2013年にローンチしたアプリ「MUJI passport」は、2015年12月現在、500万ダウンロード、月間アクティブユーザー率は驚異の40%と、スマートフォンアプリとして大成功を収め注目を集めている。
商品がコモディティ化し差異を見つけにくくなってきているなかで、「無印良品」ブランドが愛される理由とは? 「お客様の声」をどう集め、どう活かしているのだろうか? 株式会社良品計画 WEB事業部 部長 川名常海氏によるトークセミナーをレポートする。
「ネットで買って、店舗で受け取る」無印良品のオムニチャネルマーケティング
無印良品はオムニチャネルマーケティングという言葉が普及する前から、それを実践している企業である。店舗・ネットストアの両方で全商品が10%オフになる「良品週間」や、ネットストアの商品受け取りに「店舗受け取り」を追加するなど、ネットとリアル店舗をつなぐ試みを続けてきた。
現在、ブランドサイト来訪者のネットストア購入経験は40%、「店舗受け取り」は全体の5%程度(多い時は10%)とかなりの高ポイントで、1人の顧客がネットと店舗とを行き来する状況にある。
顧客一人ひとりの行動分析を「MUJI passport」が実現
「MUJI passport」は顧客へのインセンティブとしてマイルプログラムを採用。貯めたマイルは「MUJIショッピングポイント」に交換して商品購入などで利用できる。
「MUJI passport」の目的は、企業と人とのフラットな関係性を築くことにある。そのためマイル獲得は、チェックイン、レビュー、改善アイデアの提供(くらしの良品研究所)など、さまざまな顧客のアクションで貯めることができる。もちろん、購入時にもマイルを付与しており、来店客の20%がレジでアプリを提示するという。
顧客は「MUJI passport」で楽しみながらマイルを貯められ、無印良品サイドでは個々人の行動を把握できる仕掛けだ。一般的にはSNSで口コミを調査しても、当の発言者が本当に来店したか、実際に購入したのか、使った感想まで追うことは難しい。しかしマイルと引き換えに得たデータを精査すれば、より確度の高い調査が可能になる。
例としてチェックインのデータ活用方法を紹介したい。有効範囲は店舗から半径600mと、かなり広めに設定されている。そのため、「ある顧客は通勤電車の中から路線に沿ってチェックインしていき、最寄り駅の店舗に立ち寄って商品を購入した(店舗で「MUJI passport」を提示)」といった細かい商圏分析が可能になる。一般的なチェックインは即時的に購買を誘うのが目的であるため有効範囲は100〜200m前後と狭く、このような分析は難しい。
ヒット商品はつねに「お客様の声」から
無印良品の無地布団や機能最小限のシンプル家電は、既存のメーカーの常識を打ち破って今やスタンダードのひとつとなっている。これらヒット商品はすべて「お客様の声」を反映して作られたものである。この点からも、無印良品がアナログの時代から顧客の声を重要視していたことがわかる。
今は、「MUJI passport」からもリンクされている「くらしの良品研究所」サイトで開発・改善のリクエストを受け付け、商品担当者が「検討中、結論まで◯週間程度かかる」「見送りとなったがこちらの商品はどうか」など直接回答する。
記憶に新しい大ヒット商品「体にフィットするソファ」も、「くらしの良品研究所」内で開発されたもの。ネット上では別名「人をダメにするソファ」で話題になり、歴代1位の売上を記録した。
最高のブランド体験は店舗
「無印良品」と聞くと、木・鉄・土などの素材がむき出しで、それでいて温かみある内装を思い浮かべる方も多いだろう。店舗で感じる空気感が無印良品が提示したいライフスタイルそのものだが、この感覚をオンラインで伝えることは難しい。ゆえに店舗での体験を重要視する。
店舗体験を「MUJI passport」で拡張し、その後のコミュニケーションを通してファンになってもらうことで、顧客と長きに渡る関係性を構築していく。
「MUJI passport」をはじめとしたITの活用は、店舗体験を下支えするポジションとなっている。
無印良品はアナログの時代から一貫して「お客様の声」「顧客とコネクトすること」を大切にしてきた。「MUJI passport」が売上アップよりも、顧客理解のツールとしての側面が色濃いのはその姿勢の表れといえる。顧客の声が源泉である無印良品にとって、消費者が商品購入前に口コミをチェックするのが当たり前になった今の時代は追い風になるだろう。
講演者プロフィール
|
|
株式会社良品計画 WEB事業部 部長 川名 常海 (かわな つねみ)氏 92年良品計画入社。04年より現在のWEB事業部に所属。ECサイト「無印良品ネットストア」を担当後、顧客との共創を目的としたコミュニティサイト「くらしの良品研究所」、ソーシャルメディアマーケティングなど無印良品のデジタルマーケティング全体を統括。特にO2O視点でのコミュニケーション展開が評価され、One Show、TIAA、文化庁メディア芸術祭、モバイル広告大賞、Yahoo Creative Award、CODE AWARD等受賞。 |
※この記事は、2015年11月27日に外苑前アイランドスタジオで行われた「無印良品のデジタル戦略と成長ストーリー」トークセミナーでの取材をもとに作成いたしました。
取材を快く受けてくださった川名様、サポートいただいたアイランドの皆さま、ありがとうございました。