『いちばんやさしいコンバージョン最適化の教本 人気講師が教える実践デジタルマーケティング』
発行日:2017/3/1
著者:深田 浩嗣
発行:インプレス
コンバージョンは、あらゆるウェブサイトの運用に必要な概念である。典型的には「購入」のイメージだが、サイトの種類に応じて、資料請求、投稿への「いいね!」のように、売上の発生が伴わないものも含まれる。したがって、まず自分の運営するサイトに沿ったコンバージョンの定義が必要となる。
本書では具体的なコンバージョン最適化の考え方に立ち入る前に、よくある失敗例をいくつか挙げている。手段であるはずのサイト改善が目的化してしまう、指標の設定が誤っていた、仮説立てや検証が行われていない、といった「無秩序な」最適化が何をもたらすか警鐘を鳴らしている。
コンバージョン最適化のための3つの階層
本書によると、コンバージョン最適化は「3層」で理解するべきものである。コンバージョン改善の大前提および課題の選定部分をもっとも広い視点で行う「マネジメントレイヤー」、課題を解消する施策を実施する「プロジェクトレイヤー」、施策を最適化する「コンポーネントレイヤー」という3つの「仮説の階層」である。
この3つの層からなる、コンバージョン最適化のプロセスの全体像を俯瞰的に眺めるための地図として「CROP(Conversion Rate Optimization Process)フレームワーク」が提示されている。
まず、上層「マネジメントレイヤー」の仮説立案にあたっては、サイトの「KPIツリー」の存在が前提となる。KPIツリーは、サイトの主目的であるKGI(Key Goal Indicator / 最重要指標)と、KGIを分解して出てくる複数のKPI(Key Performance Indicator / 重要業績評価指標)から成る。KPIツリーで洗い出したそれぞれのKPIに優先度づけを行うことがこのレイヤーでの作業である。
次に、中層「プロジェクトレイヤー」は、上層で決めた課題に取り組む。各KPIについて、課題の発生要因の分析を行うとともに各要因を解消する施策を洗い出し、解消施策の優先度づけを行う。ユーザーのセグメント化、離脱箇所の可視化、ユーザー心理の探求といった具体的手法はここで登場する。
最後に、下層「コンポーネントレイヤー」は、中層で優先度づけされた各施策において、最適化する個所を洗い出し、その優先度づけを行う。例えば「入力フォーム改善(Entry Form Optimization)」をとってみても、上層の課題を解決するものである場合(この場合EFOは中層の手法である)と、中層の施策の一部にすぎない場合(この場合EFOは下層の手法である)とがある。何のために施策を行っているのか、という全体像が見えていないと、施策の実施が目的となってしまい意味のある最適化ができなくなってしまうので注意が必要だ。
コンバージョン最適化は、これらの「仮説の立案」「施策の実施」だけでは中途半端なものにとどまってしまい、「結果の検証」を経て初めて一つのサイクルが完了する。検証によって「次にどうするか」を考えることができ、上中下いずれの仮説立案プロセスに立ち返るべきであるかが明らかになるのだ。
デジタルマーケティングの劇的な変化と、その中で変わらないもの
末章においては、これからのデジタルマーケティングの方向性について論じている。SNSやスマホアプリ、コミュニティサイトの登場により、企業と顧客の長期的な関係構築が重視されるようになった。また、ハードウェアの進歩により取得できるデータが増加したことで、緻密なコンバージョン最適化が必要となりつつある。さらに長期的にみると、人工知能による予測、クリエイティブ作成、コンバージョン最適化の自動化が考えられるという。
しかしそれと同時に、そのような劇的な変化にもかかわらず、変わらないものがある。それは、「顧客視点でのおもてなし精神」「ホンモノを見抜く客と向き合うこと」「企業の手元にある当たり前を顧客に伝えること」だ。その意味で、上に述べたCROPフレームワークは永久に役に立つものである。最後まで読んで、思わずCROPプロセスの「2周目」を読みたくなってしまう一冊であった。
<目次>
Chapter1 間違いだらけのコンバージョンを正しく理解しよう
Chapter2 コンバージョン改善の失敗事例に学ぼう
Chapter3 コンバージョン最適化を「構造」から捉えよう
Chapter4 サイトのタイプ別にKPIツリーを考えてみよう
Chapter5 対処する課題を適切に決めよう
Chapter6 課題解決のための施策を決めよう
Chapter7 「施策の最適化」に取り組もう
Chapter8 コンバージョン最適化のプロセスを回そう
Chapter9 これからのデジタルマーケティング