2015年はマーケティング、とりわけデジタルマーケティングにとっていったいどんな年だったのだろうか?そして2016年はどこに行くのか?まずは、2014年末から2015年始めにかけて提示されたトレンド予想を振り返ってみたい。

マーケターがもっとも関心を寄せた「コンテンツマーケティング」

まずは、先行指標とも言えるアメリカのオンラインマーケティングの予想を一つピックアップしてみよう。項目を見ていてわかりやすい、Inbound Nowというサイトのブログに書かれた10のトレンドは次の通りである。(BisDBのライター、Isabel Williams氏による寄稿)

1. コンテンツマーケティングの高まり
2. ARとウェアラブルテクノロジー
3. マーケティングアナリティクスが花盛り
4. 過去最大のビデオの隆盛
5. パーソナライズがさらに利く
6. マーケティングノイズがこれまでになく高まる
7. ビジュアル・ストーリーテリングが大賑わい
8. オンライン広告により多額のお金が計上される
9. ハイパー・セグメンテーションとマイクロ・ターゲティング
10. とことんモバイル

これらは、実現・実施状況はともかく、日本でも、ネットでよく取り上げられているトピックである。ここでコンテンツマーケティングが筆頭に挙げられているのは、マーケターの意識とも一致していることが、次の図でわかる。これは、Smart Insightsというデジタルマーケティングのサイトで会員に対して行ったアンケート結果を2014年12月に公表したものである。問いは、「どのマーケティング手段がもっとも商業上のインパクトが大きいか」であり、600人以上のマーケターから回答が寄せられている。

最上位はダントツでコンテンツマーケティング、2位ビッグデータ、3位マーケティングオートメーション、4位モバイルマーケティングと続き、これらが10%以上にある。

 

Most commercially important Digital Marketing Trend for 2015?
(Courtesy of Smart Insights

 

実は2012年、2013年に実施された同じアンケートでも、コンテンツマーケティングは25%以上をキープしている。もっとも落ち込みが激しいのはモバイルマーケティングで、2012年は30%以上の1位であった。一方で、着実に増えているのがマーケティングオートメーションで2012年は5%程度であった。また、ビッグデータは安定的に13%以上を得ている。

試みにGoogle Trendsで「ビッグデータ」と「Big Data」を調べてみると、「ビッグデータ」は2013年半ばをピークに下降気味であるのに対し、「Big Data」の検索件数はむしろ増加傾向を続けている。日本での、ビッグデータの根づき方はこの先どうなるのだろう。

テクノロジーがマーケティングに与えた影響

ここで、デジタルマーケティングを支えているテクノロジーのトレンドを振り返りたい。

ガートナーは毎年、戦略テクノロジ・トレンドのトップ10を特定し、発表している。
同社の広報資料には、「ガートナーは、今後3年間で企業に大きな影響を与える可能性を持つテクノロジ・トレンドを「戦略的テクノロジ・トレンド」と呼んでいます。ここで言う「大きな影響」とは、ビジネスやエンドユーザー、ITに革新を起こすもの、多大な投資の必要が生じるもの、導入が遅れた場合に機会損失などのリスクにつながるものを含んでいます。これらのテクノロジは、企業の長期的なプラン、プログラム、イニシアティブに影響を及ぼします。」とある。

その2015年版を、過去数年分のものも含めて、ZDNetで考察し紹介している。これらのトレンドを見ると、モバイルの影響の大きさや、コンテクストを反映したデータ取得など、マーケティングとテクノロジーが不可分であることが再認識される。アナリティクスは、明らかにビッグデータの使用を前提としたものであり、元の資料をあたると、分析から予測への流れも見えてくる。

 

トレンド表

 

ZDNetの表になかった2011年分を加えて見ると、ビデオが取り上げられている。ビデオは日本ではとりわけ2015年にデジタルマーケティングで目立った項目であるし、冒頭に取り上げたトレンドの第4位に入っている。ガートナー(に代表されるアナリスト集団)がテクノロジーサイドから見てビジネスに重要だ、と指摘したものを企業が検討してマーケティングに採り入れ、数年後に隆盛を迎えるという流れが見えてくる。

つまり、翌年起こりうることの背後には、数年前に注目され、検討されてきたテクノロジーがあり、それが手法、すなわちマーケティングにできること、に影響を及ぼしているということである。テクノロジーの進化変遷は激しく、めまぐるしいと言える一方で、脈々と続く流れも見える。当たり前のことではあるが、2015年のトレンド予測は、2015年のトピックではなく、中長期の流れの一断面だ、ということが改めて感じられる。

この数年の動きを見ていると、企業経営におけるテクノロジー(もしくはマーケティングを含むデジタル技術)のインパクトは計り知れないものがある、と思う。

日本では2015年、どんなことが予想されていたか?

さて、日本での2015年のトレンド予想をいくつか振り返ってみよう。コンテンツマーケティングを2015年のトレンドとして位置づけたものを見ると、ほとんど外資系記事の翻訳だった。その中にあって、メディアビジネスの今後について、長澤秀行氏は「情報プラットフォーム全盛から強いコンテンツが求められる時代になる」と予想した。彼の場合は、メディアビジネスなので致し方ないことだが、コンテンツマーケティングというコトバは、B to Cだけでなく、B to Bでも強く意識されている。冒頭の10のトレンドでも、本文にはそのことがはっきりと書かれていることに注意したい。

AdverTimesに掲載された江端浩人氏のトレンド予想は、スケールが大きい。(1)すべてを包括する“マーケティング4.0の進行”、(2)コンテンツ、インバウンド、MAを集約する次世代オウンドメディアの登場、(3)データ収集・デジタルツールの導入フェーズから活用フェーズへ、の三点である。(1)は極めてユニークな予想だし、(2)も、コンテンツマーケティングやMAの手法ではなく、その帰結としてこうなる、と予想している点が面白い。

注目度の高い業界人間ベムの7つの予想は、いずれも視野が広く、ベムこと横山隆治氏の豊富な経験に裏打ちされた予想だが、『「やっとデジタルが企業マーケティングのど真ん中に入り込み出す年」ということだ。』と締めくくっている。しかし、6番目の予想の中に『某大手グローバル広告主では壁一面のマルチスクリーンで、全国のメディア、SNSでの反応を「リアルタイム」で「全スタッフ」共有を図る。モニターの前には常に数名のブロガー、データサイエンティスト、ディレクターがチームで張り付いて逐次施策を出している。マーケティングダッシュボードの「氷山の一角」だ。』とある。進んでいるところは進んでいるわけだ。マーケティングが細密にできるようになると同時に、扱えるデータ、動かせるフィールドが大きくなり、資金力技術力、組織人材などの違いにより、企業格差(につながるマーケティング格差)が拡大するであろうことが気になる。2015年、その傾向に弾みがついたのだろうか。

 


本稿で取り上げた記事は以下の通り。

10 Online Marketing Trends & Predictions for 2015(Inbound Now)
Digital Marketing Trends 2015(Smart Insights)
高まるクラウドの存在感–ガートナーの2015年戦略的テクノロジTOP10を考察(ZDNet)
情報プラットフォーム全盛から強いコンテンツが求められる時代に(朝日新聞社広告局/長澤秀行氏)
2015年のマーケティングのトレンドを占う(AdverTimes/江端浩人氏)
2015年 広告マーケティング業界7つの予測(業界人間ベム/横山隆治氏)

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。