ブランドのコラボは何をもたらすか-午後の紅茶×ポッキーが4年続く理由
発行日:2018/2/20
編著:午後の紅茶×ポッキー プロジェクト
発行:宣伝会議

キリンビバレッジ(以下キリン)の「午後の紅茶」と江崎グリコ(以下グリコ)の「ポッキー」のコラボが誕生して4年が経ち、新しい商品が売り場に登場するたびに話題を呼び大ヒットしている。
コラボ企画というものは単発で継続しないとされる中、この2つのロングセラーブランドによるコラボは、どのようにして4年に亘って成功を収めているのだろうか?

今回のプロジェクトチームは、キリン、グリコ、電通の3社で構成されているが、実は、メンバー全員が20代~30代の女性社員たちだ。また、そのメソッドには従来のコラボの姿とは異なる部分が多く見られる。

本書『ブランドのコラボは何をもたらすか-午後の紅茶×ポッキーが4年続く理由』は、そのプロジェクトメンバーたちが、コラボ成功の裏側や秘訣(ひけつ)について、きわめて具体的に描いたものだ。

コラボプロジェクト第4弾のパッケージデザイン (左:キリン 午後の紅茶 アサイーヨーグルティー 右:ポッキー<バナナブラン>) 出典:キリンビバレッジ ニュースリリース(2018/1/18)
コラボプロジェクト第4弾のパッケージデザイン
(左:キリン 午後の紅茶 アサイーヨーグルティー 右:ポッキー<バナナブラン>)
出典:キリンビバレッジ ニュースリリース(2018/1/18)

第一章では、この企画を実現させるまでの背景やコラボの形作りについて書かれている。例えば、両企業の世界観を尊重しつつ、マーケティング部門全員がゼロベースで考える「スクラム・コラボ」を目指すことを決定したことや、メンバーが東京と大阪に分散していたため、全員が揃う貴重な機会である会議で双方の上司に向けた企画プレゼンを行い、その場でジャッジしてもらう「一斉プレゼン制度」という斬新なフォーメーションを取り入れたことなどだ。
このようなルール作りの時点でまったく新しい商品作りが始まっていた。

出典:『ブランドのコラボは何をもたらすか-午後の紅茶×ポッキーが4年続く理由』 編著:午後の紅茶×ポッキー プロジェクト 宣伝会議発行
出典:『ブランドのコラボは何をもたらすか-午後の紅茶×ポッキーが4年続く理由』
編著:午後の紅茶×ポッキー プロジェクト 宣伝会議発行

第二章から第四章にかけては、コラボ企画の第1弾から第3弾の取り組み方が、ウラ話などを織り交ぜながら書かれている。

どの企画においても、3つの要素をコラボのDNAとして基盤においている。

1. 1+1=3になる、マリアージュ味覚計画
2. 店頭でパッとみて目を引く、ペアリングパッケージ
3. 消費者の遊び心をくすぐる、「余白」を残したコミュニケーション

企画ごとにゼロベースで考え直しながらも「過去を超えたい」という共通の思いを持って議論を重ねる。そして固定概念に縛られることのない、職種や業種を超えた発想、さらには女性ならではの感性を活かし、毎年新しいコンセプトとプロモーションを生み出しているのだ。

第五章では、本書のメインとも言える、これらの経験を通じて構成された独自のコラボレーション・マーケティング論が展開されている。具体的に紹介しよう。

目的の設定

まずはコラボを行うことで達成すべき目標を設定しなければならない。その際には、決して効率がいいとは言えないコラボの必要性を理解し、パートナー間でプロジェクトを通して互いに何を得たいのかを共有すべきである。

コラボのバリュー

コラボを行うことで、そのニュース性によりブランドの存在を今一度アピールすることができ、異業種のブランドどうしが手を組むことで流通企業に対する新たな提案もできる。これが成功すればコラボの連鎖も期待できる。
また、コラボ相手と働き濃密な時間を過ごすことで自社の制度やプロセスを見直すきっかけにもなる。
もちろんコストやリスクは付き物だが、それ以上にコラボの価値は十分にある。

コラボ相手の選定

どのようなパートナーと組むかによって、企画をリリースする上で得るものが変わってくることを理解しなければならない(意外性、鮮度、信頼など)。
また、たとえプロジェクトを進行させるにあたり弊害が生じても、柔軟に対応しそのシチュエーションに適した制度を設けることで乗り越える努力をしなければならない。
このようなコラボ相手選出のプロセスは企画の在り方、そして行く末を大きく左右するものである。

コラボレーション・プランニング

どんなに素晴らしいコラボを実現させても、それが売れないと意味がない。そのためには、二つの異なるブランドのものを同時に買おうと思わせるほどの説得力を、商品そのものが持ち合わせていないといけない。消費者にシンプルで面白い商品だと思ってもらう必要があり、メンバーには視点の多様性や柔軟性が求められる。

スケジュールの描き方

ローンチ時期は、プロジェクトの内容と同じぐらいの重要性がある。
どのタイミングでプロジェクトをリリース発表し発売を開始するのか。イベントに重ねるのか、あえてニュースが何もない時期を狙っていくのか。情報の伝達シナリオを踏まえて段階的に計画する必要がある。

打ち上げ花火からの脱却

コラボ企画を単に一過性のプロモーションではなく、新たなブランドとして確立させるためにはどうすれば良いのだろうか。
まずは市場の鮮度をキープすること、さらにはファンを定着させると同時に新規のエントリー層に対するコミュニケーションを怠らないことが条件となってくる。
打ち上げ花火のように花開いてすぐ消えるのではなく、継続させるためにそのコラボに新たな価値を見出すことが必要なのだ。

上記を踏まえ、コラボという方法は以下のような狙いがあるとまとめられている。

A.ブランドの活性化
1. ニュース創出、市場への新価値創造、存在のリマインド
 2. 利益拡大、既存定番品の盛り上げ(対 市場、対 競合)
3. 営業力アップ、流通の販路拡大(対 流通)

B. マーケターへの実践型教育
1. 他マーケター・他ブランド担当者とのコミュニケーション
2. 企業風土・ブランドノウハウの共有
3. 役職を超えた、開発プロセスへの参画

本書でも警鐘されているように、コラボレーションとは、あくまでもブランド戦略を成功させるための「手段」であり「目的」ではない、ということを念頭に置いておくべきだろう。

本書はわかりやすく実例を踏まえて書かれていて内容はけっして難しくなく、マーケティング論になじみのない人でも読みやすい内容となっている。
第五章で展開されるコラボレーション・マーケティング論も、このキリン×グリコの企画の特徴や成功要因、そしてこのコラボを通して著者たちなりに見い出したビジネスの本質が明確に記されている。
また、女性による女性のためのプロジェクトということで、働く女性、これから社会に出る女性にとっては刺激的かつ共感する部分の多い一冊となっている。