王座を守り続けてきたメール

インターネットがビジネスに活用されるようになり、マーケティングコミュニケーションのためのチャネルの1つとして、メールは一定のポジションを占め続けてきた。

その背景にあったのは、圧倒的なユーザー数の多さと、「プッシュ型で」「個々のユーザーに対して」「安価に」コミュニケーションを行うことのできるほぼ唯一のチャネルだったことだ。

総務省のデータ(※1)によると、日本のインターネット利用者は1億人強で、利用用途に「電子メールの送受信」を挙げているのは約74%。やや大雑把だが、これをもとにするとメールの利用者は7,500万人程度だろうか。後にSNSについて触れるが、SNS全盛の時代が来るまでは、これだけのユーザー数を持つチャネルは無かった。

機能については、メールが現れるまでにも「プッシュ型で」「個々のユーザーに対して」コミュニケーションを行うことができるチャネルは存在した。郵送(DM)、電話(コール)などがそうだ。しかし、メールは、それらに比べ、圧倒的に「安価に」実現できたし、開封、クリック、コンバージョンなどの指標を把握できる点も評価されてきた。

メールは、インターネット上での見込客の顧客化、顧客との関係強化に活用でき、タイミングを選んで見込客、顧客に個別アプローチし、ウェブサイトへと誘導するツールとして力を発揮してきた。

だが、ここ数年で、メールのポジションが本格的に揺らぎ始めた

ライバルの出現

結局のところ、メールが強力なコミュニケーションチャネルとして活躍できたのは、先に述べた、ユーザー数の圧倒的な多さと、「プッシュ型」「ユーザー個別」「安価」「容易な効果把握」などの性質に依るところが大きく、これらの要素すべてを持ったメール以外のチャネルが無かった、つまり、ライバルが不在だったからだ。

ところが、ここ数年で、SNSのメッセージング機能やモバイルアプリのプッシュ通知などが現れ、これまでメールが果たしてきた役割の一部を担い始めている。

最近(2016年10月)の情報をもとにSNSに関してユーザー数をまとめておくと、LINEが6,200万人(※2)、Twitterが3,500万人(※3)、Facebookが2,600万人(※4)となっており、まさにメールに迫る、さらには追い抜く勢いである。

ただし、Facebookでは「いいね!」をしている人の数%にしかメッセージが表示されないようになったり(※5)、Twitter、Facebook、Instagramでは、個別メッセージをシステマティックに送りにくかったりと、メールの役割をそのまま代替できるわけではない(この点、後に触れるLINEの機能や動きは注目すべき)。

一方の、モバイルアプリのプッシュ通知は、効果が高いことには注目すべきだが、それは当然のことながらアプリをダウンロードし、利用し続けてもらった上で成り立つもので、多くのユーザーを持つアプリの提供元企業ならともかく、一般的にはアプリユーザーを増やすこと自体のハードルが高いだろう

もっとも注目すべきプラットフォームはLINE

メールの一部の役割が他のチャネルに取って替わられる場面が出てきた中で、現在の日本市場で無視できないのがLINEだ。

先に見たように、まず、6,200万人とユーザー数が圧倒的に多い。特に若年層では利用率が高く(※6)、メール以上に利用されている。そして、他のSNSと異なり、そもそもLINEはメッセージング機能がサービスの中核となっており、すでにユーザー間でのメールを代替し始めている点に注目すべきだ。

さらに、LINEには、公式アカウント、LINE@、ビジネスコネクトなど、ビジネス向けの機能、サービスが豊富に用意されていることが、ビジネスモデルを広告中心に構築している他のSNSとの大きな違いだ。

考えてみれば、メールは、インターネット自体を基盤としてルールが設計されたものであり、特定の企業が提供するプラットフォームに依存するものではないため、誰もが活用できた。実は、このこともメールが強力なチャネルであり続けている理由の1つだと言える。

LINEはもちろんLINE株式会社という一企業が提供するプラットフォームではあるが、上記のようにビジネス向け機能が充実しており、その機能によって、「プッシュ型で」「個々のユーザーに対して」コミュニケーションができる。

「安価に」という部分についても、LINE@フリー(無料。ただし1,000通/月まで)、LINE@ベーシック(5,400円/月で5,000人まで無制限配信可能)、LINE@プロ(21,600円/月で10万人まで無制限配信可能)の料金設定は魅力的だ(※7)。

LINE提供のAPIを通してLINEと導入企業のシステム連携を実現するビジネスコネクト(50万円/月)では、企業の顧客データベースと連動した個別のメッセージ配信などが可能となる。

公式アカウントについては、気軽に「安価に」とは言えないが、LINE内での露出機会が多いため、ユーザーを獲得しやすく、そのメディア効果も含めて考えれば、事業内容によっては十分に検討に値すると考える。ビジネスコネクトの機能も持つAPI 型公式アカウントへの移行も可能だ。

コミュニケーションプランに広がりを与えるMAツールの導入と普及

メールの機能を代替するサービスとしてLINEを考えるとき、メールとLINEをどのように使い分けるかを含め、ダイレクトコミュニケーション全体を再設計する必要が出てくる。また、その実行においては、それをコントロールするシステムが必要になってくる。

MAツールが注目を浴びている理由は、ユーザーの属性・行動情報をもとに簡単に個別最適化したメッセージングを行えること(※8)で、メールやLINEといった複数チャネルの最適化にも活用できる点も大きい。

実際に、Salesforce Marketing Cloud(旧ExactTarget)、Probance Hyper Marketing、Experian Cross-Channel Marketing Platform (CCMP)、Marketo、Adobe CampaignなどのMAツールが、LINEと連携した配信を実現している(※9)。

MAツール導入によって、より重要になるコミュニケーション設計

これまでのメール配信システムでも、性別・年代・エリア・誕生日などの属性や、購買情報(RFM)、顧客ランクなどをもとにしたセグメント配信は可能だった。

一方、MAツールでは、セグメント配信以上に細かい1to1配信を簡単に実現できる点がポイントだ。

たとえば、商品詳細ページを閲覧した、ショッピングカートに商品を残したまま離脱した、などのユーザー行動をもとに、その後のコミュニケーションを自動的に行うことができる点で優れている。

また、そのコミュニケーションチャネルについては、メール、LINEはもちろん、ウェブページのカスタマイズ、リマーケティング/リターゲティング広告、場合によってはコール、FAX、郵送(DM)などにまで広げることが可能だ。

ただし、上記で「自動的に」と書いたが、これは「あらかじめ設定しておいた通りに」ということであり、もっとも重要なコミュニケーションの設計(何を目的に、いつ、誰に対して、どのチャネルを使って、どのようなコンテンツ/クリエイティブを送るか)は、マーケティング担当者の仕事になる。

これまでのメールマーケティングより格段に複雑になるコミュニケーションをどうやって設計するか、そして、結果をもとにブラッシュアップしていくかがマーケティング担当者の腕の見せどころとなる

まとめ

  • メールは(1)ユーザー数の多さと、(2)「プッシュ型」「ユーザー個別」「安価」「容易な効果把握」などの特性を持つことから、これまで、一定のポジションを獲得してきたが、ここ数年の間にライバルが現れた。
  • LINEは、ユーザー数の多さ・アクティブさと、メッセージング中心に使われていることに加え、ビジネス利用するためのサービスメニューが充実している点で、メールを代替する可能性が大きく、もっとも注目すべきプラットフォームだ。
  • メールとLINEとを統合したコミュニケーションの実践にはMAツールが有効であり、実際に多くのMAツールがLINE連携ソリューションを発表している。
  • MAツールの導入・普及により、ユーザー行動をもとにした1to1コミュニケーションを実現できるようになるが、そのための複雑なコミュニケーション設計は「自動化」できるわけではなく、今後、マーケティング担当者の重要な任務となるだろう。

【脚注】

※1:『平成27年通信利用動向調査(概要)』(総務省)【PDF】 (2016/7/22)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000445736.pdf
平成27年(2015年)の1年間にインターネットを利用したことのある人は(インターネット利用者(推計))は、1億46万人(1ページ)。また、インターネット利用者のインターネットの利用目的・用途は、「電子メールの送受信」の割合がもっとも高く74.3%(9ページ)。

※2:LINE「2016年12月期第2四半期 決算説明会」資料【PDF】 (2016/7/27)
https://scdn.line-apps.com/stf/linecorp/ja/ir/library/Q2PresentationJP.pdf

※3:「フルファネルのマーケティングプラットフォームとしてのFacebookの活用可能性」 (2016/9/2)
https://www.advertimes.com/20160902/article232569/

※4:「Twitterが国内ユーザー数を初公表 「増加率は世界一」」 (2016/2/18)
http://www.huffingtonpost.jp/2016/02/18/twitter-japan_n_9260630.html

※5
・Considering Life After the Demise of Organic Reach (2014/3/6 Social@Ogilvy)
https://social.ogilvy.com/facebook-zero-considering-life-after-the-demise-of-organic-reach/
Facebookにおけるブランドページのオーガニックリーチは、2012年に約16%にまで制限され、2014年2月の段階では6%にまで、中でも50万以上の「いいね!」を獲得しているページについては2%にまで抑制されている。

・Facebook organic reach is down 52% for publishers’ Pages this year (2016/8/6 Marketing Land)
http://marketingland.com/facebook-organic-reach-drop-steepens-52-publishers-pages-187253
2016年1月から7月中旬の間に、SocialFlow(ソーシャルメディア投稿ツール)を利用する300社のオーガニックリーチは平均で52%減となった。

※6:総務省「平成27年版情報通信白書」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc242220.html
「図表4-2-2-5 SNSの年代別利用率」を見ると、LINEの利用率は、20代以下で62.8%、30代で47.0%。40代では41.8%、50代は27.8、60代は8.0%と高年齢になるほど利用率は低い。

※7
2016年7月1日から「フリー」「ベーシック」「プロ」の3つのプランとなった(従来は「無料プラン」と「有料プラン」の2つ)。LINE@は、これまで飲食店や美容院などの店舗をターゲットにしていたように思われるが、7月に追加された「プロ」では有効友だち数が10万人までに引き上げられており、さまざまな業態の企業に活用可能性が広がりそうだ。

・LINE@公式ブログ (2016/5/30)
http://blog.lineat.jp/archives/47670596.html

※8
ここでは主にBtoC事業向けのMAツールを想定している。BtoB事業向けMAの場合は、クロスチャネル対応の機能よりも、スコアリング機能などが重視される場合が多いだろう。

※9
・セールスフォース・ドットコムとLINEがパートナーシップを締結 Salesforce ExactTarget Marketing CloudがLINEとの連携に対応 (2014/6/10)
http://www.salesforce.com/jp/company/news-press/press-releases/2014/06/140610-2.jsp

・ブレインパッド、マーケティングオートメーションプラットフォーム「Probance Hyper Marketing」と「LINE ビジネスコネクト」との連携ソリューションを提供開始 (2016/1/22)
http://www.brainpad.co.jp/news/2016/01/22/1077

・エクスペリアンジャパン、オイシックスのオムニチャネル化を支援 ~LINEによる1to1コミュニケーションをMAツール上で実現~ (2016/5/10)
https://www.experian.co.jp/news/newsrelease_20160510.html

・Marketo × LINEビジネスコネクト 連携ソリューションの提供開始 (2016/7/6)
https://jp.marketo.com/press/20160706-57.html

・アドビ、Adobe CampaignとLINE ビジネスコネクトの連携を発表 (2016/10/5)
http://www.adobe.com/jp/news-room/news/201610/20161005-adobe-campaign-line-business-connect.html

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ 代表取締役 椎葉 宏(Hiroshi Shiiba)

株式会社スペースシップ 代表取締役 椎葉 宏(Hiroshi Shiiba)

京都大学経済学部卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)戦略グループ、ネットエイジ(現ユナイテッド)事業開発担当執行役員を経て、2000年11月にアルトビジョン(2012年に3社統合し、現チーターデジタル)を設立。アルトビジョンでは、各業界トップレベルの企業のメールマーケティングを、戦略、クリエイティブ、オペレーション、システムの各面から支援。2013年4月より、スペースシップにおいてデジタルマーケティングの戦略立案から実行支援までを行っている。

株式会社スペースシップでは、

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