文:大下文輔
デジタルマーケティングの代表的な企業の実例を紹介してきたシナプスCMOセミナーは、5回目にして初のBtoB企業の登場となった。
NECのIMC本部 デジタルマーケティング シニアエキスパートの田中滋子氏による、『営業貢献とブランド向上をめざしたWebサイトに向けて』と題するプレゼンテーションにより、同社のデジタルマーケティングの取り組みが紹介された。当日の内容の一部を再構成してお伝えする。
ナビゲーションは、主催者のシナプス デジタルマーケティングカンパニーダイレクター 村上佳代氏だ。

BtoBにおけるデジタルの位置づけ
NECは、過去にPC製品などの売れ行きが好調だったことからBtoCのイメージが強いが、今では売上の9割程度はBtoBから生まれている。代表的な分野では顔認証、指紋認証等の生体認証、AI、IoT、宇宙開発、海底ケーブルなどがある。
BtoB企業のイメージを周知するため、2015年7月からOrchestrating a brighter worldというブランドステートメントを作り、発信している。このステートメントの意味するところは、世界中の人々が未来に向かって、より明るく豊かに生きていく社会を実現しようということであり、NEC自らがお客さま事業を通じた社会課題の解決に向けて変革を遂げていこうとする意思の表れだ。
その背景には、お客さまの変化として、情報収集がデジタル化し、ステークホルダーが多様化することがあり、NECの営業への期待値が高度化、複雑化しているということがある。
そこで、コーポレートサイトを軸にして、デジタルメディアを活用したコミュニケーションが重要になってくる。
NECグループサイトの果たすべき役割は、お客さまにとっての問題解決のツールとして価値提供し、販促やマーケティングに活用すること、そして、NECの魅力を体感していただける場にしたい、というビジョンに基づいて、ブランディングと営業貢献の2点を使命とするものである。
ブランディングというのは、NECのビジネスに対する理解度の向上や顧客満足度、イメージの向上ということである。
一方、営業貢献は、デジタルマーケティング活動を通じた営業活動支援として、リード獲得、潜在顧客とのコミュニケーションの深耕、営業の効率化などを行っている。
ブランディングと営業貢献は互いに依存関係にあると考えている。
以上を踏まえ、NECのデジタルマーケティング戦略を一言でいえば、「さまざまなステークホルダーとコミュニケーションを取り、「ブランドイメージの向上」を果たしつつ「営業活動につなぐ」ことである。
オウンドメディアと連携したNECのマーケティングプラットフォーム
デジタルマーケティングの推進にあたり、オウンドメディアであるNECの2つのサイトを中心として、CRMの情報基盤につないでいる。(図1)

(※画像クリックで拡大)
NECの2つのサイトとは、NECのコーポレートサイトとwisdomというオウンドメディアのことである。
まず、NECのコーポレートサイトであるが、ここにはシステム部門、IT系、あるいは取引関係のあるお客さまからの流入が多い。これらのお客さまは、NECのことをある程度知っていて、具体的な課題を持ち、そのソリューションを求めている。
そこでインバウンドマーケティングとして、このサイトのコンテンツにソリューション紹介や導入事例、オンライン動画などを豊富に掲載し、それをきっかけとしてCRMの情報基盤につなぎ、商談化することを目指している。
一方で、NECと取引のないお客さまや、経営企画・スタッフ層などNECのこれからのビジネスの裾野を拡げる上で重要な方のために、wisdomという登録会員制のサイト(無料)を2004年12月に立ち上げた。
このサイトでは、ビジネスパーソンにとって役にたつ、コンテンツを中心とし、当初あまりNEC色を出さないようにしていたが、2014年12月、2016年10月のリニューアルを経て、NECに関係する記事も打ち出すようにした。
現在は、業界動向の最新情報(例えば次世代中国情報が人気)や5Gを活用した実証事例レポートなどの共創活動記録などに加え、NECのイベントレポートを掲載し、事前、会期中、事後を継続してコンテンツ化するなどして、CRMの情報基盤につないでいる。
このサイトでは、会員との関係性構築すなわちファン化を目的としている。同時に、NECサイトのようにはっきりした課題として認識されていないお客さまに、その課題を明確化し、ソリューションへとつなげる役割も持っている。
CRMの情報基盤
CRMの情報基盤はMarketing Innovation Platform(MIP)と呼んでいる。MIPはシステム導入状況などのマーケット情報、お客さまとの接点情報を集約したデータベース、営業活動、商談プロセスの管理、それらを分析、活用するためのダッシュボートの機能という、企業、顧客、案件、共有の4つの機能を持つもので構成されている。
この情報基盤の構築にあたっては、2000年ころより、各部署で個別に管理していたお客さま情報の統合を進めていった。全社でお客さま情報を管理する必要性、事業部としてのメリットなどを説明して、名刺のスキャンの代行やメルマガの統合なども進め、最終的には、売上データなどの情報も統合していった。
CRMの情報基盤を使い、アウトバウンド、インバウンドの2つの方向性に対する磨きをかけることで、質のよいリードを集めてより多くを営業に引き渡していくこと、およびウェブサイトからの問い合わせ対応でのクイックレスポンスを上げていくことが期待される。
アウトバウンドアプローチでは、展示会やリアル/オンラインのセミナー、あるいは名刺交換やメールマガジンの登録を通じてCRM情報基盤に情報が格納され、ターゲットを抽出し、営業がメールや電話でフォローする。
インバウンドアプローチではウェブサイトからの問い合わせがあると、それがお問い合わせ管理システムを経由して、回答管理をするとともに、商談化見込みの高い案件に関しては、SFAに登録される。
昨今、難しいのは、どのような案件をどの事業部の誰にアサインするかという振り分けが単純ではなくなってきていることである。デジタルマーケティング活動は、2010年ごろから営業と連携強化を図るようにしてきたが、営業にスムーズに案件の引き渡しをするために有効だったのは、マーケティング部門と営業と一緒になってシナリオを考えていく、ということである。
多様なメディアの活用
営業に引き渡す手前の案件の絞り込み(MQL化)については、NECのICTソリューションのノウハウを蓄積したアウトバウンドのテレコールチームを組織化し、インサイドセールス機能を充実させてフィルタリングやナーチャリングを行っている。このコールでは、セミナーやウェブの資料請求者などのお客さまフォローでニーズをヒアリングし、商談確度のスクリーニングを行うことをはじめとし、キーマンや企業の導入状況を調査したり、長期的にお客さまをフォローすることも行っている。
さらにその前のリード創出について、マーケティングサイドで施策をたてた事例として、ビッグデータのソリューションがある。
それには、NECの事業としてのビッグデータの認知を高め、理解を促進するためにペイドメディアを活用した。日経DMPやITmedia のDMPなどを使い、ビッグデータの活用方法や事例について紹介し、 wisdomに会員登録をしていただいてセミナーへと誘導するといった活動を半年間続けた。
ビッグデータという茫洋(ぼうよう)としたイメージをもたれがちのソリューションについての事業貢献などを通じて、営業からのデジタルマーケティングに対する案件創出への期待は高まっている。
メディア活用の一環として、多様な接点、しかも人が多く集まるような接点を持つべきだとの観点からBtoB企業としては日本で最初にソーシャルメディアガイドラインとポリシーを発行した上で、Facebook、Twitter、YouTubeなどで公式のアカウントやチャネルを持ち、活用している。
ソーシャルメディアは、お客さまとの接点強化から自社メディアへの誘導の他に、NECを身近に感じ、親しみを持ってもらうという目的を持った利用をしている。
CRMの情報基盤を利用したデジタルマーケティングの今後の方向性としては、蓄積したデータとツールを活用して成果を出していくこととしている。
具体的にはウェブサイトのログデータやメールの開封状況を分析してターゲティングにつなげていくことはもちろん、特定企業ドメインへのプッシュ通知など、最新ツールの活用による施策効果を狙う。さらにはターゲティングの最適化でHotリードの拡大につなげるためのMAの効果的な活用など、デジタルマーケティング強化を目指したい。
シナプスCMOセミナーとは? |
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経営とマーケティングのコンサルティングをコア事業とする株式会社シナプスが卓越したマーケティング活動を実行している企業のCMOを招聘し、不定期に行うセミナーで、今回(2018/4/25)が第5回目の開催となった。 シナプスのご協力のもと、MarketingBaseでは、過去に以下のセミナーを取材し、記事化してきた。 第1回(2017/2/27):第1回シナプスCMOセミナー「日本マクドナルドCMO 足立光氏が語るマーケティング論」 |
記事執筆者プロフィール
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株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita) 大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。 |