東洋経済事例:顧客起点で構築した、出版社のデジタルプラットフォーム

――THE MARKETING NATION SUMMIT 2018レポート(後編)

2018/12/21
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文:大下文輔

THE MARKETING NATION SUMMIT 2018の前編に続き、『デジタルプラットフォーム構築のポイントと戦略的データ活用への発展』と題されたセッションの前半部分、東洋経済新報社 坂野靖弘氏による同社のデジタルプラットフォーム構築事例を紹介する。

なお、同じプレゼンテーションの後半は東洋経済新報社とタッグを組んでいるアクセンチュアによるデジタルプラットフォーム構築に関する戦略的な話であったが、紙幅の関係で割愛させていただく。

東洋経済新報社 坂野靖弘氏

東洋経済新報社 坂野靖弘氏

読者を知ることが出発点

まず、「デジタルプラットフォーム」と社内で呼んでいるデジタルデータを用いたマーケティングプラットフォーム導入の背景から説明したい。
東洋経済新報社は、東洋経済オンラインというメディアを運営しているが、ページビュー数を見ると、2012年から順調に成長を遂げている。けれども、来訪し、閲覧している人たちが、どのような人たちかということについては、ハッキリとわかっていないという課題があった。
もう1つの問題点はデータ管理だった。東洋経済にはオンラインの会員データの他、発行している週刊東洋経済などの定期購読者データや、会社四季報、各種書籍の読者データ、あるいは名刺データや法人顧客データを保有している。しかし、それらがさまざまな場所でバラバラに管理されているという状況にあった。

出版社は本や雑誌を出すと、それを読者に直接届けることをせず、取次ぎに卸し、そこから書店に送るという手順を踏む。そのため、書店から先にいる雑誌や書籍の読者に向けた、プロモーション、プランニング、あるいはブランディングという活動についてはあまり積極的には展開してこなかった。しかし今後、紙媒体以外のビジネスの成長を考えると、戦略的な取組み、マーケティングが必要になってくると考えた。

将来像を描きつつ、デジタルプラットフォームを導入

将来像をイメージしながら、バラバラになっているデータをどのようなツールを使って統合し施策につなげるかということを、自分たちだけで進めるのは難易度が高いということから、アクセンチュアにコンサルテーションを依頼し、2017年4月にプロジェクトを発足させた。

将来的なイメージとして、先に述べたようなこれまでの事情を踏まえて原点に立ち返り、「編集者・出版社起点ではなく、顧客起点で」ということを徹底することにした。アクセンチュアとの取組みは、コンセプトメイキングをしてから、ツールをどのように使うか、どのツールにするかを協議しながら、設計と導入を進め、2017年末に無事本番稼働を果たした。その後、マーケティンググループなどと共に、パイロット的な取組みをいろいろと行ってきた。

顧客起点で何かをするとなると、顧客のことを知ることが不可欠になる。それについて、東洋経済オンラインに来るユーザーについて、以前からまったくわかっていなかったわけではないが、どのような時間に、どんな記事を、どんな人が、何をきっかけに読んでいるのかについて、より精緻にわかるようにした。

また、データがバラバラになっていることに対しては、CRMデータとして統合することにした。自社開発システムで収集したデータの他、各種のデータをいったんSalesforceの中に取り込むようになっている。こちらをリードとしてMarketoと連携を取ったり、あるいはTreasure DataのDMPと連動させたりしている。(図1)

導入プロジェクトで描いた将来イメージ

図1.デジタルプラットフォームの骨格
(※画像クリックで拡大)

データから仮説を組み立てて、施策を打つ

データプラットフォーム構築後に行った例を1つ紹介しておきたい。

東洋経済で運営しているサブスクリプション型のサイトがあるが、そこでは、せっかく入会してくれたのに比較的短期間のうちに離脱してしまうユーザーが一定数おり、どのようにしたら離脱を防ぐことができるかが以前からの課題となっていた。

そこで、それらのユーザーが会員になってから月間の訪問回数はどれくらいあるのだろうか、ユーザーのサイト内滞在時間がどのくらいの長さなのだろうか、サポートへの問い合わせの傾向はどのようなことか、といったユーザーの現状を把握することに努めた。

データを集めてみると、離脱の原因の1つとして、どうやらサイトの利用方法がよくわからず、日数の経過と共に訪問しなくなり、なんとなく止めてしまっているのではないか、ということが浮かんできた。

そこで、離脱を防ぐための施策として、新規会員ユーザーに対し、サイト活用方法を記したメールを配信することで、離脱が防げるのではないかという仮説を立ててみた。

その仮説に基づいて、4回に分けサイト活用方法をテーマにしたメールを、Marketoを使って配信した。段階的な利用方法による4つのステップとしてのコンテンツから、それらの開封率を調べた。すると、他のユーザー向けメールマガジンの平均に比べ、このサイト活用方法のメールは開封率にして平均の3.8倍の高さとなった。
メールを実際に読んだというところまでのデータを取るために、メール内にリンクを挿入することにしたが、メール内リンクを設定し始めた2回目から4回目のデータを他のメールマガジンのクリック率と比べると7倍の高さであった。
ステップメールを送る前と送った後でサイト訪問の率を測ってみるとメール配信後に訪問率が上がったことから、施策の効果があったという手応えを感じることができた。

その結果、われわれが受け取った教訓は、「適切なタイミングで、必要だと思ってもらうことができれば、ユーザーにきちんと読んでもらえる」ということであった。当たり前といえば当たり前だが、身をもってそれを知ることができた。

デジタルプラットフォームの導入後は、「データを活用しよう」という意識の高まりが生まれた。以前には「ああしたい」「こうしたい」という意思に基づいたシナリオ・ドリブンな計画が中心であったが、デジタルプラットフォームによって、データ・ドリブンで考えるということも増えるなど、雑誌、書籍、広告やデータ事業の現場の意識は少しずつ変わってきた。

試行錯誤は今なお続く

とは言え、このような試みは必ずしも常にうまくいくわけではなく、効果を実感できる施策が増える一方で、試行錯誤は続いている。そして、新たな課題も生まれている。
例えば、解析対象のデータボリュームが大きく、可視化が思うように進まない。また、取り組みたい課題は多いのだが、なかなか手が回らない、といったこともその1つだ。

これらの課題を抱えながらも、データの可視化の段階から、ユーザーごとにどのようなサービスが提供できるのかを考える準備の段階に入ってきた。

トップを含め、データ活用の重要性の理解が進み、社内の関係者が同じ方向を向いていると自負している。収益の貢献やサイトの成長はもちろん重要ではあるが、顧客を起点にする!ということが重要であるということを認識しつつ、そのためにはデジタルプラットフォームとそれを構成するツールは欠くことができないと考えている。

今抱えている課題を乗り越えて、最終的には読者にも広告主にも信頼される「パブリッシャー」であり続けたいと望んでいる。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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