『ここらで広告コピーの本当の話をします。』
発行日:2014/11/1
著者:小霜 和也
発行:宣伝会議
価格1,700円(税別)
ISBN 978-4-88335-316-3
文:編集部 K.M
日々、私たちは数え切れないほどの広告を目にする。その広告に書かれた、たった数文字のコピーを何気なく読みながら、時には購買へのきっかけにしている。
では顧客にアクションを起こさせるようなコピーを書くとき、もっとも大切にしなければならないことは何だろうか。とにかく目立つこと? 衝撃的な表現? 意味深な言い回し? 答えは、「マーケティング」である、と著者は説く。机の上で単に言葉をこねくり回していても、良いコピーは生まれない。コピーを書くときにもっとも考えるべきは「USP(競合優位性)」と「ターゲット」である、と。
本書は主に若手コピーライターやコピーライター志望者をターゲットとして書かれている。しかしここまででお気づきの通り、本書は単なるコピーを書くための説明書ではない。マーケティングとは何とやらの若手コピーライターはもちろん、すでにデジタルマーケティングの一環としてコピーを書いている人も、マーケティングの考え方をよりしっかりとコピーに落とし込めるようになることで、いっそう多くの顧客を呼び込む足がかりになるはずだ。
本書の著者である小霜和也氏は、コピーライターやクリエイティブディレクターとして数多くの企業に関わり、いくつもの広告賞を受賞してきた人物だ。PlayStationやキリン一番搾りを手掛け、キリン一番搾りではそのプロモーションを通して昨今の「ご当地グルメブーム」を引き起こした張本人でもある。著者が説くマーケティングの重要性は、そんな数々の実績が裏付けているのではないだろうか。
広告コピーが創造するもの
本書より、例を抜粋してみよう。目の前に水道水を詰めた何らかの容器があるとする。この水が突然あなたの前に差し出され、100円で買ってくれと言われたらどうだろう。当然のことながら水道水なら蛇口をひねればいくらでも出るわけで、それを100円で誰が買うかと思うだろう。
しかしこの水を売りたい。ならばすべきことは、この水についてよく知り、USPを見出すことだ。そうすれば、この水を買ってくれそうなターゲットを特定できるようになるだろう。例えば、この水は容器に詰まっている。ならば「常備水」というのはどうだろう。これがレジの横に置いてあり、POPで「熱中症対策に! すぐ飲める常備水を、お子様の鞄に」などと書かれていたら。100円くらいなら、子どもを持つ母親が買っていくかもしれない。このとき、POPに書かれたコピーにより、ただの水道水は子どもを持つ母親にとって新たな価値を持つことになるのだ。
このように、広告コピーの役割は「モノとヒトとの関係を創造すること」だと著者は言う。本書はこのようなマーケティングの考え方の基本から、さまざまなコピーの表現方法まで解説しており、コピーを形にする上でも十分参考にすることができる。また、言葉の持てる力の大きさを改めて認識でき、仕事に誇りが持てるようになるだろう。
名クリエイターがその人生を通して贈る、若手へのメッセージ
さて、全編を通して著者が若手に伝えたいこと。それは、とにかく足掻け(あがけ)ということだ。著者が言う「足掻け」というのは、良いコピーを生み出すためにマーケティングを学ぶことはもちろん、さまざまな人にインタビューをしたり、商品を実際に使ってみたり、現場に足を運んでみたりしながら、考えて過ごすことだ。著者もそうやって、たった数文字のコピー、たったひとつの広告でより大きな価値を生み出すために、あらゆる角度からアプローチしてきた。締切まで7日間あるなら、6日間足掻き、実際にコピーを書くのは最後の1日で十分なのだという。
「クリエイティブの仕事はワンチャンス」。一度使ったコピーライターが「ダメだ」と思えば二度と使わない、そんな厳しさが広告業界にはあるそうだ。しかし広告業界でなくとも、ひとつひとつの仕事を誰もが認める成果にまで持っていくためには、いつでも「ワンチャンス」という気概が必要なのではないだろうか。
ウェブの台頭で広告のあり方がめまぐるしく変わっていく現代においても、広告コピーの根本は変わらない。コピーを書こうと商品を前にして頭を抱えたときや、自分の書いたコピーが顧客に響かず苦しんでいるときには、この本を読んで原点に立ち返り、改めてコピーとは何なのかを思い出したい。
<目次>
はじめに
第一章 そもそも広告コピーって何
第二章 コピーを「考える」
第三章 そもそも広告って何
第四章 コピーを書く「姿勢」
第五章 コピーライター人生とは
おわりに