文:椎葉 宏

「デジタルマーケティング」という言葉の定義や使い方は人や会社によってさまざまだが、大きく2つに分けられそうだ。

一つは、かなり広い定義で、旧来のメディアも含めてマーケティング自体がデジタル化し、デジタルとそれ以外の垣根が無くなっていくというもので、「統合化」という方向性を示している。
広い方、大きい方の定義ということで、“DIGITAL” marketingとしておくとわかりやすいかもしれない。

もう一つの定義は、もっと狭いもので「インターネットマーケティング」「ウェブマーケティング」とほとんど同義だ。それならわざわざ「デジタルマーケティング」と言わず「インターネットマーケティング」で良いではないかという気もするが、インターネットの存在感がますます大きくなってきており、デバイスやプラットフォームなどの変化も相変わらず速く、もともとの「インターネットマーケティング」から大きく変質していることを表現したいという意図が根底にあるようにも思う。
インターネットでマーケティングを行う上での考え方、ソリューション、システムの「細分化」、「複雑化」、「多様化」という方向性を示しているものでもある。
こちらは”DIGITAL”に対して、小さい方の”digital” marketingとしておこう。

本稿では、この2つの動き、方向性をあらためて整理し、それをどのように捉え、どのように対応していけばよいか、ということについてまとめてみたい。

「統合化」という方向性

まずは、”DIGITAL” marketingについての識者の意見を見てみよう。

デジタルインテリジェンスの横山隆治氏は、以前からご自身のブログ『業界人間ベム』や書籍『新世代デジタルマーケティングなどで、
「マーケティングのデジタル化がマーケティングの再定義を促す」
「デジタルマーケティングは、いずれマーケティングと同義となる」
ということを言われている。

詳細は、以下のブログ記事を読んでいただきたい。

・デジタルマーケティングとは何か(業界人間ベム 2015/6/27)
http://g-yokai.com/2015/06/post-353.php

・デジタルマーケティング専門の罠(業界人間ベム 2016/5/14)
http://g-yokai.com/2016/05/post-380.php

 

また、信州大学経営大学院 准教授の牧田幸裕氏も、著書『デジタルマーケティングの教科書』の中で、
「デジタルマーケティングは従来型マーケティングを包含し上書きする」
と述べられている。

・マーケティングの近未来予想図
――書評『デジタルマーケティングの教科書 5つの進化とフレームワーク』
https://marketing-base.jp/books/6436

 

事業会社でマーケティングを実践する立場である日本マクドナルドCMOの足立光氏も、
「デジタルという言葉を使わない」
「デジタルだけを考えない」
ことが重要だと講演で話されている。

・デジタルだけを考えず全体を見よ:日本マクドナルドのデジタル戦略
(Adobe UNITE 2017/10/24)
https://www.adobe.com/jp/insights/171002-mcdonalds-japan-digital-strategy.html

 

実際に、ユーザーはリアルとデジタルをまたがって行動しているし、重なった2つの世界に生きていると言ってもよいような状況になっている。ユーザー視点で、リアルとデジタルとの両方を同時に考えないと片手落ちになるのは当然だ。

「細分化」「複雑化」「多様化」という方向性

一方の“digital” marketingの状況もおさらいしておこう。

インターネットがマーケティングの中で占める割合、存在感はますます大きくなってきていて、相変わらず変化も速い。

インターネットにアクセスするデバイスとしては、スマートフォンがここ10年でこれほどまでに普及し(iPhone 3Gをソフトバンクモバイルが発売したのが2008/7/11)、いまやモバイルからのアクセスはPCからのものを超えるようになった。

ソーシャルなプラットフォームは、Twitter、Facebookに加え、Instagramが急速に普及し、日本ではLINEの動きも目を離せない。個人間のやり取りは、若年層を中心にメールからLINEなどにシフトしてきていることにも注目すべきだ。

・2017年 日本の広告費(電通 2018/2/22)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2018/0222-009476.html
では、「インターネット広告費は、4年連続二桁成長」という発表があったばかりで、内容的にも「予約型広告から運用型広告へのシフト」「動画広告の拡大」と著しく変化していることがわかる。

インターネットマーケティングのテーマとしては、広告はもちろん、ウェブサイト、メール、ソーシャルメディア、SEO、コンテンツマーケティング、リコメンド、ウェブ接客、動画、インフルエンサー、アンバサダーなどさまざまあり、専門的なベンダーや新たなサービスが次々に生まれている状況で、それぞれの分野で、細分化、専門化が進んでいる。

DMP、MA、CMSなどのシステムは、機能の重複領域が増えてきており、いずれはそれらがより大きなマーケティングシステムに進化し、いくつかのプラットフォームを中心としたエコシステムへと統廃合が行われるのではないかと思うが、現状では百花繚乱といった状況だ。

さらには、位置情報、音声認識、IoT、AI、ブロックチェーンなどに関連するソリューションも、これから次々に新しいものが出てくるだろう。

2つの方向性、動きについての捉え方と対応

上記の”DIGITAL” marketingと”digital” marketingの2つの動きは、「統合化」に対して「細分化」ということで、一見反対向きに見えるかもしれないが、「細分化、専門化してきているからこそ統合する必要があるし、それが重要になってきている」というように考えた方が良いだろう。

パーツが無限に増えた一方で、リソースは常に有限なので、目的をしっかりと定め、今まで以上にパーツを効率的かつ効果的に組み合わせることが求められる。

その中で、目的達成に向けて、マーケティングの責任者、担当者は、
・ 課題と可能性を、正しく定義、認識すること
・ 課題解決、可能性実現のためのプランをつくること
・ 施策実現のために必要なソリューションやパートナーを見つけ出し、効果的に組み合わせ、体制を構築すること
・ プロジェクトをマネジし、各パートをしっかり機能させること
・ 全体の効果を検証し、効率化と効果向上のためのチューニングを行うこと
を進めていく必要があるだろう。

変化も激しく、拡大もし続けるデジタルマーケティング、マーケティングの領域で、課題解決を行うことの難易度は今後もさらに上がっていくと考えられる。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ 代表取締役 椎葉 宏(Hiroshi Shiiba)

株式会社スペースシップ 代表取締役 椎葉 宏(Hiroshi Shiiba)

京都大学経済学部卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)戦略グループ、ネットエイジ(現ユナイテッド)事業開発担当執行役員を経て、2000年11月にアルトビジョン(2012年に3社統合し、現チーターデジタル)を設立。アルトビジョンでは、各業界トップレベルの企業のメールマーケティングを、戦略、クリエイティブ、オペレーション、システムの各面から支援。2013年4月より、スペースシップにおいてデジタルマーケティングの戦略立案から実行支援までを行っている。

株式会社スペースシップでは、

  • デジタルマーケティング課題・可能性の抽出
  • 課題解決、可能性実現のための施策立案
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などのご支援が可能です。

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