Yahoo! JAPAN事例:国内最大級のデータとAIによる統合マーケティングを目指す

――ad:tech Tokyo 2018レポート(前編)

2018/11/16
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文:大下文輔

広告を中心としたデジタルマーケティングの動向を伝える大規模なコンベンションであるad:tech Tokyo 2018が10月4日と5日の2日間、東京国際フォーラムで開催された。その中から2つのプレゼンテーションをダイジェストしてお届けする。前編は、Yahoo! JAPAN 代表取締役社長CEOの川邊健太郎氏による『データドリブンの本質とマーケティングのこれから』と題したキーノートスピーチをダイジェストして紹介する。

Yahoo! JAPAN 川邊健太郎氏

Yahoo! JAPAN 川邊健太郎氏

人間にはできない「気づき」を導くための3つの要素

2018年1月の新執行体制への移行に関する記者会見で、「Yahoo! JAPANは今後、データの会社になる」と宣言した。本日は、データがどのような付加価値を作り出すのか、それは各社の事業にとってどのような影響をもたらすのか、そしてYahoo! JAPANのソリューションを使うとどのような良いことがあるのかについて話したい。

第4次産業革命と呼ばれるデータドリブン化は、人間では保有も可視化もできないビッグデータと精密で高速な計算によるAI(機械学習)の相乗効果によって、人間の脳では導き出せない「気づき」が得られる。その気づきによって、企業に付加価値をもたらすのだと考えている。

以前から機械学習はあったが、今日ではディープラーニングに負うところが大きい。ディープラーニングは、データ解析のやり方が従来の延長にあるものではなく、新しいものだ。

例えば、画像の特徴抽出について階層を深く切って行うのだが、その特徴を「自動的に」行うことがそれまでの機械学習とは異なっている。また、その計算の速度が過去のものよりも圧倒的に速い。さらに、従来の機械学習は、データ量に大きく依存するものではなかったが、ディープラーニングはAIの性能が、画像、音声、翻訳、言語の解析分野を問わず、データ量が増えれば増えるほどよくなることも特色の一つだ。

以上のことから、データドリブン化の推進に必要な要素を抜き出すとすれば、それは「ビッグデータ」、「ディープラーニング技術」、「コンピューティングパワー」の3つである。

この3点の中で、競争優位の源泉となるのはビッグデータだ。ディープラーニングは基本的にオープンソース化されているし、コンピューティングパワーも、クラウドを利用することによって企業格差は解消される。しかし、ビッグデータはユーザがいてこそのものである。

これらの道具を使って取得したデータを付加価値に変えるには、事業構造をよく理解して、KPIツリーを作り、PDCAを回すやり方、すなわち今やっているやり方にのっとって、そこに「データのチカラを解き放つ」ことでサービスの改善を行っていくことだ。

ディープラーニングの利用で、製品やサービスを改善し複利的な成長につなげる

具体的に製品やサービスの改善につなげるためには、どうするのかということに話を進めたい。

データを使った流れを大きく捉えると、次のようになる。

 1)ユーザからデータを取得して蓄積し、質の向上を図り
 2)そのデータをAIで解析して「気づき」を得て
 3)それをもとにサービスや機能を改善してユーザに届ける

この1)~3)を循環させることは、データからの気づきに基づいた改善を行い続ける「永久成長装置」になるということに他ならない。

図1.気づきを改善につなげるサイクル

図1.気づきを改善につなげるサイクル
(※画像クリックで拡大)

製品・サービス改善のあり方は、機械学習による小さな改善を積み重ねることで「複利的に成長する」。すなわち、成長が加速する。それはYahoo! JAPAN自身の経験で、機械学習の導入後に起こった変化で実証される。

例えばYDN(Yahoo!ディスプレイアドネットワーク)の売上曲線、Yahoo!ショッピングのCVR推移、ヤフオク!のレコメンド経由のCVR推移がいずれも上昇カーブを取っていることが確認できる。

「気づき」を改善につなげた事例

そのような製品・サービス改善につながる気づきとはどのようなものであるかについて、消費者、市場、社会という3つの切り口の事例で示したい。

まずは、消費者の事例から説明しよう。

例えば、子供が生まれたときにさまざまな検索がなされてデータが集まってくる。

「哺乳瓶+XX」の検索を見ると、生まれる41~30日前ごろには哺乳瓶の準備に関する検索が多く、誕生後0~9日の間には哺乳瓶の使い方に関心が移り、それに続く10~29日では旅行へと変化する。

そうした検索による関心の変化を機械学習による気づきとして、Yahoo! JAPANでは出産後の課題に先回りした課題解決の提案、すなわちYahoo!ショッピングやLOHACOといったECの商品レコメンデーションを行うことでビジネスにつなげる。

具体的な例としては、出産後12.8日目では鼻吸い器を、そして30.3日目で出産内祝いの提案を行うことも可能だ。

続いて、市場の事例として、販売予測を取り上げる。

さまざまな新商品で新商品を発売する際、ニュースリリースを行うと検索が一時的に増加するという現象が起きる。

この新商品発売前に増える検索量は、その後の売上と相関があると仮説をたて、過去に発売された商品販売データをもとにモデル式を作成し、「答え合わせ」を行ったところ、的中率は77%だった。

こうした予測も、データの蓄積によって少しずつ確度を上げてゆくことが見込まれる。企業としては、プレスリリース後にどのようなプロモーションを行うかなどの計画に反映することができるだろう。

最後に、社会への貢献についてだが、Yahoo!乗換案内というアプリを用いた例を紹介する。

このアプリはPC時代からあるが、スマートフォン時代になりますますユーザ数を伸ばしている。そして、その特性はリアルタイムで「ユーザの少し先の行動が路線検索の結果からわかる」ということにある。

そこで、大量の検索データを解析することで、この先混雑が予想される路線や駅などがわかる場合がある。

その典型例が夏の花火大会だ。夏の花火大会に行こうと検索している人に対して、混雑回避のルートや時間帯をプッシュ通知で提案したのだが、開封率は平常時の約17倍と非常に高かった上、その通知によって、「考えていたルートを変更した」または「ルートを決定していなかったが、おすすめのルートに決めた」など、行動を変えた人は6割に上った。

こうした行動ログの利用は、今後イベントなどと相性の良いデジタルサイネージや、混雑時のタクシー配車などに応用できそうだ。

オンラインとオフラインのデータ統合によるマーケティング革命

これからのマーケティングにおいてYahoo! JAPANがやるべきことは数多いが、最終的にはオンラインとオフラインのデータ統合によるマーケティング革命につなげたい。

Yahoo! JAPANのオンラインデータの状況をまとめておくと、提供サービス数は100以上、月間アクティブユーザID数は4,000万、月間ページビューは700億、月間のユーザシグナル数(クリックや購買など)は1兆とデータ量が極めて多い。

データの利活用のための基盤強化にも取り組んでおり、国内最大級のHadoopサーバ数の設置や、世界第2位のスーパーコンピュータ「kukai(クウカイ)」の自社開発を行い、結果として秒間200万回のリクエストができる、いわば秒間200万回の気づきが得られるまでに至っている。

このデータを使って統合マーケティングを実現することで、お客さまである企業各社へのさらなるサービスを提供したい。

オンライン的な観点からすると、Yahoo! JAPANは現在4,329万人のアクティブユーザを抱えており、そのユーザの方々は、「何かを知りたい」というモードでYahoo! JAPANにメディアとしてアクセスしてくる人と、オンラインコマースに「買いたい」というモードで来訪する人に大別される。

それらの2つのモードを、IDで統合して、両方にマーケティングのアプローチができるようにしたい。2019年にはそれを具現化し、アスクルとのLOHACOや、Yahoo!ショッピングの集客力とオーディエンスデータを活用した「オンライン販促ソリューション」をリリースして、ユーザの状況に応じた最適なターゲティングが行えるようにする。

一方、オフラインの購買行動データについても、これからさらなる強化を進め、オンラインからオフラインまで、クロスチャネル、クロスデバイス、クロスメディアをYahoo! JAPAN IDでつなぐことで、メディア接触から消費行動までを一気通貫で可視化し、マーケティングを可能にするAudience Unified Marketingを実現したい。

図2.Audience Unified Marketingの概念図

図2.Audience Unified Marketingの概念図
(※画像クリックで拡大)

オフラインデータの強化にあたり、ソフトバンク、そしてインドにすでに数億の会員を抱えるPaytm(ペイティーエム)と共同で、PayPay(ペイペイ)という名のバーコードによるスマホ決済サービスを開始した。

日本にはお金を払う場所が数百万あると言われているが、このすべての場所でPayPayによる決済が短期間のうちにできるようにするという構想を持っている。このPayPayをYahoo! JAPANの広告などとつなげたオフライン販促ソリューションの提供も考えている。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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