グローバルな消費者理解を求めて

――マーカスエバンズ主催「CMO Japan Summit 2018」レポート1 日産自動車

2018/08/03
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文:大下文輔

各社のマーケティング担当のシニアマネジメントを対象にしたマーカスエバンズ主催CMO Japan Summit 2018が、6月12、13日の2日間、都内のホテルで開催された。

マーケティングの実践的な課題に対する各社の取り組みが紹介されたが、すでにマーケティングは、デジタルかどうかを問う時代から、デジタルマーケティングがマーケティングそのものとなる時代へと変化していることをますます実感した。

今年の発表の中から日産自動車とLIXILの例を紹介したい。

まずは、日産のコーポレート市場情報統括本部 グローバルマーケットサイエンス部 部長の城祐治郎氏による「消費者理解を高めるためのデータマネージメント」と題するプレゼンテーションを取り上げる。

海外の消費者理解が必要な理由

日産自動車 城祐治郎氏

日産自動車 城祐治郎氏

城氏の仕事を手短に伝えると、市場調査、消費者調査を行い、消費者理解を深めてマーケティングの実践部門に届けること、Marketing Intelligence(MI)と呼ばれるものである。
MIの組織は、ヨーロッパ、北米、南米など、地域ごとに置かれているが、城氏の部門は各地域から上がってくるMI情報をグローバルとして束ねている。ブランド調査、顧客満足度調査など実施、分析する他、販売台数予測なども担当している。
定性、定量の両面で調査し、消費者インサイト、フォアサイト(将来への見通し)を提供することが役割だ、とも言える。

日産のクルマは、100カ国以上で販売されており、2017年度の総販売台数は約577万台であるが、海外比率は約9割と圧倒的に海外での売上比率が高い。1975年度は46%であったが、1990年代終わり頃から、ほぼ右肩上がりで海外比率が伸びている。

最近は、中国、インドなど、エマージングマーケットと呼ばれる国々での成長が著しい。
例えば、中国での販売台数が日本のそれを抜いたのが2006年だったが、今では日本の約5倍の販売台数となっている。しかも、1,000人あたりの所有台数は、アメリカ770台、フランス600台、日本590台などと比べると、中国60台、インド20台とまだまだ少ない。
ASEAN諸国などのエマージングマーケットも、今後の成長余地が極めて大きく、目が離せない。

中国のデジタルシフトに見られるように、市場の変化は急速に起こる。また、消費者の変化も著しい。そのことは、さまざまな地域で、消費者をその変化と共に理解しておく必要があることを意味する。消費者理解がなければ、適切なマーケティングも展開できないし、消費者にとっていいクルマもつくれない。

そうした事情に対応するため、海外の地域ごとにMIの組織が存在し、本社のグローバル部門が束ねている。
自動車メーカーとしては珍しく、部署は女性が半分以上を占め、また日本語を話さない外国人も多くダイバーシティ(多様性)に富んでいる。

消費者理解をマーケティングにつなげた例、NOTE e-POWER

まずは国内事例を例に消費者理解をどのように消費者コミュニケーションにつなげるかを示す。日産は2013年、NOTE e-POWERという電気自動車(EV)を投入した。
当時はプリウスやインサイトによるハイブリッドカー戦争と呼ばれる事象もあり、ハイブリッドカーへの注目が高かった。

NOTE e-POWERは、ガソリンとモーターと2つの機構を搭載しているが、ガソリンエンジンは充電池の発電専用で、走行にはモーターを利用する、というものであった。モーター駆動による走りの特性は、アクセルを踏んだときに動作遅延を感じさせず、すぐに動くこと。試乗会などでNOTE e-POWERの走りを体験してもらい、調査で消費者の声を拾うと、「キビキビ走る」といったように体感されている。

日産自動車はMIの消費者分析の結果から、NOTE e-POWERをハイブリッドカーでなく将来的なものを先取りし、走りの特性から来る「電気自動車」独特の楽しさに注目していただけるような車としてポジショニングし、「ハイブリッドカー」という言い方はしないことにした。

消費者データの読み取りには、コンテクストの理解が欠かせない

以前は、MIのデータソースは自主調査が大半であったが、ここ数年でいろいろなデータに接する機会が増えた。ソーシャルメディアなどの非構造化データ、あるいはコネクテッドデータ(インターネットを介したクルマの各種データ)など、その種類、量、カバーする地域などが急激に増えてきたのだ。また、調査そのものもサードパーティデータを使ったものなど、新しいものが増えてきた。

データがあると、それを使わなければいけない、でも使えていない、使い方がわからないといった焦りが起きる。そこで、AIを使ったりして、さまざまな方法で分析を試みたけれども、意味のある結果につながることはほとんどないことがわかった。俗に「Garbage in Gospel Out」(なんでもかんでもデータをぶち込めば、良いお告げのようなものが出てくるに違いない)と信じてやるが、結局は「Garbage in Garbage Out」(ゴミを入れてもゴミしか出てこない)にしかならない、ということを身をもって体験した。

それに加え、もう一つ伝えておきたいことは、消費者のコンテクストをよく理解する必要がある、ということだ。

そのことを表す例だが、あるクルマに「もっと車高を高くして欲しい」という要望が2つの地域から出てきた。
車高を高くするという要望について現地で詳しく調べると、ある地域では雨期になると道路の冠水が多く、地面から床までの高さがないと運転しにくい、もしくはできないという意味だが、他の地域ではこれとは異なり、道路を走っているときに、自分の運転席からの見え方、アイポイントが高い方が安心感や優越感があるということだった。
「車高が高い」と同じことを言っていても、意味している内容がそのコンテクストにより異なるし、その意見を伝える部署も、ソリューションも違ったものになる。そして、現地の言葉をいったん英語に直し、英語が母国語でないもの同士がそれを伝え合うという状況では、ミスコミュニケーションが起こりやすい。言葉やデータを表面的に捉えることの危険性がわかる。

他にも、試乗をしてもらうと、「駐車がしにくい」という意見が運転に自信のない人、不慣れな人からよく出てくる。それがどのようなものなのか、ドライブレコーダーと生体反応(脳波と心拍数バイオメトリック)で検証したことがある。
試乗を2回繰り返し、比較してみると、心拍数や脳波から不安のサインが出て来たのは2回目だけだった。そこで、違いの出た部分をドライブレコーダーの画面で見ると、2回目の方は、目の前にクルマがある状態で駐車していることがわかった。
消費者は、言葉としては「駐車がしにくい」という言い方しかしない。「言葉を言葉としてのみ捉える」ことは、時として正しいソリューションにつながりにくいので、こうした方法で非言語情報を捉えようとした。
表面的に捉えて失敗しないよう、あるいは不慣れな言語での調査結果の扱いを補うためにも、さまざまなやり方を探している。

 

イベント名:CMO Japan Summit 2018
主催:マーカスエバンズ
日時:2018年6月13日

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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