2016年10月6日に開催されたトライバルメディアハウス主催「いちばんやさしいLINE ビジネスコネクトの教本 出版記念セミナー」。LINEの田端氏が登壇したセミナーレポート第1弾に続く、第2弾の今回は、『いちばんやさしいLINE ビジネスコネクトの教本』著者の株式会社トライバルメディアハウス マーケティングデザイン事業部マネージャー/シニアストラテジストの豊田義和氏と、マーケティングデザイン事業部コンサルタントの荒川夏実氏が登壇。LINE ビジネスコネクトの実践方法と事例紹介について解説した内容をレポートする。

『いちばんやさしいLINE ビジネスコネクトの教本』の著者により、LINE ビジネスコネクトの実践方法をわかりやすく解説してもらった。
『いちばんやさしいLINE ビジネスコネクトの教本』の著者により、LINE ビジネスコネクトの実践方法をわかりやすく解説してもらった。

「個別配信」と「双方向コミュニケーション」で多くの企業の課題に応える

多くの企業ではマーケティングの課題として、こんな悩みをもってはいないだろうか。
「若年層と接触したいが、なかなかできない」、「若年層にこだわらず、一定の年代にしかリーチができない」、「最近メールでなかなかリーチできない会員が増えてきている」、「そもそもサービス利用者が増えていない、逆に減少しているのでは……」
これらの悩みに応えるのが、LINE ビジネスコネクトだ。

2014年にリリースされたLINE ビジネスコネクトは、2016年1月に発表された、「スマホから簡単に送り状が発行できるように!LINE×ヤマト運輸」、「ドミノ・ピザ、LINE公式アカウントからの売上1億円突破」というニュースによって大きな話題となった。これにより、LINE ビジネスコネクトの導入を本格的に検討する企業も増えてきた。アメリカ合衆国のカジュアル系ファッションブランド、アメリカン・イーグル・アウトフッターズなど、会員証代わりにLINEを活用する企業も出てきている。

LINE ビジネスコネクトの最大の特徴は、従来のLINE公式アカウントによる「一斉配信」と「一方向のコミュニケーション配信」だったのが、友だち一人ひとりに合った情報を個別に、さらに会話をしながら届けることができる、「個別配信」と「双方向コミュニケーション」にある。

LINEでのサービス提供ポイントは、「よく利用されるサービスから提供していく」、「サービスはLINE上で完結」、「サービスはシンプルに、楽しく」

なぜ、企業はLINE ビジネスコネクトを活用するべきなのか?
トライバルメディアハウスの豊田氏は3つのポイントを挙げて解説した。

株式会社トライバルメディアハウス マーケティングデザイン事業部マネージャー/シニアストラテジスト 豊田義和氏
株式会社トライバルメディアハウス マーケティングデザイン事業部マネージャー/シニアストラテジスト 豊田義和氏

ポイント1:LINE上でOne to Oneコミュニケーション

現在、One to Oneが求められるようになったのは消費者行動が多様化し、さらに消費者一人ひとりのさまざまな情報が取得できるようになり、双方向のコミュニケーションが可能になってきた背景がある。今までは電子メールでの一方向のコミュニケーションが主流だったが、そこに対してユーザー規模6,800万人超を誇り、さらにアクティブ率7割以上(約5,000万人)と言われるLINEによりOne to Oneコミュニケーションが可能となった。

ポイント2:メールからLINEへのユーザーシフト

メール利用率について、総務省情報通信政策研究所の調査では、50代以外の年代はメールの利用率が年々下降し、特に10代のメール利用率はたったの31%、20代は50 %であり、メールでは情報を届けられない人が増えてきている。それに対してLINEの利用率は10代、20代に加え、50代も増加しており、幅広い年代で利用されている。さらに、日経デジタルマーケティングの調査でも、企業・ブランドからの情報を受け取る手段として最も利用するサービスが、Eメール37%に対して、LINEは53.3%。このことから、多くの消費者が企業の情報をLINEで取得することが当たり前の状況となったことが言える。

LINE利用率の推移をみると、幅広い年代で毎年伸長しているのがわかる。
LINE利用率の推移をみると、幅広い年代で毎年伸長しているのがわかる。

ポイント3:利用されるアプリ数の上限

ニールセンの調査によると、月間利用回数別アプリ数は月に1回以上の利用が27個。それに対して月に10回以上利用するアプリは9個である。アプリが活用されるには、この9個のなかに入っていく必要があるが、企業のアプリがここに入り込む余地は小さい。それに対してLINEは5,000万人近いユーザーが毎日利用している。また、トライバルメディアハウスの社員にアンケートをしたところ、約75%の社員がLINEアプリを最初の画面に設置していた。メールや自社アプリで消費者とコミュニケーションを取り続けるのは難しいが、LINEなら気軽に使いやすく、ユーザーが持続して利用しやすいアプリである。

では、LINE ビジネスコネクトを一体どのように活用したらいいのか?
豊田氏は下記の3つに活用タイプを分類できるという。

活用タイプ1:One to One配信

自社会員のIDとLINEのアカウントをつないでくれた友だちに対して、顧客情報に基づくメッセージを配信。購買履歴やサービスの利用状況、それらの状況に合わせて個別にメッセージを配信できるため、レコメンドやクーポン、フォローメッセージのような使い方がイメージしやすいだろう。
ID連携までしていない会員や、そもそも自社会員でないユーザーに対しては、全員に同じ内容を一斉配信するというLINE公式アカウントも重要になってくる。また、メールでのアプローチができない、メールアドレス未登録などの会員にもLINEでならアプローチが可能である。さらにLINE ビジネスコネクトはID連携をしていなくてもOne to Oneが実現できることが特徴。ベネッセコーポレーションの「こどもちゃれんじ」では、アンケートへ誘導し、回答結果をLINEのアカウントと紐づけることで、個別のアプローチを可能にしている。

LINEはメールでのアプローチを補完し、より幅広い会員とコミュニケーションが可能になる。
LINEはメールでのアプローチを補完し、より幅広い会員とコミュニケーションが可能になる。

活用タイプ2:カスタマーサポート

LINEを気軽に話しかけてくれることのできる窓口として、問い合わせや成約などに繋げていくことができる。電話の問い合わせに対してオペレーターは1人にしか対応できないが、LINEであれば同時に複数人と会話をすることができる。ユーザー側もLINEであれば友だちとのチャット感覚で気軽に問い合わせをすることができ、企業は潜在顧客と接する機会を多く得ることができる。
フロム・エー ナビの「パン田一郎」では、自動応答で会話を行うアカウントがある。LINE上での話しかけに対し、「パン田一郎」が自動応答し、足りない情報を質問。ユーザーがそれに答えていくことで条件に合った求人を提案していくというもの。気軽にコミュニケーションを続けることでユーザーの実際のニーズを聞き出し、成約に結び付けていくことができる。

活用タイプ3:LINE上でのサービス提供

自社の既存サービスをLINE上に拡張するメリットは大きい。会員だがサービスを利用してくれないユーザーでも、普段気軽にコミュニケーションを行っているLINE上でサービスを提供することで利用を活性化することができる。さらに若年層やメールアドレスを持っていない人など、接触の少なかったユーザーにも接点を持つことができる。また幅広い年齢層に対して万遍なくアプローチができ、いろいろな属性の人の接点に触れることができるため新規顧客の獲得につなげることができる。別の視点として、LINE ビジネスコネクトの導入で、テクノロジー活用に積極的な企業というイメージの醸成ができることも挙げられる。
LINE上でのサービス提供のポイントは、「よく利用されるサービスから提供していく」、「サービスはLINE上で完結」、そして「サービスはシンプルに、楽しく」使ってもらうこと。これらはLINE上で継続的にサービスを活用してもらうために必要な要素である。LINEは気軽に使えることが特徴であり、複雑なサービスを提供すれば使ってもらえないということにもなりかねない。例を挙げると、みずほ銀行が提供するLINE上で専用スタンプを送るだけで「残高」や「入出金明細」を確認することができるサービスは、LINEにおける上記のサービス提供ポイントを満たしている。「よく利用されるサービスから提供していく」は、オンラインで最も利用される照会サービスであることを指し、「サービスはLINE上で完結」はトーク画面上だけで確認可能であること、「サービスはシンプルに、楽しく」は、スタンプを送信するだけの操作が当てはまる。

LINE ビジネスコネクトの導入事例から学ぶ最新のデジタルマーケティング

LINE ビジネスコネクトの活用としては、「One to One配信」、「カスタマーサポート」、「サービス提供」の大きくわけて3つがあり、そのうち「カスタマーサポート」、「サービス提供」の活用事例としてトライバルメディアハウスの荒川氏が解説した。

株式会社トライバルメディアハウス マーケティングデザイン事業部コンサルタント 荒川夏実氏
株式会社トライバルメディアハウス マーケティングデザイン事業部コンサルタント 荒川夏実氏

LINEでのカスタマーサポートの事例―大東建託

大東建託の「いい部屋ネット」では、LINEでの物件お問合せ対応「お部屋探しサポートサービス」を行っている。これはLINE上での会話を通じて、一人ひとりのユーザーに合ったお部屋に関する案内をしていくもの。
LINE ビジネスコネクト導入前の課題は「大東建託を知って、想起してもらうにはどうすればいいか?」「メインターゲットの若年層にメッセージを伝えるにはどうすればいいのか?」だった。大東建託では若年層にメッセージを伝える手段としてまずはLINE公式アカウントの運用を開始。しかし、配信をしていくなかで「確かに開封率は高いが、一斉配信をユーザーにしているだけではこれまでのDMと一緒ではないか」「日頃からの気軽なコミュニケーションを通じて想起率を上げたい」と思い、LINE ビジネスコネクトを導入した。

カスタマーサポートではLINE上でどのようなやりとりが行えるか、どういった体験をユーザーに提供できるかが重要であり、その実現にはオペレーターの細やかな対応が必要になってくる。そこで大東建託では「オペレーターのペルソナとマニュアルを作成し、コミュニケーションレベルを統一」、「顕在顧客には問い合わせ後のフォローも実施」、「2016年からは24時間365日体制へ」という工夫をしてLINE ビジネスコネクトを運用している。

友だち獲得の経路としては、LINEスタンプを活用。大東建託のアカウントを友だちに追加するとLINEスタンプがダウンロードできるという仕組みで、友だち数は約1,300万人となっている。

大東建託ではKPIに反響数を設定。反響数とは、実際に物件を探している顧客からの問い合わせ数のことだ。LINE ビジネスコネクト上での1カ月あたりの平均反響数は900~1,000件。2015年5月~2016年3月末までの総問い合わせ人数は約160万人。LINEの特徴である気軽なコミュニケーションにより反響数が伸びたという。「気軽」は効率が悪いという印象を持つ方もいるが、他社の不動産サイト経由のユーザーよりも高い成約率となっている。「気軽」は親近感であり、友だち登録をしているためか、一般ユーザーよりも好意度が高いことも成約率の上昇につながっている。
反響単価もウェブ広告の効率を上回ることがある。ウェブ広告は他社も出稿するため、反響単価は高くなる。LINEは顕在層からの問い合わせが増えるため、反響単価は安くなり、効率良く反響を獲得することができるという。

LINEの反響単価はウェブ広告の効率を上回ることもある。
LINEの反響単価はウェブ広告の効率を上回ることもある。

大東建託の運用からみえる、LINE ビジネスコネクト活用ポイント

1:ペルソナやマニュアルの作成によって統一された体験価値を提供
2:ユーザーの生活に合わせたサービス提供と体制づくり
3:最適なタイミングでのアプローチ

LINEでのサービス提供の事例―日本郵政(ぽすくま)

日本郵政(ぽすくま)がLINE ビジネスコネクトで提供しているサービスは年賀状の作成(2014年~)と物流サービス(2016年~)。年賀状の作成については、LINEに画像を送ると、自動でさまざまなデザインの年賀状を作ってくれるというもの。
LINE導入前の課題は、「減少する年賀はがきの売上はどうしたら伸ばせるのか」、「年賀状作りから離れていく若年層をどう取り込めるのか」、「年賀状を気軽に出してもらうためにはどんな環境づくりが必要なのか」だった。その課題解決として日本郵便内で重視されていたことは「年賀状のスマートフォン経由の注文が増えており、スマートフォンの施策は外せない」、「若年層を取り込む施策が必要」、「コミュニケーションツールとして圧倒的なユーザー数とアクティブ率の高いLINEは見逃せない」ということだった。そこでLINE ビジネスコネクトを導入した。

LINE ビジネスコネクトの運用として、ユーザーが義務感ではなく、楽しく作ってもらうことを目指し、たとえ1枚でも年賀状を出してもらう工夫をした。それが「スマートフォンと写真の親和性を活かした仕組みづくり」と「豊富なデザイン」である。スマートフォンのカメラ機能を利用して、誰でも簡単に写真やムービーを年賀状のデザインに取り入れることができる。年賀状のデザインは1,000パターン以上あり、ユーザーはゲーム感覚で写真とデザインのさまざまなパターンを自動的に作って、楽しむことができる。

スマートフォンで撮ったお気に入りの写真やムービーを簡単に年賀状にできる。
スマートフォンで撮ったお気に入りの写真やムービーを簡単に年賀状にできる。

友だち獲得の経路としては、ぽすくまのLINEスタンプによるSNSでの口コミやメディア露出による拡散で、郵便局とあまり接点がない若年層も多く友だちになった。
成果としては、作成された年賀状枚数(投稿された画像数)約3,100万枚。LINEを起点にした年賀状の注文枚数が120万枚と大きな反響となった。

日本郵政では2014年の年賀状サービスで一度アカウントを閉鎖したが、2015から年賀状作成サービスと物流サービスでLINE ビジネスコネクトを活用。2016年より、郵便事業のLINE上での展開「LINEで郵便局」が始まった。「LINEで郵便局」は、LINE上で荷物の追跡や再配達の依頼ができるサービス。年賀状だけに留まらない通年のサービスとして展開している。

日本郵政(ぽすくま)から見える、LINE ビジネスコネクト活用ポイント

ぽすくまアカウントの運用においても、LINE上でのサービス提供の3つのポイントを満たしている。「よく利用されるサービスから提供していく」は、年1回の年賀状から通年の物流サービスにも利用できるようになったことを指し、「サービスはLINE上で完結」はLINE上で年賀状の作成や再配達依頼ができること、「サービスはシンプルに、楽しく」は、画像を送ると自動的に年賀状が作成されることが当てはまる。

ユーザー視点のコミュニケーション、公式アカウント機能の有効活用、事前戦略と運用中の効果測定が重要

最後に豊田氏からLINE ビジネスコネクトの活用ポイントがまとめられた。

活用ポイント1:ユーザー視点でのコミュニケーション

ユーザーに心地よく感じてもらえないと、友だちになってもブロックされ継続利用にならない。さらにユーザーをしっかり理解しないとOne to Oneコミュニケーションはできない。そもそも誰が、どういう情報を欲しているのかという、コミュニケーションの対象をしっかりイメージし、「自分がユーザーだったらどうしてほしいか?」を考えた運用が重要である。

活用ポイント2:LINE公式アカウント機能の有効活用

LINE ビジネスコネクトの機能は個別配信にフォーカスされがちだが、そこを有効活用するためにも、LINE公式アカウントによる一斉配信機能を活用していきたい。
一斉配信では、一般的な情報、全員に配信可能な内容、問い合わせやサービス利用などを促すための配信を行い、一方、個別配信では、クーポンなど限定感・特別感のある情報、配信に条件が必要な内容、双方向のコミュニケーションなどアクションに紐づく情報を配信するというように、使い分けることが大切である。
アクションを促すためには、画面をタップすることで簡単に問い合わせができるリッチメニューの活用も効果的であり、これがあるかないかで問い合わせの数に大きな差が生まれてくる。

LINEの特徴である「一斉配信」と「個別配信」を使い分けることが活用のポイントとなる。
LINEの特徴である「一斉配信」と「個別配信」を使い分けることが活用のポイントとなる。

活用ポイント3:事前の戦略策定、運用中の効果測定

運用効果を検証し、改善につなげることが重要だが、それには事前に戦略をしっかり策定する必要がある。戦略がなければ、何を測定するべきかがわからないため、改善にはつながらない。「測定できる指標」ではなく「測定すべき指標」を評価することが重要であり、LINE ビジネスコネクトを活用するにあたっての課題と目的を明確にした上で、コミュニケーションプランニングを行い、効果を測定して、PDCAを回していくことが重要である。