2016年10月6日に開催されたトライバルメディアハウス主催「いちばんやさしいLINE ビジネスコネクトの教本 出版記念セミナー」。第1弾のLINE田端氏による講演第2弾の著者であるトライバルメディアハウスの豊田氏、荒川氏による講演に続く第3弾となる今回は、資生堂ジャパン株式会社 ダイレクトマーケティング部 吉本健二氏、キリン株式会社 デジタルマーケティング部 野際陽介氏、ヤマト運輸株式会社 営業推進部 荒川菜津美氏が登壇。LINE ビジネスコネクトの導入事例として、取り組み内容や効果、そして今後の展開について語った内容をレポートする。

LINE ビジネスコネクト先進活用企業の登壇に、会場の期待も高まる。
LINE ビジネスコネクト先進活用企業の登壇に、会場の期待も高まる。

ウェブ会員IDとLINE IDを紐づけ、One to Oneコミュニケーションに活用―資生堂ジャパン

資生堂ジャパン株式会社 ダイレクトマーケティング部 吉本健二氏が登壇し、LINE ビジネスコネクトの実践事例を解説した。
資生堂ジャパンが2012年から運営する総合美容ウェブサービス「ワタシプラス(Watashi+)」では、化粧品や美容、店舗の情報やオンラインショッピングを提供。2012年7月にLINE公式アカウントを開設し、2015年8月からはLINE ビジネスコネクトを導入。2016年9月現在で「ワタシプラス」のお友だち数は約2,000万人となっている。

ワタシプラスでは「One to Oneでお客さまとのリレーションを強化すること」を重視している。LINEビジネスコネクト導入以前は、LINEスタンプ配布によるサンプリングキャンペーンなどで、ワタシプラスの会員を獲得することをゴールとしていたが、LINE ビジネスコネクト導入以降は、LINE上でもOne to Oneコミュニケーションを行うために、ワタシプラス会員のIDをLINE IDに紐付けることもゴールの一つとして設定した。
「キャンペーン応募には、ワタシプラスにログイン、または会員登録が必要。そのときにLINE IDの紐付けを行います。ワタシプラスIDとLINE IDを紐づけることで、LINE上でのOne to Oneメッセージも活用できるようになりました」(吉本氏)。

 ワタシプラスIDとLINE IDを紐付けてもらうことで、LINE上でのOne to Oneメッセージが可能に。
ワタシプラスIDとLINE IDを紐付けてもらうことで、LINE上でのOne to Oneメッセージが可能に。

ワタシプラスでは、LINE ビジネスコネクト配信を、CRMシナリオにおけるマルチチャネル配信チャネルの一つと考えている。各配信チャネルの特徴をメッセージのリッチ性と、割り込み力(ユーザーが別企業サイトを見ているときに自社広告が割り込む力)という軸で整理。LINEには圧倒的な割り込み力があり、ユーザーはスマートフォンが近くにあればメッセージが送られてくるとすぐにチェックしてしまうという特性があるという。
吉本氏はLINEメッセージの特徴として、「強力なプッシュ配信で即効性が高い」、「友だちとの連絡で利用しているパーソナルな空間へと割り込む」、「そこそこリッチなメッセージ」、「インタラクティブなメッセージ交換が可能」、「一斉配信がベースとしてあるうえで、LINE ビジネスコネクトはアドオンされる」を挙げた。

各配信チャネルの特徴。LINEは割り込み力(プッシュ力)が強い特徴がある。
各配信チャネルの特徴。LINEは割り込み力(プッシュ力)が強い特徴がある。

こうした特徴を踏まえた上で、LINE ビジネスコネクトにおけるメッセージに、「よりパーソナルで親しみのあるメッセージ」と「より急を要するメッセージ」という2つの役割を担わせるという考えだ。
「適切な文脈でLINEメッセージを送信した場合、メールと比較して約3倍のコンバージョン率になるという結果も出ている。ユーザーの想いや行動に応じて、LINEメッセージ配信をすると、LINEはメールと比較してクリック率やコンバージョン率が非常に良い」(吉本氏)。

ワタシプラスでは、複雑化するユーザー行動を理解するためにモーメント(ユーザーが何かに興味を持った瞬間)を知ることを重視している。モーメントに応じたシナリオで、メッセージをマルチチャネルで届けることで、お客さまの考えていることを後押ししようとしている。LINEは配信チャネルの一つとして活用するだけではなく、モーメントを獲得する場としても使えるのではないかと考えている。

LINEをマルチチャネル配信におけるチャネルのひとつとして、ユーザーのモーメントを獲得する場として活用し、より最適なメッセージを届けたいとする。
LINEをマルチチャネル配信におけるチャネルのひとつとして、ユーザーのモーメントを獲得する場として活用し、より最適なメッセージを届けたいとする。

「たとえば、LINE Beaconを使えば、ユーザーが資生堂の店頭近くにいる時に、ジオフェンシングを使って、モーメントに基づいたメッセージを送ることができる。『プラットフォームとしてのLINE』に大きな可能性を感じています」(吉本氏)。
吉本氏はお客さまに合わせた情報提供や、最適なコミュニケーションの実現のために、LINE公式アカウント、そしてLINE ビジネスコネクトは不可欠であると感じている。

アンケートにより友だち属性を知り、精度の高い配信を―キリン

登壇者:キリン株式会社 デジタルマーケティング部 野際陽介氏
登壇者:キリン株式会社 デジタルマーケティング部 野際陽介氏

キリン株式会社 デジタルマーケティング部 野際陽介氏が登壇し、LINE ビジネスコネクトの実践事例を解説した。
キリンでは、LINE公式アカウントを2013年11月に開設。2016年、現在の友だち数は約1,500万人。当初の導入目的は若年層とのコミュニケーションと、清涼飲料水の販促・商品告知での活用だった。「LINEは若年層のメディアだと思っていましたが、実は幅広い年齢層のお客さまにリーチできるメディアです。若年層に対してはスタンプ中心にコミュニケーションを行い、友だち全体に対してはPush/Time Lineを活用し、清涼飲料に関するさまざまなコミュニケーションを実施しています」(野際氏)。
しかし、キリンとしての課題は残った。それは「アルコール情報の発信」だ。20歳未満のお客さまにアルコール情報を配信することはできない。そこでキリンは2015年2月に、お客さま毎にコミュニケーションを可能とするLINE ビジネスコネクトの活用を開始した。
「LINE ビジネスコネクトを導入することで年齢取得が可能となり、アルコール情報の配信が実現しました。また、年齢だけでなくお客さまの属性に応じたメッセージ配信も可能となり、キリンにとってLINE ビジネスコネクトは大きな資産となりました」(野際氏)。

キリンではどのように顧客データを取得しているのだろうか。野際氏は2つのパターンを示した。

パターン1:LINE ビジネスコネクトを活用したキャンペーンの実施

キリンではPushでキャンペーン告知を行い、キャンペーン応募画面で年齢などの顧客情報を取得。また重複した情報を取得しないよう、これまで取得した顧客情報に応じてアンケートを出し分けるといった工夫もしている。
「キャンペーンでは思わず参加したくなるクリエイティブが大事です。バナー内の要素は最低限に抑えつつ、賞品画像は大きくすること。また、ユーザビリティを考慮したキャンペーンスキーム(10秒簡単応募)にすることも重要です」(野際氏)。

キリンのLINE ビジネスコネクトによるキャンペーン実施の流れ。
キリンのLINE ビジネスコネクトによるキャンペーン実施の流れ。

パターン2:LINEスポンサードミッションスタンプの実施

スタンプのダウンロードに、キャンペーン時に実施してきたアンケートの回答を必須条件とした「スポンサードミッションスタンプ」を2016年の5月と9月の計2回実施。アンケート回答が必須の分、通常のスポンサードスタンプよりダウンロードのハードルがあがるため、スタンプのクリエイティブにもこだわらなければならない。

LINE ビジネスコネクトの活用例として、野際氏はデータを活用したマーケティングと購買チャネルとの連携を挙げる。
キリンではデータを活用したメッセージ配信として、20歳以上かつアルコール情報OKな方へメッセージを配信。「一番搾り」のキャンペーンでは、これまで実施してきた一斉配信型のPushによるCTRが約2%だったのに対し、32%と高数値を示し、キャンペーンサイト訪問者の90%以上がキャンペーンに応募するという驚異的な数値を示した。さらに、アンケートで取得した性別や住んでいる都道府県情報などを活用したセグメント配信も実施しており、「ユーザーの属性に応じたコミュニケーションへの反応は絶大だ」と野際氏は言う。

LINE ビジネスコネクトでのセグメント配信で、CTRは10倍以上に。応募率は約9割と驚異的な数値を示した。
LINE ビジネスコネクトでのセグメント配信で、CTRは10倍以上に。応募率は約9割と驚異的な数値を示した。

キリンではLINEを購買チャネルとの連携にも活用している。これはキリン商品をご拡売いただいている店舗・自販機・ECと連携することで売上に貢献していくというもの。2015年に自社の自販機チャンネルとLINE ビジネスコネクトを連携し、自販機で写真が撮れ、その写真をLINEアカウントでダウンロードできる、デジタルサイネージ自動販売機を展開した。「決して規模は大きくないのですが、購買チャネルと連携できたのは大きな一歩と感じています」(野際氏)。

今後はLINE ビジネスコネクトをセールスプロモーションとしても活用したいという。たとえば、シール付き商品のキャンペーンをLINE上で行うというもの。通常はサイトに会員登録して、シールのシリアルナンバーを入力し、応募するというのが基本的なスキームだが、会員登録で離脱するユーザーはかなり多い。
「LINEならID・パスワード発行などの会員登録が不要となり、簡単にキャンペーン応募ができることから、応募数も増えるのではないかと思います」(野際氏)。
さらに、キャンペーンの応募履歴を活用したセグメント配信を考えている。LINEの割り込み力の強さを活かし、たとえば、あと1ポイントで応募が完了というユーザーに、LINEでプッシュ通知することでキャンペーンの後押しにもなり、キリン商品を買いに行こうという行動につなげることができる。

野際氏はLINE ビジネスコネクト活用のポイントについて、「使いやすさを意識したコミュニケーション」、「お客さまの属性に応じたコミュニケーション」、「ビジネスコネクトの活用はアイデア勝負」を挙げた。
「LINEは使いやすさが大きな特徴であることから、コミュニケーションする際もユーザビリティを意識しています。また、他のメディアと比較してLINEは反応率が高く、お客さまの属性に応じたコミュニケ―ションの効果は絶大です。そして重要なのはLINE ビジネスコネクトの活用はアイデア勝負であること。お客さまの生活の中にいかに自然に入り込み、より良いサービスを提供できるか。そこが一番重要であると思います」(野際氏)。

荷物の受け取りをLINE上で簡単、便利に―ヤマト運輸

登壇者:ヤマト運輸株式会社 営業推進部 係長 荒川菜津美氏
登壇者:ヤマト運輸株式会社 営業推進部 係長 荒川菜津美氏

ヤマト運輸株式会社 営業推進部 係長 荒川菜津美氏が登壇し、LINEビジネスコネクトの実践事例を解説した。
ヤマト運輸では、荷物を「受け取る・送る・支払う」をより便利にできるクロネコメンバーズという無料の会員向けサービスを提供しており、約1,500万人の会員数を有している。
「荷物の受け取り日時が事前にわかる通知サービスや、通知から受け取り日時や場所を変更できるサービスを展開しています。商品を受け取りたいタイミングや場所が選べるため、ご好評いただいています」(荒川氏)。

ヤマト運輸がLINEビジネスコネクトのサービスを開始したのは2016年1月。それまでヤマト運輸では「通知サービスの利用を増やしたい」、「お客さまとのコミュニケ―ション手段を増やしたい」という悩みがあった。
「メールを見ない、そもそもメールアドレスをもっていないという社会の変化もあり、そのなかで多くのお客さまとコミュニケ―ションを取るためには、どうしたらいいだろうと考えLINE導入の検討を開始しました」(荒川氏)。

LINE公式アカウント開設当初のサービスは、既存のメールで配信していた荷物のお届け予定や、不在連絡をLINEで通知するというもの。LINEで通知されたURLをクリックし、受け取り日時や場所を変更することが簡単にできる。通知がLINEに届くため、仕事から帰って不在票の存在を知るのではなく、帰宅後や近くのコンビニなどでその日に荷物を受け取ることができる。
さらに2016年6月にはLINE上で会話AIを活用した問い合わせ受付を開始。荷物の問い合わせや料金検索など簡単な質問に答えることができ、ユーザーにとって気軽に使えるサービスとなっている。
「会話AIは現在も成長中であり、お客さまの多様な発言を理解できるよう、日々進化しています」(荒川氏)。
友だち数も順調に増え、約199万人(2016年10月4日現在)となっている。

LINE上で荷物の問い合わせや料金の確認が気軽にできる会話AIを活用。
LINE上で荷物の問い合わせや料金の確認が気軽にできる会話AIを活用。

2016年8月にはLINEに宅急便の送り状発行予約機能を追加。これはLINE上で送り状情報を登録すると二次元コードが発行され、各ヤマト運輸の営業所に設置された「ネコピット」にかざすだけで簡単に送り状が作成できるサービス。「荷物を出す際、送り状をどう用意すればいいのかわからない。手書きが面倒くさい。どこで送り状をもらえばいいのかわからない」という多くのユーザーの声に応えるものだ。

LINE上で発行された二次元コードを「ネコピット」にかざすだけで簡単に送り状が作成できる。
LINE上で発行された二次元コードを「ネコピット」にかざすだけで簡単に送り状が作成できる。

ヤマト運輸におけるLINEビジネスコネクトの効果は大きく2つある。1つ目が「反応率はメールと比べて、LINEのほうが高い」ということ。ヤマト運輸では、荷物の届けや不在連絡の通知などで、ユーザーが受け取り日時や場所を変更したアクション率を追いかけている。このアクション率がメールと比べて高いという結果が出ているという。
2つ目が「現場のセールスドライバーの武器」になるということ。「LINEということでお客さまに使い方の説明がしやすく、セールスドライバーがお客さまとコミュニケーションをするきっかけになっています」(荒川氏)。

会話AIの今後の活用としては、理解できる言葉やサービスを増やし電話のオペレーターレベルの会話実現を目指している。送り状における今後の活用としては、ヤマト運輸の営業所はもちろん、スマートフォンをかざすだけで荷物を簡単に送れるようにしたいと考えている。
「身近にあるLINEから荷物が送れるというサービスが広がれば、送るということの心理的ハードルも下がり、荷物を送る人が増えると思います」(荒川氏)。

今後、ヤマト運輸では、LINEのコミュニケ―ションをもっと進化させ、さらに便利なサービスの実現を目指している。
「お客さまの利便性を高めるために、全ての荷物情報をデジタル管理しようと進めています。ただし、デジタル化施策を進めても、お客さまとコミュニケーションが取れなければ、そもそもご要望を聞くことができません。それについては、LINE上でのコミュニケーションを大切にしていきたいと思います」(荒川氏)。

ヤマト運輸では、ドライバーやオペレーターなど、日常で顧客とリアルに接する場を大切にしている。LINEを導入したことで顧客との新たな接点と、多様なコミュニケーションのカタチが生まれた。今後はリアルとデジタルとを活用し、顧客とのコミュニケーションをさらに進化させていきたいとした。

書籍紹介 『いちばんやさしいLINE ビジネスコネクトの教本』

いちばんやさしいLINE ビジネスコネクトの教本 人気講師が教える双方向マーケティング実践 (「いちばんやさしい教本」シリーズ)
著者:豊田 義和、荒川 夏実
(株式会社トライバルメディアハウス)
発行:インプレス
出版年月日:2016/9/21
価格1,780円 (税別)
ISBN 978-4-8443-8085-6

本書では、「LINE ビジネスコネクトとは何か」から、「どのように活用できるのか」、「どのような課題を解決できるのか」、「活用前の検討すべきことは何か」を重点的にまとめ、さらに「運用開始後のポイント」まで網羅しているため、「LINE ビジネスコネクト」に関してこれ一冊で完全理解できるものとなっている。注目したいのは「LINE ビジネスコネクト」を活用し成果を上げている11社もの実践例。運用の背景と目的、友だち数や運用体制なども具体的で大いに参考になる。