿すると、Googleのシステム側でそれらを自動的に組み合わせ、マーケティングや入札を含めて統合的に行ってくれるものだ。
それまでは、テキストや写真の組み合わせから入札までを、担当者が考えて行っていたものを一気に自動化した。そのことで、マーケティング担当者の工数が一挙に減った。人間のマーケターは、そうして生まれた時間を次のヒットを生むためのクリエイティブ開発や、さまざまな入札のトライアルに利用し、機械学習と棲み分けを行うことで相乗効果を狙っている。

Attributionでは、機械学習を伴うDDAの導入により、ラストクリック中心から、全体最適へとシフトした。Reluxの扱う高級ホテルは、検討期間が長く、カスタマージャーニーが複雑化する傾向にある。機械学習によって得た一例を挙げると、当初は「長野県 温泉」というキーワードによって検索を始めた人が、最終的には伊豆にあるホテルを予約するに到ったケースがある。このようなケースは、人間のマーケターのこれまでの経験ではなかなかたどり着くことができない。Attributionが可視化されそして、なかなか思いつかないキーワードのセットにも入札をすることによる対応もできるようになった。

これら3Aの適用がもたらした事業インパクトは大きい。我々はラストクリックベースでは最適化についてかなり自信を持っていたが、そこから機械学習によって会員獲得コストの低減、コンバージョンレート、会員獲得数のいずれにおいても伸展が見られた。

現在ではGoogle Attributionという、検索行動の枠を超え、SNSやディスプレイ広告などにも及ぶ横断的なAttributionの採用による統合マーケティングを行い、広告全体の予算ポートフォリオの最適化に挑戦している。

実は機械学習導入当初は業績が落ちた。しかしそれは、導入前から機械学習はそれなりの学習期間を要することがわかっており、リスクとして覚悟していたことだった。そして、予想通り一定期間が経過したあとは、成果として結実している。リスクテイクはやはり必要だ。

 

イベント名:Advertising Week Asia  2018
講演名:『マーケティングを変えるGoogleの機械学習』
日時:2018年5月14日

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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