2016年10月5日、Adobe主催の「Digital Marketing Symposium 2016」が開かれ、Adobeの担当者やパートナー企業、顧客企業などが登壇し、顧客体験中心時代のデジタルマーケティングの取り組み方についてセッションを行った。
その中から今回は、「日産自動車が考えるDigital Customer Journey最適化」というテーマで、日産自動車(以下、日産)の工藤然氏が日産のデジタルマーケティングへの取り組みについて紹介したセッションをレポートする。
現在、日産のデジタルマーケティングは、工藤氏が所属するブランド&メディア戦略部の新規ソリューション推進というチームが担当している。以前は分かれていた宣伝とインターネットのチームを時代の流れに合わせて統合し、現在の形になった。新規ソリューション推進では、ウェブサイト全般の運用、新規システム開発、新規マーケティング方策立案と運用など、幅広い業務を担っている。
デジタルは「選ばれるブランドになる」ための主戦場
日産では、昨年から「選ばれるブランドになろう」というコンセプトのもとにブランドコミュニケーションを展開している。
このコンセプトに至った理由は、顧客が車を購入する際、ディーラーへの平均訪問回数は2.6回、平均訪問メーカー数は1.53社という調査データからだ。
「最後は契約のために足を運ぶことを考えると、平均訪問回数は実質1回ちょっと。車の購入を検討する際、お客さまの頭の中ではだいたいどのメーカーにするかがすでに決まっているようです。それなら、購入検討の段階で選ばれるブランドにならなくてはなりません」と工藤氏。
選ばれるブランドになるために、自動車業界においても主戦場となるのは、やはりデジタル。Facebookの調査によると、7割のユーザーが、「車の購入検討のリサーチはオンラインで行い、実際に購入するときだけお店に行きたい」と回答したという。同様に日産が来店時に行っているアンケートでも、「インターネットを見てから来た」という人が多かった。
この傾向を受けてデジタルの担当チームで方向性を話し合い、デジタル上で顧客が日産のタッチポイントに触れたときに、顧客が必要とする情報を適切に提供できるようにすることで「日産、わかってるね」と言われるプラットフォームを目標とした。
達成のためのキーワードは「つなげる・みつける・もてなす」。散在しているデータや知恵をいつでも使えるようにつなげ、その情報を必要としている顧客を見つけ、その顧客に対して最適な形で情報を提供することで顧客の背中を押す、というシナリオだ。
多様な顧客のニーズに応える、デジタルマーケティング最適化への取り組み
「アクセスパターンの分析などからわかってきたことは、顧客のニーズは多様で、ウェブサイトを訪れる人の中にもまだ“車を買おう”という段階ではない人もいること。そのうえでさまざまなコミュニケーション設計が必要であると感じました」と工藤氏。
「Adobe Analytics」と「Adobe Target」を使用して行った実際の施策では、ボタンの色やボタンの中のテキストなど細かいデザインを変更した際に顧客の動きがどう変わるかを分析して最適化し、サイト上に反映した。その結果、コンバージョン率や離脱率が改善した。
また車種ごとの紹介ページでは、各ページ内でのコンテンツの配置順を変えて多変量解析を行った。結果、車種ごとの傾向が把握でき、コンバージョン率は大きなところで150%程度の改善があった。
ほかにも、「Adobe Analytics」と「Adobe Target」にオープンDMPを組み合わせて顧客が外部で閲覧しているサイトを調べ、旅行好き層やデジタル関心層などにセグメント分けした。そこから、それぞれのセグメントに対する最適な入口やコンバージョンまでの流れを把握するため、何パターンかのクリエイティブを制作した。コンパクトカーのクリエイティブは、18パターン考えたという。結果、大きな違いは出なかったものの、それぞれのセグメントに訴求しやすい入口がわかってきた。
さらに、ウェブサイトとメールを連携させた施策にも力を入れている。「メールは個人情報がしっかりとれてコミュニケーションができるという点で、未だにほかに代えがたいツールです」と工藤氏は語る。
以前からメールには注力しており、顧客の見た車種ページによってメールの出し分けを行っていた。しかし、多様なニーズを持つ顧客に、果たして最適な情報を提供できているのかが疑問だった。
そこで、より細かい出し分けをするため、単純にページを閲覧したかどうかだけでなく、このページを見たら5点、このページは10点というように見たページごとに点数を付けていき、ある点数に到達した段階でそれに応じたメールを送るといった複雑なシナリオにした。
また、サイトを閲覧した翌日に、顧客のフェーズや興味関心の度合いによって訴求方法を変えたメールを送ったところ、開封率、クリック率が非常に高くなるなど如実に効果が出たという。翌日というのが効果的だったようだと工藤氏は分析している。
今後の取り組みについて工藤氏は、「これまでメールで使用していたデータをバナー配信に活用したり、バナーでの反応をメールにフィードバックしたりするなど、フレキシブルにやっていきたい」と語った。
オンラインでのデータベース構築後は、紙などのオフラインのデータベースとの統合を行い、より深い顧客情報から最適なコミュニケーションを目指していく。
日産が描くマーケティングのシナリオとは
「日産が考えるマーケティングオートメーションは、自動運転と同じです」と工藤氏。自動運転は、人間の運転操作を肩代わりするのではなく、危険を判断したり、渋滞などの退屈な運転を快適にしたりするというのが日産式。それと同様に、マーケティングオートメーションはマーケティング上の単調で複雑な業務は自動化するが、マーケティングのシナリオを描いて最後に説明責任を負うのはマーケターであると言う。
最後に工藤氏は「カスタマージャーニーは、デジタルに接したあとも続いていく。お店に行き、車を購入してからはリアルな車との生活……そういったところもすべて横串で見て、最適なカスタマージャーニーの設計を目指しています」と述べ、セッションを締めくくった。