文:山野愛美

2017年7月13日、チーターデジタル主催の「Marketing Forward 2017 ~Summer~ マーケティングオートメーション活用最前線」が都内で開催された。

レポート第1弾に続く今回のレポート第2弾では、MA導入事例として、オイシックスドット大地の講演と、千趣会イイハナと三陽商会とのパネルディスカッションをご紹介したい。

オイシックスドット大地 経営企画本部 米島和広氏
オイシックスドット大地 経営企画本部 米島和広氏

オイシックスドット大地は、顧客体験向上のための新たな施策にチャレンジし続けている。本講演では「運用」にフォーカスし、どのような体制で運用しているのか、運用を成功させるための秘訣は何なのか、などの体験談を経営企画本部 米島和広氏が語った。

お客様がより長く続けられる仕組みをつくる

Oisixは日常食品×サブスクリプションECで、13万世帯が利用し、売上は210億円規模の事業となっている。LINEを使った施策や、アプリプッシュ、SMS、ブラウザプッシュといった新たなチャネルの拡充にいち早く取り組み成功させている。

米島氏によると、サービスの特徴は、
1)お好きな時に好きな量だけお客様の生活に合わせてご注文いただくスタイル
2)入会金・年会費は一切無料
3)土日を含め、お届けする日時や場所の指定は可能
の3つである。

オイシックスでは「売上はお客様一人ひとりの売上の積み重ねである」という考えが会社に浸透している。よって目の前にいる一人ひとりのお客様に、長く使い続けてもらう仕組みを構築することを、マーケティングにおいては重要視している。

その中でCCMPは、「一度お試しセットをご利用いただいたお客様に定期会員になっていただく」「お客様のLTVを引き上げる」という2つの範囲で活用している。それらの施策の運用に関しては、分析チームと施策を実行するマーケティングチームの2チームで協力して行っている。

データに基づいて決定した施策を展開

今回は、
1)変更し忘れ通知
2)食べ方お知らせメール
3)定期登録の誘導メール
の3つの施策が紹介された。

1)の「変更し忘れ通知」は、定期ボックスの内容を変更し忘れている方に通知を実施する。定期ボックスには、週に1回、Oisixからのおすすめの商品が自動で入るが、この注文変更し忘れを続けることが解約につながることがわかっているからだ。
通知はLINEとSMSの2種類の方法で実施しているが、SMSだとより緊急の色が強くなるので、できるだけLINEで通知するようにしている。そのために、LINEのアカウントと連携する仕組みを構築しており、今では全会員の50%以上のLINE アカウントとの連携を実現している。

2)の「食べ方お知らせメール」は、産地や鮮度にこだわっているオイシックスの商品を、よりおいしく食べて頂くために、食べ方をご紹介する施策だ。Oisixの商品への満足度を上げてもらうことが目的であるため、特定の商品を購入したお客様に対して、その商品の食べ方をメールでお知らせしている。

3)の「定期登録の誘導メール」は、お試しセットをお買い上げいただいたお客様に、定期登録をおすすめするメールである。お客様がお試ししたセットごとに、おすすめする定期登録のセットの内容を変え、登録率をアップすることを目指している。

目的、実施方法と役割分担を明確にし、評価指標を決めて数字を追う

施策を実施する際には、社内のテンプレートを活用し、事前に必ず、目的、現状、仮説、コスト試算、実施方法/実施箇所をメンバーで共有するようにしている。そうでないと、施策を実施している間に目的などが不明確になってチームがバラバラに動いてしまい、本来の目的を達成できなくなるからだ。
また、マーケティング施策実行時のプロセスごとの役割分担も明確にしている。課題提起から現状確認、仮設立案、施策実行、改善提案という一連の流れをフェーズごとに分け、どのチーム、どの個人がメインで担当するのかを決めているのだ。これら一連の流れをやりきるのは非常に大変だが、確実に前に進めることができ、施策を成功へと導くことにつながっている。

決まった指標がないままに「まずやってみよう」だと、何が失敗で何が成功なのかがわからず、だらだらと続けることになりがちだ。しかし、Oisixでは「どの指標が○○%以上で成功、○○%以下で失敗」という基準を明確にしており、仮説を検証しやすくしている。
「変更し忘れ通知」の例だと、通知の初回開封率とその後の解約率に相関関係があることが分析によって判明した。よって初回開封率を改善指標に設定し、改善するための仮説検証を繰り返した。これを抜本的に改善したのが、LINEを使った通知である。その後は、LINEの連携率を改善指標として再設定しており、それを改善することが全体の解約率を下げることに大きく貢献している。このように具体的な指標を数字で追うことが重要だ。
今後の展望としては、よりタイムリーに個別の顧客とコミュニケーションをとることができるかを模索したいと言う。

パネルディスカッション「マーケティングオートメーション体験記」
パネルディスカッション「マーケティングオートメーション体験記」

続いて、千趣会イイハナ マーケティング&Web制作グループ 二ノ宮博士氏と、三陽商会 IT戦略本部 ウェブビジネス部 オムニチャネル推進支援グループ長 ディレクター 安藤裕樹氏によるパネルディスカッションでは、CCMP導入を非常に円滑に進めることができた2社による戦略立案から施策の実装、運用までの話を聞くことができた。

導入成功の秘訣は、目的の明確化とチームへの共有

千趣会イイハナの二ノ宮博士氏によると、導入成功の秘訣は、
1)導入の目的が明確であったこと
2)運用する人間を本気にできたこと  3)現場の担当者のリテラシーが高かったこと
だという。

千趣会イイハナでは、フラワーギフトを扱うECサイトを運営している。フラワーギフトは母の日をはじめとした記念日に贈ることが多いので、購入機会は1年に1回から数回だ。そのタイミングで、他の会社のサービスではなく千趣会イイハナのサービスを思い出してもらうことが、売上を伸ばすためには重要であった。
目的が明確であり、それは運用担当者にも共有できていた。さらに、CCMP導入のための打合せにも運用担当者を巻き込んだことで、本気になってもらえたと振り返る。

一方、老舗アパレルメーカーである三陽商会の安藤裕樹氏は、導入成功の秘訣を、
1)データ基盤の整備がある程度完成していたこと
2)導入の目的が明確だったこと
3)外部の関係者も含め一つのチームとして機能していたこと
4)自社内のシステム部門を巻き込んで進めてきたこと
5)短期的な売上・CVRの向上だけがMA導入の目的になっていなかったこと とまとめている。

この中でも特に重要なことは、「部関係者含め1つのチームとして機能していたこと」であると振り返る。CCMP導入プロジェクトにおいては、自社内の各部署や、外部ベンダーを含む多くのステークホルダーが存在した。その全員が同じベクトルを向き、同じゴールを見据えていたため、その場凌ぎではない、先を見据えた提案や意思決定が自ずとできたという。

両社の成功の秘訣に共通しているのは「目的の明確化とチームへの共有」だ。なお、導入時の苦労話についてモデレーターの美濃氏が質問したが、二名ともに「目的を共有できていたので特には思い出せない」とのことだった。

顧客ごとのコミュニケーション施策の企画・分析に時間を使う

安藤氏によると、CCMPの導入後は、データの作成などの準備に掛かる時間が圧倒的に減ったと言う。現在は、会員登録サンクスメール、初回購入促進メール、フォローメールなどのメールは自動で配信するように設定しており、以前に比べ、企画や分析に時間をあてられるようになったと言う。

二ノ宮氏は、花のギフトを贈るのが年に数回のイベント時であるという特性を反映し、母の日、父の日、誕生日の3つのイベントを軸に顧客の購入パターンに沿ったシナリオを作成してメールを送るようにしていると言う。
さらなる購入機会を探りマーケティング施策に生かすため、顧客が花を贈る際の「メッセージ」の文字列を分析するなどして、購入の経緯を把握しようとしているそうだ。

安藤氏と二ノ宮氏への今後の展望についての質問では、共通して、より顧客のニーズに沿って優れた体験を提供するためのプラットフォームとして活用していきたいとのことだった。
そのために、安藤氏はAIとの連携やデータ分析などによる顧客目線の追求、二ノ宮氏はタイミングの最適化および「千趣会イイハナで買う意味を伝えること」すなわちブランディングをしっかり行っていきたいと語りパネルディスカッションを締めくくった。

 

記事執筆者プロフィール

山野 愛美(Ami Yamano)

コンサルティングファームでIT・業務、経営戦略のプロジェクトを幅広く歴任した後、事業会社でWebサービスのプロデューサー職として事業の立ち上げを担当。その後に独立し、現在はデジタルマーケティング領域などでコンサルティングやライティングの仕事を行っている。