設立以来16年連続で増収し、現在年商約200億円の食品ネット通販先進企業であり、ここ数年は、累計250万個を販売する「KitOisix」の大ヒットなどでますます注目を浴びているオイシックス

同社では、デジタルマーケティングをどのような考え方のもとに進めているのだろうか?
セミナー主催者のアイランド 代表 粟飯原理咲氏の進行により、オイシックスCMO(チーフマーケティングオフィサー)の西井敏恭氏が最新事例や成功事例を交えながら、その秘密を語った「オイシックス流!次世代デジタルマーケティング実践事例トークセミナー」(2016年9月7日開催)をレポートしたい。

アイランド株式会社 代表 粟飯原理咲氏(進行)、オイシックス株式会社 CMO 西井敏恭氏
アイランド株式会社 代表 粟飯原理咲氏(進行)、オイシックス株式会社 CMO 西井敏恭氏

マーケティングとは、「買いたい気持ちづくり」

粟飯原氏(以降、省略)―オイシックスは設立以来16年連続増収で成長されています。その中心となっているビジネスモデルはどのようなものでしょうか。
西井氏(以降省略):オイシックスのビジネスモデルを簡単に説明すると、野菜などの食品全般を扱っているのですが、メインの事業は定期宅配となります。この定期宅配のビジネスモデルですごく難しいのが、いかに長く続けてもらえるか、いかに1注文あたりの単価を上げるかということ。そこが重要なポイントとなります。

―西井さんはオイシックスのCMOという立場ですが、CMOを置いている企業は海外ではメジャーでも、日本では5%に満たないのが現状です。CMOの役割についてどのようにお考えでしょうか。
代表の高島は「マーケティングとは?」と問われたときに、お客さまの「買いたい気持ちづくり」だと言っています。実際、お客さまと接しているのは現場の方々ですが、会社の組織はそういう人たちからの声がトップに届きにくくなっています。私の役割は多くの部署、多くのスタッフと関わり、ボトム(現場)の声をしっかりと拾い上げること。その声を経営のなかに組み込み、それをどう活かすかを考えることがCMOの役割だと思っています。
実はフルタイムではなく、週2日はオイシックスに出社し、あとの3日は自分の会社の仕事をしています。そのために社内ルールを兼業可能に変えていただきました。オイシックスに出社する日はさまざまなミーティングに出席し、部門横断プロジェクトを進めています。

―KitOisixという新商品が大ヒットしていますよね。
KitOisixは、カットされた野菜や肉、調味料そして、簡単なレシピが入っていて、20分で本格的な料理が作れるというものです。それまで「旬な野菜、安心・安全な野菜」で訴求してきたのですが、そうしたニーズに当てはまらないユーザー、たとえば「もっと手軽に料理したいけど、手抜きの料理は家族に食べさせたくない」といった声を反映して生まれた商品です。KitOisixは、オイシックスを知っていただける入り口の商品として非常に効果的なものとなっています。

―KitOisixの「プレミアム時短」というコンセプトは、ともすれば罪悪感のある「時短」という言葉に「プレミアム」という言葉がジョイントされ、今の消費者の心をよく反映していると思います。
そうですね。KitOisixは毎週、新しいレシピを提供し、お客さまが飽きない工夫をしています。野菜の場合は、たとえば毎週、異なる種類のナスを入れても、お客さまからすれば同じようなナスだと感じてしまうのですが、レシピを変えると楽しんでいただける。そのような状況を作って、ご家族に「いつもより手の込んだ美味しい料理だね」と支持していただけることが重要です。

それと新商品と共にアンケートを必ずお送りしており、毎週100人程の方々が50問位あるアンケートに回答していただいています。そこで評判の悪いものは止めますし、改善にしっかりと活かしています。

新規顧客獲得とLTVの向上、その方法

―オイシックスのビジネスモデルは新規の顧客を獲得して、LTV(顧客生涯価値)を上げていくことがポイントになっていると思います。まずは、デジタルでの新規顧客獲得のアプローチ方法について聞かせてください。
インターネットは、ユーザーが接している時間が短いですし、必ず他社との情報や商品の比較をされます。そこで、競合企業との差別化を図るために、いかに比較されない独自の商品を打ち出していくかということで、オイシックスはまず「お試しセット(通常より安く、無料セットのプレゼント付きなど)」というモデルをベースにアプローチしています。知っていただくための手法としては、ここ数年でアドテクノロジーが活発になっているなか、やはり最低限、リスティング広告、SEO、リマーケティング広告、アフィリエイトは実施するべきですし、次にボリュームをもたせるところはFacebookやYahoo!のインフィード広告などが有効だと感じています。

―「買いたい気持ちにさせる」ために、Facebook広告などのクリエイティブ面で何か工夫をされているのでしょうか。
Facebookを見ているとき、ユーザーは無駄な情報を見たくない反面、特定の情報を得たいと思って見ているわけでもありません。そのような状況では、加工された商品写真にキャッチコピーが入ったいかにも広告らしい広告に効果はなく、いつも友達から送られてくる画像のような“違和感のない広告”が受け入れられるのです。時としては広告効果が20倍違うようなこともあります。
それとFacebook広告はターゲットを選べることも特徴です。オイシックスは定期会員に入会していただけるユーザーに絞ってアプローチする必要があり、たとえば30~40代のお子さんがいる女性だけに広告を出すということができる。とても優秀な広告ですよね。

―ファン育成やエンゲージメント強化によってLTVが上がっていくという相関性がはっきりとわかったとお聞きしました。既存顧客へのアプローチはどのようにされているのか興味がありますね。
今までメールマガジンや広告の積み上げによって売上を作っていましたが、その一部を“お客さまに何ができるのか”というところに主眼を置いたアプローチ方法に変えたんです。お客さま目線でお客さまのして欲しいことを続け、お客さまが嫌なことは止める。お客さまが何を求めているのか徹底的に追求し、テストマーケティングを繰り返しながら施策を積み上げていった結果、LTVが増加したんです。

オイシックス流のデジタルマーケティングについて解説する西井氏
オイシックス流のデジタルマーケティングについて解説する西井氏

徹底的なテストマーケティングを繰り返し、ユーザーの要望を実現していく

―オイシックスはテストマーケティングへの取り組みが全社的にすごくされているなと感じているのですが、施策にデータ検証をどのように組み込んでいるのでしょうか。
オイシックスでは、お客さまの会員番号の下一桁の違いによって、TOPページのUIの出し分けができ、それで1回あたりの注文単価がどのように変わるのかというデータがすぐにわかるんです。これを実際にできているというのはすごいことだと思います。さらに商品カテゴリの見せ方、ヘッダー位置、特集の打ち出し方の違いなど、毎週テストを行っています。今はスマートフォンで注文するお客さまが増え、企業は「スマートフォン対応はしました」というところまではできているのですが、そこで止まっているんですよね。スマートフォンのUIを改善することまでしていないんです。

―お客さまのリアルな声も積極的に取り入れてますよね。
お客さまに会社までお越しいただき、スマートフォンから注文している様子をカメラで撮らせていただきながらお話を聞くことをしています。そうすると仮説とは異なる注文導線が確認できる。それを取り入れ、定量的な検証を行いながらウェブサイト改善など実行をすると1注文あたりの単価が上がるんです。商品開発でもお客さまのフィードバックをしっかりいただいて、PDCAサイクルを回しています。

定性的なところで言うと、お客さまと直接お会いして話を聞いたりしています。代表の高島もお客さま宅に訪問して、リアルな声を聞いています。たとえばあるお客さまが魚を買わないのは、魚が嫌いだからという仮説を立てて訪問する。しかし、冷蔵庫には魚がある。話を聞くと冷凍で届く魚を解凍する時間がないから魚は注文しないことがわかった。事前に仮説を立てて訪問し、その仮説に対して裏切られたことがあると、それはいいマーケティングの手法が生まれる素になるんです。

それと大事なことは、定量データは常に簡単に出せる仕組みを作っておくこと。データから仮説を立て、徹底的なテストアプローチで取り組むことが大事です。

―社内におけるデジタル施策の企画の立ち上げには、どのような工夫をされているんですか。
企画立案に関しては社内共通の設計フォーマットシートがあります。このシートには企画の目的、仮説、提供価値、ターゲットユーザー、KPI、ネクストアクション、スケジュールなどの記入項目があります。この企画立案のフォーマットがバラバラだと議論の論点にズレが生じたり、企画の良し悪しの判断が難しくなったりすることがあるため、同じフォーマット上で議論をすることは非常に大切です。

―お客さまへの提供価値や、ネクストアクションの項目などは特徴的ですね。
提供価値を考えることは非常に大事なんです。たとえばお試しセットランディングページのキャッチコピーや取り扱っている商品などによってお試しセットの購入率が上がったとしても、定期に入る率が下がったりする。お試しセットの購入率が変わらなくても、定期に入る率が上がったりもする。その場合に、どの結果をどう読み取って、次のアクションにどうつなげられるか。そこをしっかり考えられる事が重要だと思います。

もし自分が顧客だったらどうしてほしいか…。自分事化して徹底的に考える

―そうした企画を経て誕生した、最近の施策をご紹介していただけますか。
「ベジテーブル」、「公認アンバサダー」、「ぐでたまデコご飯キャンペーン」があります。

オイシックス 最近の施策例 「ベジテーブル」
オイシックス 最近の施策例 「ベジテーブル
オイシックス 最近の施策例 「公認アンバサダー」
オイシックス 最近の施策例 「公認アンバサダー」
オイシックス 最近の施策例 「ぐでたまデコご飯キャンペーン」
オイシックス 最近の施策例 「ぐでたまデコご飯キャンペーン」

「ベジテーブル」のコンセプトはお客さまの声をコンテンツ化していこうというもので、オイシックスの商品を使った美味しいレシピを紹介したり、お客さまと一緒にバーベキューをするなど、お客さまどうしの横のつながりで情報を共有できるものです。

「公認アンバサダー」は、よりお客さまの声に耳を傾け、商品やサービスに反映していきたいという思いから生まれました。以前からブロガーさんとリレーションを高め、商品を使用していただき、オイシックスの野菜がすごく好きだという方がたくさんいらっしゃいました。そこでアンバサダーを募集し、オイシックスのネクスト商品を先に試していいただき意見をお聞きしています。

「ぐでたまデコご飯キャンペーン」はサンリオの人気キャラクター「ぐでたま」とコラボレーションしたものです。お子さんと楽しんで作ることができ、作った料理をInstagramなどにアップしていただいています。こうした新たな施策によってInstagram投稿などが想像以上に集まり、あらためてファンの方々に支えられているんだなと感じましたね。

―デジタル時代をうまくとらえたプロモーションですよね。コアなファンをいかに取り込んでいくのか、今後のデジタルマーケティングの重要なポイントになるのではと感じています。
私が顧客だったら企業にどのようなことをしてもらうと嬉しいか。自分事化して、どのようにファンを作るのか徹底的に考えること。デジタルマーケティングにおいても、それが非常に重要なことだと考えています。

―本日は、デジタルマーケティングの考え方や進め方に大きなヒントとなるお話をしていただき、ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。

 

登壇者プロフィール

オイシックス株式会社 CMO 西井 敏恭 (にしい としやす)氏

オイシックス株式会社 CMO 西井 敏恭 (にしい としやす)氏

2013年末まで株式会社ドクターシーラボにてデジタルマーケティングの責任者を務めるなど、Eコマースのマーケティングを10年以上。デジタルマーケティングとの関わりは2001年に2年半世界一周の旅にて、人気サイトとなり3冊の旅行記を出版したことから。
2014年7月より起業。株式会社シンクロにて、国内大手からスタートアップ企業のマーケティングアドバイザーを実施しながら、オイシックス株式会社 CMOにも就任。次世代のEC戦略を先導している。

 

主催

アイランド株式会社
https://www.ai-land.co.jp/

「レシピブログ」「おとりよせネット」「朝時間.jp」などの女性向けポータルサイトを運営。これまでありそうでなかった「こんなサービスがあったら、自分たちもみんなも嬉しい」サービスを考え、日々の生活が豊かになるサービスの提供を目指す。2012年6月よりイベント・レッスンスペース「外苑前アイランドスタジオ」も運営中。

 

※この記事は、2016年9月7日に外苑前アイランドスタジオで行われた「オイシックス流!次世代デジタルマーケティング実践事例トークセミナー」での取材をもとに作成いたしました。 取材を快く受けてくださった西井敏恭さま、サポートいただいたアイランドの皆さま、ありがとうございました。