文:大下文輔

CMSツールのHeartCoreを有するジゾン主催によるセミナーが2017年10月24日に行われた。
基調講演は、IT分野のコンサルティング・市場調査会社であるアイ・ティ・アール(ITR)シニア・アナリストの三浦竜樹氏による『「デジタルマーケティング最新市場動向とその課題と解決に向けて」~データドリブンマーケティングにおけるWebコンテンツ管理の重要性~』と題するものだ。
講演の前半は、主としてツールの市場動向に焦点を当てたものであり、後半はツールの導入も含め、デジタルマーケティングについて企業が抱える課題とその解決に向けた内容であった。本報告では、主として後半部分をダイジェストしてお届けする。

ITR シニア・アナリスト 三浦竜樹氏
ITR シニア・アナリスト 三浦竜樹氏

デジタルマーケティングの定義

講演の冒頭で、まずデジタルマーケティングの一般的(広義な)定義と、同社が策定する(狭義な)定義の説明があった。
広義の定義として、「デジタルメディアを通じて、製品やサービスあるいはブランドのプロモーションに代表されるマーケティング活動全般」という認識が広まっている。その場合、メールマガジンを発行しているだけでもデジタルマーケティングを実施していることとなりかねない。 そこで、ITRとしては「デジタル化されたプロセスとデータを活用し、実証に基づいた判断を行うことによって、マーケティング施策全体を最適化する活動」と定義している。
(ちなみに、「狭義」の定義の方が対象領域は広い。なお、狭義の定義は、データドリブンを明らかに内包していることと、強調されてはいないが、マルチチャネルも扱うという点で、牧田幸裕氏の定義に近い。重要な点は、ITRが、デジタルマーケティングはインターネットに閉じたものではないと指摘している点である。)

また、講演の中で、データドリブンマーケティングについては「日々急速に増え続けていく膨大なデータを蓄積し、分析結果を基に施策立案などに活用し、PDCAサイクルを回しながらマーケティングROIを最適化する為の手法」と定義している。

企業が抱える4つの課題

デジタルマーケティングの実施に関して、企業が抱える問題として次の4点が指摘され、講演の最後に4点をまとめる包括的な解決策が示された。

<ツールの導入に関する2点>
1.デジタルマーケティングツールが次々と台頭してきていること
2.大手ITベンダーの買収による収斂とプラットフォーム化が進行していること

<デジタルマーケティングの実施プロセスと人材に関わる問題2点>
3.デジタルマーケティングへの投資効果が見えづらいこと
4.マルチチャネルやブランド/部門横断でマーケティングを見る人材が不足していること

ツールに関する2点は、講演前半のツール市場の整理で明らかにされたことであるが、数多くの製品が次々と現れること、大規模化が進んでいることなどを踏まえ、企業としてどのようなベンダー、製品を選ぶべきかという課題である。
すなわち、CMSツールも、MAツールも、それぞれがプラットフォーム化してくると、隣接領域が重なってくる。詳細な説明は省略するが、解決策の指針としては、大手ITベンダーのプラットフォームとそこに連携可能な個別領域で最適な組み合わせを精査する、ということを挙げている。

図.1「各種ツールの関連づけ」
図.1「各種ツールの関連づけ」
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3点目のデジタルマーケティングへの投資効果が見えづらいというのは、ITRが実施したユーザー調査の結果(ITR Cross View:マーケティング管理市場の実態と展望2017)、MAツール未導入の企業が課題として多く挙げた項目である。
4点目のブランド/部門横断的にマーケティングを見る人がいないという課題も、同じ調査で挙がった上位項目である。
要は、これらはツールの導入の遅れの原因であると同時に、デジタルマーケティングへの取り組みの遅れの原因ともなっている。

デジタルマーケティング実施における3軸の分断

三浦氏は、実施プロセスと人材にまつわる課題に対して、いくつかの観点から、問題点を洗い出すとともに、解決の方法を探った。

まず、コンサルティング業務の中で、3つの軸でサイロ化(担当者、あるいは情報が分断されている状況)していることが観察されたという。

第1の軸は、チャネル(リアル、アプリ、メール、Web、SNSなど)での分断である。
これは例えばWebの担当者とメールの担当者の連携が取れていないということである。その場合、メールを見てWebに来たときに何らかの齟齬(そご)が起こる可能性が生じる。

第2の軸は、カスタマージャーニーの分断である。
例えば、メールで注意を促した、ということはわかったとして、その後、その人がウェブサイトに来て、その後、店舗で商品を競合製品とも比較し、最終的にECサイトで製品を購入しているかどうかまで見ていない企業も少なくない。

第3の軸は、データと業務プロセスがバラバラになっていることだ。
例えば、比較検討サイトから自社のウェブサイトに来て、その後購入してくれた人がどのくらいいるのかを知りたいと思っても、購買データや顧客データが取れているにも関わらず、商品ページ担当者は、データが連携・統合されていない、あるいはされていてもアクセス権がないなどの理由で、比較検討サイトから自社商品サイトまでの流入数しか見ることができない場合のような事を指す。

図.2「チャネルのサイロを超えて、組織とデータが俯瞰(ふかん)できる状態」
図.2「チャネルのサイロを超えて、組織とデータが俯瞰(ふかん)できる状態」
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それが整理され、デジタルマーケティングのプラットフォームができた状態が図2だ。
例えば、どのようなデータをDMPに格納して蓄積していって、顧客をセグメントし、ターゲティングを行うのか、それをMAでシナリオを設計して自動化し、メールベースで発信し、CMSでコンテンツをパーソナライズするのかが決まった状態である。あるいは、カスタマーサポートでは、フィードバックシステムやチャットを連携するといったようなことである。
だが実際には、それぞれ自分たちのチームに閉じてしまい、先に述べたような分断が起こりがちだ。

まずは、状況の整理を

そこで、第一歩を踏み出すやり方としてお勧めするのは、図3のように、縦軸に情報取得の深度をとり、横軸にカスタマージャーニーをとったマスに整理して、そのマス毎に、1)どんな施策をとり、2)その担当者が誰で、3)どんなツールを使っているのか、4)そのツールを使うためにどんなデータを利用し、施策の結果として何が得られたかをどのようなKPIを使って検証しているのか、という4つの面で記述、整理してみることだ。

図.3「自社のデジタルマーケティング状況を把握するためのマトリックス例」
図.3「自社のデジタルマーケティング状況を把握するためのマトリックス例」
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担当者が異なるマトリックスごとに整理し、現状の棚卸しをすることで、例えば、あるセルで何らかのツールを使っているのに、なぜその結果を反映できていないのかといったような課題が浮き彫りになる。そして、何が欠けているのかがわかれば、そこでどのような対策を取るべきか、が見えてくる。

そして、図2の俯瞰(ふかん)図でも図3のマトリックスでも示されたように、あるいは、デジタルマーケティングの定義にある通り、デジタルマーケティングは、従来型の購買で終わるようなものではなく、カスタマージャーニーのすべてにわたって行われるものだから、さまざまな専門性をもった、さまざまな領域の人、それも社内だけでなく社外も含めてさまざまなプレイヤーが関わってくる。それらのプレイヤーがバラバラにではなく、チームを組んで社内のマーケティングITの司令塔として、デジタルマーケティングを推進していかなければならない。
具体的な構成メンバーは、IT部門、マーケティング、営業、カスタマーサポート、デジタルビジネス部門の各代表に加え、社外のITベンダー、広告代理店がメンバーとなった組織を司令塔として、どのようなツールをつくったシステム構築を行い、どのような流れでカスタマージャーニーの流れに沿って、カスタマーエキスペリエンスの向上につながる策を打てるようにするかを、進めていくことが求められる。(図4)

図.4「デジタルマーケティングの司令塔となるチーム構成」
図.4「デジタルマーケティングの司令塔となるチーム構成」
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その全方位をカバーする司令塔によってデジタルマーケティングを推進することが、先に述べた4つの課題を総合的な解決に導く方法だ、というのが三浦氏の結論である。(図5)

図.5「デジタルマーケティングの課題とその解決の方策」
図.5「デジタルマーケティングの課題とその解決の方策」
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記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。