文:山野愛美

デジタルマーケティングに必要なすべてを備えたCMS(コンテンツ管理システム)およびCXM(カスタマーエクスペリエンス管理)の開発、導入を手掛ける株式会社ジゾン(XyXon)。今回は、同社代表取締役社長である神野 純孝様(以下、敬省略)に主力ツールである「HeartCore」のことを中心にお話を伺った。
会社設立の経緯と主力商品であるHeartCore誕生秘話
椎葉:ジゾンは神野さんがファウンダーとして設立された会社とのことですが、立ち上げられた経緯や当時の状況などについて聞かせいただけますか。
神野:今から17~18年前になりますが、某アメリカ企業の日本法人に勤めていました。当時、某アメリカ企業の従業員数は世界で4,400人強、日本国内では80人ほどの規模でした。
そこでは主にお客さまのサポート対応を行なっていたのですが、同社のサポート体制がまったく整っていませんでした。どう考えてもバグなのに、本社に問い合わせると「仕様」ということで片付けられてしまう。なので、バグがあった場合は、都度本社のエンジニアに個別に修正の依頼をしていましたね。お客さまから積極的に要望を聞き、可能な限り対応できるように日々奔走していたのですが、限界がありました。
そのうち、次第にサポート体制も含め、もっと日本のお客さまに寄り添ったシステムの開発に携わりたいと思うようになりまして、それがジゾン設立のきっかけとなっています。設立にあたり、イギリスからHeartCoreの原型となる製品を持ち込み、日本語化するところから始めました。最初の2年間は受託開発や他のイギリスの会社のサポート業務を行なって売上を作っていました。
椎葉:ジゾンを立ち上げられた頃の何か思い出に残るようなエピソードはありますか。
神野:最初にHeartCoreを買ってくださったのが大手印刷機器メーカーさんでした。当時、私たちにはまだ実績も知名度もありませんでしたが、某アメリカ企業時代の私の真摯な対応見てくれていて、私を信用して導入すると言ってくださったのです。

椎葉:それはうれしいですね。
神野:その後は、大手印刷機器メーカーのネームバリューのおかげもあって、次々と大手企業との契約が決まりました。
CMS業界では、当時は50社ほど競合がいましたが現在は10社も残っていません。年々CMSのマーケット需要は拡大しています。ですが、サポート体制が追いついていない企業が多いです。また、顧客の高度化するニーズに対応できず、CMSの進化を止めてしまったところは残念ながら衰退したようですね。
椎葉:ずばり、HeartCoreがCMS市場でナンバーワンになれた勝因は何だと思いますか。
神野:サポート体制の手厚さと細やかなアップデートだと思います。CMSの開発、販売を行なっていると日々お客さまからさまざまな要望があります。その要望は時代とともに変化していくので、3カ月に1回はバージョンアップするようにしています。
HeartCoreの販売当初、我々はPHP、.NETの言語をサポートしていきました。また、ブラウザもIEの4から最新版と考えられる環境をすべてサポートできた会社は稀でしたが、ジゾンでは当時からすべてのプラットフォーム、すべてのブラウザに対応していました。さらに、データベースやOSなど考えられるほとんどすべての環境をサポートしていたと思います。この手厚さはジゾンが唯一でしたね。
椎葉:なるほど。それだけ多様な環境・言語に対応されるのは大変だったと思うのですが、それよりもメリットの方が大きかったですか。
神野:そうですね。複数種類のOSやデータベースなどを使っている企業が実は多いのですがそれに対応するCMSは他にありませんでした。例えば、AIXにWebSphereにDB2の環境だと、対応できるCMSは他に存在しません。なので、それが成功の秘訣の一つだと考えています。もちろん体制的には大変でした。エンジニアからは、サポート範囲をもう少し狭くしたいと何度も言われましたが、軸をぶらさず、手厚いサポートに注力したからこそ今のジゾンがあるのだと思っています。
ターゲットは大規模なサイト。これまでの不可能を可能にするHeartCore
椎葉:メインターゲットはどのような層なのでしょうか。
神野:Webサイトに力を入れている大規模なサイトです。ページ数が多いサイトや同時に数十万を超えるようなアクセスが集中するサイトには弊社の強みが生かせると思っています。
例えば、1,000ページを超えるサイトを15時ぴったりに公開したいとします。ですが、1,000ページともなると動画やPDFなどさまざまなファイルが複雑に入り込んで重たくなり、公開に時間がかかってしまいます。そのため、従来のCMSでは15時にすべて公開されている状況にするには14時半くらいから公開し始めなければ間に合わず、それだと情報開示タイミングが制限されている場合などにはいろいろと不都合が出てきていました。
それを解決したのが弊社です。今現在、HeartCoreはversion10までアップデートされています。パフォーマンスの改善もかなり進んでいます。例えば、100万ページを管理するような環境だと、Version7まではそれでも5分ほど待ち時間が生じていたのですが、今では待ち時間ほぼゼロでストレスを感じさせません。こんなCMSは知りうる限り2種類のみです。
また、数千万PVが集中するようなサイトでも、サーバダウンすることはまずありません。少し前まではアクセスが集中するとサーバダウンしてしまうのは仕方のないことでしたが、もはやサーバダウンしないのが当たり前の時代が来ています。
椎葉:なるほど。大規模なサイトやクリティカルな課題がある企業にとってはピッタリはまりますね。
HeartCoreが目指すところは、いかにユーザー個人を特定していくか
椎葉:CMSのできる範囲というのはどんどん広がっていると思うのですが、ジゾンではCMSをどのように定義されていますか。
神野:CMSには2パターンあり、1つ目は1ページを1つのHTMLとして構成する静的なものです。2つ目はタイトル、本文、画像などパーツごとに分けて細かく管理するものです。この場合はHTMLを動的に生成して表示します。
弊社のHeartCoreではこのどちらの方法も採用しています。HeartCoreを手掛け始めた10年前ほどは、1つのページで管理する方が楽だということで、動的なCMSはあまり採用されませんでした。ですが、スマートフォンの普及とともに流れが変わってきたのです。さらに、訪問者一人ひとりにコンテンツを出し分けるような「パーソナライゼーション」が一般的になってきた今、特に大手企業では完全に流れは動的CMSになっています。
MA(Marketing Automation)でもパーソナライゼーションは可能ですが、メールマーケティングがメインであり、Webサイトでのパーソナライゼーションには制約があり、完全なパーソナライゼーションができるとは言えません。ですが、動的CMSであれば何十パターンものデータを複雑に組み合わせ、訪問者の志向に限りなく合わせたコンテンツを提示することができます。

椎葉:そのあたりがHeartCoreの強みなんですね。
神野:CMSにおいて考えられる機能はほぼすべて網羅できているところだと思っています。HeartCoreにはデジタルマーケティングに必要な要素と、特に大企業が求める機能的、および非機能的な要素も備わっています。
最近の傾向としては、オープンソースのWordPressのようなシンプルなCMSにとどめる企業と、多様な機能を持ちサポートの充実したCMSを採用する企業と二極化していますね。また、前述したように、日本のお客さまに寄り添ったサポート体制が弊社の強みだと思っています。
時代は動的CMS。AIの早期導入など常に先を見据えて進化し続けるジゾン
椎葉:今のライバルはどこですか。
神野:以前はN社でした。3~4年前からはS社、そして、ここ1~2年ほどはA社と競合しています。
5年ほど前までは静的CMS に力を入れているN社が断トツで強かったですね。先ほど述べたように、7~8年前までは静的CMSが主流でした。表示が早いことやセキュリティ面が強いこと、CMSサーバがダウンしてしまってもウェブサーバと切り分けておけば閲覧には影響しないことなど静的CMSの方が安心といったイメージが定着していました。
しかし、スマホが普及し、表示できる画面が小さくなったことと、パーソナライゼーションが一般的になりつつある昨今、静的CMSだけでは機能が不十分です。現に、静的CMSにこだわっていたN社も今は動的CMSも並行して手掛けています。かつては表示の遅さやセキュリティ面で課題の多かった動的CMSもどんどんクオリティが上がってきています。検索機能の強さやタイムリーな情報の表示など時代の流れに沿っているのは圧倒的に動的CMSですね。
椎葉:最近、貴社と競合する機会が増えたというA社は常に前へ前へと進んで行きますよね。買収などの動きも速いですし。
神野:私たちも負けてはいませんよ。常に先を見据えています。機能の豊富さといった点ではA社製品は圧倒的な存在ですが、一方で、使い方が難しくて活用しきれないという声もあります。A社でできることが100だとしたら、いま日本の企業の多くが求めているものは30です。であれば、弊社は40を目指したいと思っています。その分、日本人にとっての使いやすさとサポート体制を強化していきたいですね。
椎葉:グローバル企業での採用となるとやはりA社が強いように思います。資本力のある巨人A社とどのように勝負していくのですか。
神野:確かにA社には資本力があります。ですが、弊社はA社がまだ十分にやれていないところを突き詰めていきたいと思っています。
具体的には、AIの導入ですね。AIがあれば人がコツコツとABテストを行う必要もなくなると思っています。弊社では3年ほど前からAIの開発を進めていて、まずアメリカでAIの開発を手掛けていた企業を探して何度もアプローチし、情報収集を行ないました。
その後、GoogleやFacebook、Amazonなどを中心にAI開発を手掛けるPartnership on AIプロジェクトが立ち上がり、そこに弊社のエンジニアも2名入っています。そのため、タイムリーに情報を得ることができ、開発にも活かせるのです。
また、すでにiOSではCookieが使えなくなっています。将来的には間違いなくCookieはなくなります。そのため、Cookieなしでも個人を特定できるよう、HeartCoreにはすでにその機能を搭載しています。ここも弊社の強みですね。
椎葉:なるほど。HeartCoreの導入企業について教えていただけますか。
神野:長年ご利用いただいているところで申し上げますと、日本航空様や日比谷花壇様などがあります。450社を超える導入企業のほとんどは社名をお出しできないのですが、弊社Webサイトには導入事例を10数本公開しております。
常に先を見据えてお客さまに寄り添った国内シェアNo.1企業であり続けたい
椎葉:CMSもMAもどんどんとその範囲を拡張し、お互いの領域は重なってくると思うのですが、これまで競合でなかった企業の脅威に関してはどのように捉えていらっしゃいますか。
神野:昨今はさまざまな分野が統合して一つの製品として販売する傾向があります。現在ではそれができるのはAdobe、OracleやIBMなどほぼ外資系しかありません。
ただ、外資系企業にとって、日本での売上は全体のほんの一部分に過ぎず、日本向けの機能を充実させることのプライオリティはそれほど高いとは思えません。だからと言って、CMS市場に新しい会社が簡単に参入できるかというと障壁が高い。
それが私たちにとっては大きなアドバンテージです。現状、日本ではひとり勝ち状態ですが、そこに満足していてはいけないと思っています。
椎葉:日本企業ではあるけれども売上規模はすでに海外の方が大きいというような企業の場合、CMSはどのように導入されているのですか。
神野:日本と海外とでCMSを統一する必要はないと思っています。日本が主導権を持っている会社の場合は海外でも日本と同じCMSを導入されていたりもしますが、ほとんどの場合は、日本と海外で別のCMSを使用しています。
海外のシステム会社による日本でのサポート体制はまだまだ手薄です。特に日本での人材不足が目立ちますね。弊社ではそこをカバーし、これからも日本のお客さまに寄り添った国内シェアNo.1企業であり続けたいと思っています。そのためにも常に広い視野を持って先に進んでいきたいですね。
椎葉:なるほど。これからのさらなる進化が楽しみです。本日はどうもありがとうございました。
株式会社ジゾン
https://www.xyxon.co.jp/
コンテンツ管理システム「HeartCore」
https://www.xyxon.co.jp/heartcore/index.html
記事執筆者プロフィール
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山野 愛美(Ami Yamano) コンサルティングファームでIT・業務、経営戦略のプロジェクトを幅広く歴任した後、事業会社でWebサービスのプロデューサー職として事業の立ち上げを担当。その後に独立し、現在はデジタルマーケティング領域などでコンサルティングやライティングの仕事を行っている。 |