横溢と不足の同時進行

――2019年のデジタルマーケティング

2019/01/18
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文:大下文輔

AIの問題点が指し示すテクノロジーの性質

「データが増えた」ということが、デジタル化が進行していくことの象徴的な捉え方だ。だが、「データが足りない」ということも一方で起こっている。それが機械学習の分野で露呈した。
日経新聞は、昨年9月、「日経 xTECH」と共同で調査し、日本の大手企業113社のうち6割が必要なデータの不足やデータ形式のふぞろいにより、「動かないAI」が続出する恐れがあると報じた。日経は「日本企業の競争力不足」を懸念するが、そうしたことに限らず、普遍的に起こりうることだろう。
The Vergeは今日のAIが直面する課題の1つとして、まずはデータが必要だ、ということを挙げている。データの活用の可能性が機械学習によって拡がったことにより、必要なデータが適切な形式を有する必要が出てくれば、不足は起こりうる。
可能性が広がることが不足を生むというのは、一見矛盾しているようだが、テクノロジーのあり方としてはむしろ自然なことのように思われる。

昨今よく聞かれるのは「コンテンツ不足」である。オウンドメディアを立ち上げたはいいが、そこに必要なオリジナルなコンテンツを作るために苦労するという話を聞く。
広告でも、マスメディアを利用する広告に比べて、オンライン向け広告ではバリエーションが格段に増える場合も多く、制作費用とのせめぎ合いの中での工夫が求められている。

AR、VRなどのxRについても同じようなことが言えるだろうし、労働市場においてもテクノロジーの進展により必要とされる人材は常に不足した状態が続く。医療分野でもデータ不足は叫ばれ続けている。

データは取得と保持ができれば際限なく増え続ける

言うまでもなく、データそれ自体は増え続けている。これでいい、という限界を持たないというのがデータというものの性質だろう。

データの粒度が小さくなるに従って単位あたりのデータ量は増える。
テレビの解像度は4Kから8Kに移行するし、音楽データも人間の可聴域を超えたいわゆるハイレゾ(Hi-Resolution)データを扱う音響機器が増えてきている。
10年前なら、プロフェッショナル用機器でしか用意されていなかった画素数4000万のカメラが今はスマートフォンで実現されている。これらのデータの増加はその蓄積先が端末からクラウドストレージへのシフトによって実現している。

GPSの発達によって、位置データの取得が盛んになった。日本語で昨年からサービス開始になったwhat3wordsは、地球上を3メーター四方の四角形に分割して3つの単語の組み合わせで指定できるようになっている。2次元での位置情報の特定をすることによって、例えばタクシーやUberの配車サービスを利用する際の位置特定が容易になる。
2次元でできることは、3次元でも行われるようになるだろうと容易に想像できる。ドローンを利用したサービスなどの導入などで利用されるようになるだろうし、個人の行動データもいずれこうした立体の位置を特定して取得する方向に進む可能性がある。

データの取得ポイント、頻度の増加、モダリティの付加(テクスト、画像、音声、生態情報)によってもデータは増えていく。測定機器の増加もそれに拍車をかける。先述したようにデータの増加は、可能性、利便性の発達につながる。

適合度と不足

データの不足が起こる1つの理由はフィットネス、すなわち適合度の問題が生じるからだろう。機械学習で問題になっているデータ形式のふぞろいや重み付けなどの問題がその典型だし、MAツールに格納するデータで「名寄せ」に苦労するというのもその一例だろう。分散・散逸するデータを、人を軸にまとめようとしても、ハンドルネームと実名、複数のメールアドレスや、旧姓と新姓など、データとして同一人物のものであることを識別させるための苦労は絶えない。

昨年はZOZOスーツが話題になったが、One to Oneマーケティングの流れは進行している。この傾向は、2019年以降も半永久的に続くだろう。

データの粒度が小さくなるのと軌を一にして、サービスの柔軟性、多様性、そして複雑性が増す。One to Oneはセグメンテーションという考え方を不要にしてしまうとも言えるし、究極のセグメンテーションであるとも言える。言うまでもなくOne to Oneは、個別の対応が迫られる。すなわち、「個人に合わせる」、あるいはカスタマイズがどこまでできるかが課題になる。顧客が許容するコストに見合うカスタマイズがどこまでできるか、が問題になる。個人を識別するための方法、個人の嗜好を知るためのアルゴリズム、そしてそれらを「今すぐ、ここで」というニーズにどこまで合わせられるか。そうしたときにさまざまな局面で「データの不足」が起こるだろう。

One to Oneといった個人に合わせる考え方は、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の最大化・最適化・最良化という方向とも矛盾しない。Chatbotは、機械学習を応用したOne to Oneの対応だが、それはまさにカスタマーエクスペリエンスの最良化をめざしたものでもある。「今すぐ」と「個別化」が柔軟に組み合わされた例であり、顧客対応とデータ取得が同時に行い得る手段でもある。そのような形を通じて、適合度の改善がなされ、データ不足を徐々に低減していくことになるだろう。

データ縮約と人間の有限性

データの多さは、あくまで人間がそう感じているからにすぎない。機械にとって、データ保持の物理的限界は時々刻々乗りこえられている。情報処理限界は人間にのみ存在するが、データ量の指数関数的な増加も、最終的には人間に合わせた使われ方ができないと意味がない。
21世紀に入ってから「わかりやすい」という褒め言葉が使われる場面が増えてきたように思うが、これは単に熟考を避けるという安易さだけではなく、より多くの情報処理のために「わかりやすさ」を求めるニーズが増えてきていることの表れでもあるだろう。
手間をかけさせない、認知・理解に時間を要しないことがマーケティングの重要な方向性になってきている。言い換えればデータ・情報の縮約が価値を持つ時代になってきているということだ。ダイジェスト、サマリー、短いビデオ、インフォグラフィックなどがそうだし、BtoBビジネスを考えた場合にはダッシュボード化やら、KPIなどの指標づくりもデータ縮約と言える。
変化に対応できるための準備として、単純化、可視化、サイクルの短縮化、タスクの簡素化などが求められる。これは、「ハッキング・マーケティング」というビジネスイノベーション、クリエイティブなマーケティングを指向するやり方にも合致する。

意思決定主体としての人間

機械学習は、大量のデータを高速で処理して一定の結果を出すが、その判断基準がブラックボックス化してしまいがちだという負の側面を持つ。個人にまつわるデータは、誰がどう処理してどう使うか、というデータ保持と処理の主権をデータソースとなる個人がどこまで握れるか、という問題にも絡む。
2019年はデータの自動取得が一層進むだろうが、個人情報の扱いに対して、不安を与えないようにしながら利便性を高めて行くということが、ブランディングの重要な側面になるだろう。

機械学習が進んだとしても、購買や利用や情報のシェアや受け止め方の決定は人間が握る。意思決定者は機械ではない。つまり判断主体としての人間の価値は一層際だったものになるだろう。
マーケティングは人間の思考、感覚、嗜好(しこう)性などにどれだけ迫れるか、そして協調できるか、協働できるか、ということがこれまで同様、そしてこれからも続く。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

 

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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