文:森田裕美
2017年4月25日、チーターデジタル(旧エクスペリアンジャパン CCM事業部門)主催の「Marketing Forward 2017 ~Spring~ オムニチャネル戦略におけるマーケティングオートメーション活用最前線」が都内で開催された。
今回は、レポート第1弾として、パネルディスカッション(基調講演)「企業が果たすべき、顧客に対する提供価値の向上とは?~オムニチャネルの実現とともに、あらためて考える企業戦略とコミュニケーション~」と、チーターデジタル(旧エクスペリアンジャパン CCM事業部門)による講演「オムニチャネル時代のコミュニケーション戦略のありかた~クライアントと共に歩む中で見えてきた、MA活用の本当の価値とは?~」の内容をご紹介する。
パネルディスカッションでは、オムニチャネルを実践している企業としてロクシタンジャポン 代表取締役社長(講演時) 西口一希氏、アビームコンサルティング デジタルトランスフォーメーションビジネスユニット デジタルマーケティングセクター ディレクター 本間充氏、モデレーターの月刊「宣伝会議」編集長 谷口優氏によってロクシタンジャポンの取り組みを中心に話が展開された。
顧客が買いたい場所を選ぶ時代
まず、ロクシタンジャポンについて簡単に説明しておくと、ロクシタンは世界90カ国でビジネスを展開しており、日本国内でも110店舗を持つ、ボディケア、スキンケア、ヘアケア、ハンドクリームなど、幅広いカテゴリの商品を製造販売している企業だ。
オムニチャネル化を積極的に進めており、機内販売、機内誌、テレビショッピング、自社・他社EC、雑誌、新聞、ダイレクトメール、モバイル、LINE、自社運営カフェ、ホテルなど、広告活動や販売をマルチなポイントで設計し、最終的には店舗もしくはECサイトで購入してもらう流れを構築している。
本間氏によると、店舗にせよECにせよ、企業側がチャネルを決めるのではなく、顧客が必要とするタイミングや場面で購入場所を選ぶ時期になっているという。
今まではECサイトを立ち上げられないから店舗のみで販売する、あるいは店舗で売れないからECサイトのみにする、という企業側の都合でチャネルを作っていたが、もうそういう時期は過ぎているとのことだ。
顧客との接点や販売場所、コミュニケーションを融合させ、顧客満足度を高いものにしなければオムニチャネル戦略は真の意味で成功とは言えないが、そこまで考えて設計している企業はまだ少ないのが現状だろう。
ロクシタンジャポンの西口氏によると、さまざまなタッチポイントで最適なコミュニケーションを行えるように設計はしているものの、販売チャネルにより組織が分かれており、担当も違うことにより、全体のクオリティコントロールが難しいという問題点もあるという。
企業側からすると、組織の問題も含めまだまだ課題があるというのが現状と言えそうだが、顧客側からすると、組織の都合はまったく関係なく、買いたいタイミングや場所で商品を購入したいというのが当然の欲求だろう。顧客がどこで購入しようとも同一のブランド体験を提供できるよう、企業側は組織体制なども含めオムニチャネル戦略をさらに進化させる必要がありそうだ。
これからのマーケティング責任者、経営者に求められるもの
両氏はさらに今後のマーケター、マーケティング責任者、経営者に求められるものについて語った。
時代の変化とともに消費者の行動やインサイトも変化してきており、マーケティングの責任者に求められてきているものも変化してきている。
今後、マーケティングオートメーションのようなツールでコミュニケーション施策を実行したり、データを取得したりすることもできるようになってくるが、ツールがキャンペーンやコミュニケーションの設計をしてくれるものではない。
したがって、マーケター、マーケティング責任者は、マーケティング戦略を立案し、コミュニケーションやキャンペーンを設計するということを今まで以上に求められ、企業の経営者は、目的やビジョンを数値で見ていくことで本当に必要な施策と投資額を見極めていかなければならない。
消費者が変化してきたように、企業側も変化していくことが今後オムニチャネルやマーケティングオートメーションを成功させる必須条件になってくる。
オムニチャネルへの対応にせよ、マーケティングオートメーションの導入にせよ、カスタマーインサイトの理解なくして進めることは危険である。オムニチャネル化で顧客の購入場所が変化している、また、顧客ごとに行動するタイミングが違うことを前提に、顧客に合うサービスを提供することが重要であり、小手先で考えた施策では良い結果を生み出すことは難しくなってくるだろう。マーケターの役割はますます難しく、そして、重要になってくるのだ。
続いて、チーターデジタル(旧エクスペリアンジャパン クロスチャネルマーケティング部 部長、役職は取材当時) 遠藤光一氏による講演「オムニチャネル時代のコミュニケーション戦略のありかた~クライアントと共に歩む中で見えてきた、MA活用の本当の価値とは?~」では、同社のCross-Channel Marketing Platform(以下、CCMP)の事例紹介と共に、そこから見えるMA活用の価値について説明がなされた。
現在の消費者は、商品やサービスの認知、検討、購入までのプロセスをいかなる場合でも同じサービスレベルでシームレスに体験したいと考えており、それに対して企業がどのような対応をしているのか、またその問題点について説明がなされた。
消費者を理解しきれていない企業の問題点
遠藤氏によると、企業は多様化しているチャネルへの対応を進めている状況であるが、チャネルに対応することに追われ、結果的に消費者の行動を無視してしまい、異なるチャネルから同一のメッセージが同一のタイミングで配信されてしまっていることが多いのではないかという。また、複数のチャネルから頻繁に送られてくるメッセージが原因で、企業との関係も切られてしまうということも現実に起こっている。
リアルの店舗とECを両方展開している場合、オンラインではデータを活用して施策を行っていても、店舗の購買データとECデータが統合できておらず、店舗で購入した後にオンラインでセール情報を送ってしまうなど、顧客を落胆させるようなことが起こりうる。
顧客が求める情報を適切なタイミングで適切なチャネルを通じて届ける、ということはマーケターであれば当たり前のように聞こえる話だろうが、実際に上記のような問題点がないか、改善される仕組みが回っているかどうか、今一度見直してみてはいかがだろうか。
また、消費者がオンラインとオフラインを自由に行き来することを大前提に、企業もオンラインとオフラインで同じレベルの顧客体験を提供できるようにしなければならないが、これは、オフラインとオンラインのデータを統合し、マーケティングオートメーションを活用することで可能になるだろう。
CCMPを活用して課題を解決
遠藤氏は、実際にCCMPを利用している3つの企業の事例を紹介しながらMA活用について説明した。
1つ目は、オンラインとオフライン(店舗)の購入履歴をCCMPに取り込み、商品の保証期間が切れる前にメールを配信して、マイページへのログインを促進するものだ。保証期間に関するメールは開封率が高いが、商品訴求をあえてせず、顧客が有益と感じる情報に限定することで、良好な関係を築けているという。
2つ目は、店舗で会員登録を促進させるためにLINEのビジネスコネクトを利用。店頭で紙の登録用紙に個人情報を記入させる手間を省き、LINEで簡単に登録できる仕組みにすることで顧客をストレスから解放し、かつLINEとCCMPを統合することでオンライン、オフラインのデータを統合し、活用できるようになったという。
3つ目は、店舗の購買履歴を利用してEC側へ送客。店舗の購買履歴データを1時間に1回CCMPに取り込み、1時間後に購入した商品の確認、お礼メールを配信。そのメールにさらにECで購入可能なおすすめ商品を紹介することでECサイトへの送客を図り、EC側の売上を増加させることに成功したという。
最後に遠藤氏は、チーターデジタル(旧エクスペリアンジャパン CCM事業部門)の強みとして、CCMPというシステムの提供のみならず、その導入から運用支援まで、それぞれのプロフェッショナルが連携してサービスをワンストップで提供することを挙げた。
システムとしては高速での一斉配信に強く、今回、CCMPの配信性能のSLAを標準装備し、より安心して利用してもらえるようになったという。メールの一斉配信、シナリオ配信が同じプラットフォーム上で利用できるのも魅力的だ。
続くレポート第2弾では、実際にCCMPを活用しているオイシックスと三陽商会の2社の事例を紹介するので、期待していただきたい。
※編集部注記:2017/6/8に、エクスペリアンジャパン CCM事業部門から新たにチーターデジタルが設立された。
脚注:チーターデジタルがクロスチャネルマーケティングの新時代を導く|2017/6/8
記事執筆者プロフィール
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森田 裕美(Hiromi Morita) プログラマからキャリアをスタートし、外資系企業でマーケティング・コミュニケーション業務全般を経験した後、ウェブ制作会社や広告代理店でウェブプロデューサーとして制作・広告プランニング・分析などを経験。2012年12月に日本初のインバウンドマーケティングエージェンシーであるマーケティングエンジンに参画、セールス&マーケティングを中心にHubSpotのコンサルタント、テクニカルサポート、プロダクトやマニュアルの翻訳などを経験。その後はフリーランスで企業のマーケティング・コミュニケーション業務のサポートやスタッフの教育を中心に、インバウンドマーケティングのサポート、取材やブログの執筆なども行っている。 |