文:大下文輔

インターブランドジャパンは、日本企業のブランド価値を算出し、そのランク付けを2009年より行っている。2月16日に、その第9回目となる2017年版の、Japan’s Best Global Brands(JBGB)およびJapan’s Best Domestic Brands(JBDB)につき、それぞれ上位40位までを発表した。インターブランドは、海外売上比率が30%以上のブランドをグローバルブランド、30%未満のブランドを国内(ドメスティック)ブランドと定義している。(昨年度の報告はこちら

グローバルブランドの成長は大きく、国内ブランドは停滞

主な結果を記すと、JBGBにおいて、Toyotaが9年連続の第1位となったほか自動車関連ブランド11ブランドがランクインし、JBGBトップ10のうち5つが自動車関連ブランドとなり、昨年同様自動車ブランドが日本のブランドを牽引している。成長率の高かったのはSubaru、Nissan、MUJI、Shimano、Tokio Marineである。うち、MUJIとTokio Marineが新たにランク入りしたが、ともに海外売上比率が30%を超えたため、JBDBからJBGBへと移動した。

JBDBではNTT DOCOMOが7年連続の1位であったほか、Softbank、auの大手通信企業のブランドが上位3社を独占している。新たにランクインしたのは、昨年上場を果たしたLINEとKampo Seimeiのほか、Sompo HoldingsとGustoの4ブランドである。また、Nitoriは2年ぶりに再ランクインした。成長率の高かったのは、Matsumotokiyoshi、KOSÉ、Calbee、Kaoと流通やFMCGなどが目立つ。

JBGBとJBDBを比較すると、平均の成長率がJBGBの6.3%に対し、JBDBの成長が0.5%であり、ブランドの内外格差が浮き彫りになった。インターブランドによれば、世界のグローバルブランドの平均年間成長率が4.8%だから、ランク入りした日本のグローバルブランドは総じて高成長であり、同様に国内ブランドの成長は停滞気味だと言えよう。

5つの成長パターン

インターブランドCEOの並木将仁氏によれば、JBGB、JBDBを見渡すと、伸びているブランドには5つの成長パターンがあると分析している。

 

ブランドを梃子とした5つの成長パターン
インターブランドのスライドをもとに、執筆者が編集
(※画像クリックで拡大)

これらの成長パターンに応じて、特徴的なビジネスインパクトがある。例えば、差別性によってブランドの成長が進む差別性強化型のパターンであれば、価格競争力向上による売上および利益率の成長が期待される。ビジネスインパクトは、言い換えればブランド価値の向上に伴うビジネス上の恩恵、といったところか。ただし、ここにあげたようなビジネスインパクトの向上をブランド活動の目的に据えているか否かは個別の事情による。

ブランド価値評価の前提

以下は、今年の発表の背景となる測定法などについて記したものである。インターブランドが行っているのは、ブランドの価値の金額換算である。ブランド価値が金額、すなわち量的な単位で表現されること(ブランド価値評価:Brand Valuation)の意味は次のようなものだ。

 1)ブランド価値の時系列の変動がわかる。
 2)ブランド価値の対競合比較が可能になる。
 3)ブランド活動の評価指標として使える。
 4)企業価値の1側面として見ることができる。例えば、M&Aの参考指標になる。

上場企業では、株価を基準とした時価総額が計算できるのと同様にブランドの時価総額というべきものが計算できるというわけである。株価のように時々刻々変化し、4半期ごとの経営指標になるわけではなく、年1回程度の算定になるわけであるから、ブランドは経営視点の長期化とも関連すると思われる。

ブランド価値評価は、必要性や重要性が叫ばれ、わが国でもその標準化を目指して検討されていたが、2010年にISO(国債標準化機構)によって策定された(ISO 16088)。これは、細かな手法を規定するのではなく、ブランド価値評価に必要な要件定義をしたものである。大きく言って法的分析(何をバリュエーションの対象とするのか)、行動分析、財務分析の3つのモジュールによって規定している。インターブランドのバリュエーションの方法は、ISO 16088の要件を満たしていると認定されていることから、信頼できるものと考えられている。

インターブランドのブランド価値評価方法の概要は、同社ホームページ上に掲載されている。大まかにまとめると、財務分析(どれくらい儲かるか)、ブランドの役割分析(ブランドがどれだけ将来利益に役立つか)、ブランド強度分析(ブランドによる将来利益がどのくらい確実か)の3つのモジュールから構成される。
ブランド強度分析は社内要素(3要素)と社外要素(7要素)の2つに分類され、合わせて10の要素を含んだスコアを独自の計算手法で割引率に変換し、その割引率で将来のブランド利益を割り引いてブランド価値を算出する、というものだ。
(因みに、多くのビジネス測定値と同様、ブランド価値評価は詳細な方法は公開されていない。すなわちブラックボックスであり、他者が同じ方法を用いることはできない。また、アナリストによる判断・評価が計算過程に組み込まれていることから、物理科学的な客観数値とは異なる。)

ブランド評価の難しさと境界問題

ブランドの価値は誰によって決まるか、というとブランドを体験する人である。その多くの場合は、製品・サービスの消費者である。上記のブランド強度分析の社外要素として挙げられている信頼確実度、要求充足度、体験一貫度などは個人消費者の主観の集積によって本来決定づけられるはずだ。
インターブランドのブランド評価は「世界共通の尺度」が謳い文句になっているし、結果としてスコアだったり金額だったりが「尺度(測度)」としては確かに世界共通かも知れないが、「何を測っているのか」において、国境などの境界を意識したら世界共通と言えるのだろうか。
ブランド評価の前提の1つに、「日本発」などの「本拠地(国)」をおいていて、冒頭に述べたように、その売上比率によって「国内」か「グローバル」かが変わる。国内とグローバルでは消費者(の感性)が異なる場合もあるだろうが、それをどのようにして共通化(補正・キャリブレーション)するのかをBest Japan Brands 2017の発表の場で尋ねたが、日本国内とグローバルで、それぞれのブランドのCompetitive Set(すなわち競合となる一揃いのブランド)の内容を変え、その相対評価をアナリストが行うことで評価の一貫性を保てる、というのが答えであった。
基準は同じでも境目やフィールドが異なれば質が違う(かも知れない)という問題は何もブランドに限ったことではなく、例えばイチローのヒットが日米で合算可能かどうか、について賛否両論分かれるのもその一例だろう。また、インターブランドではブランドランキングのための、オリジナルの消費者調査は実施していないとのこと。そんなものを実施したら、たちまち費用が膨れあがること必定である。

ブランドの境目や所属を決めるのは容易ではない、と思う。そもそも、それをどれだけ消費者が意識しているのか、が疑問だからである。そのブランドの境目(対象)を規定するのがISO 16088の法的分析(Legal Analysis)の役割で、少なからず苦労しそうだ。一方で無形資産を数値化することを徴税と結びつければ是非とも境目は必要となるだろう。

Tokio MarineはめでたくJBGB入りを果たしたが、日本発のブランドだというのに、何のブランドだか知らない日本の消費者は案外多いと思う。

 

イベント日時:2017年2月16日
場所:インターブランドジャパンオフィス(広尾)

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。