文:山野愛美

2019年3月6日、ザ・リッツカールトン東京にて、アドビの事業戦略説明会が開催された。

2018年10月に行われたアドビ本社によるマルケトの買収を受け、2019年3月1日付で、日本国内において、アドビ システムズ 株式会社が株式会社マルケトとの統合を完了したことが報告され、今後のビジネス戦略に関する説明が行われた。

左から、アドビ システムズ 専務執行役員 マルケト事業統括 福田康隆氏、代表取締役社長  日本およびAPAC(アジア太平洋地域)代表のジェームズ・マクリディ氏、専務執行役員 鈴木和典氏
左から、アドビ システムズ 専務執行役員 マルケト事業統括 福田康隆氏、代表取締役社長 日本およびAPAC(アジア太平洋地域)代表のジェームズ・マクリディ氏、専務執行役員 鈴木和典氏

戦略説明会では、まず、アドビ システムズ 代表取締役社長 日本およびAPAC(アジア太平洋地域)代表のジェームズ・マクリディ氏が、アドビの創業から現在までを振り返りつつ、ミッションと戦略について語った。

アドビのミッションと戦略

アドビは1982年創業で、今や世界で最大かつ最も多様なソフトウェア企業のひとつとなりました。
我々は、”Changing the World – Through Digital Experiences”(世界を変えるデジタル体験を)というミッションを掲げています。
メディアや広告との接触、アプリの利用、ウェブサイトの閲覧、ショッピングなどすべての体験において、アドビの技術が関わっています。自社製品を通して、我々は、人々の学び方、働き方、ビジネスのやり方を変化させているのです。

数年前と今日を比較してみますと、私自身は出張が多いため、毎週、飛行機やホテル、レストランなどを選択する機会があります。人は、時間とお金は何か特別なものを感じられる会社に対して使いたいと思うものです。なので、ユニークで、パーソナライズされていて、一貫した体験を届けてくれる会社を選びます。特に重要なのは、どこにいても同質で一貫した体験を提供してくれるということです。特別な顧客だと感じさせてくれ、ユニークな体験を提供する企業だけが、ロイヤルティを構築できるでしょう。

アドビが業界で独自のポジションを獲得できているのは、デザインの制作からデジタルマーケティングの運用まで、優れたエクスペリエンスに必要なソリューションを包括的に提供できているからです。

【図1:アドビの戦略】
【図1:アドビの戦略】
(※画像クリックで拡大)

アドビの戦略の一つは、”Empowering People To Create“(人々に創造性を発揮する力を提供)です。すべてのデバイスを通し、豊かで夢中になれる体験を創造するための最良のツールを提供することで、人々に創造性を発揮する力を与えています。

もう一つは、”Transforming How Businesses Compete”(企業の競争原理を変革)です。顧客データを活かし、すべての消費者が期待する一貫していて魅力的な体験を提供できるよう支援することで、企業の競争力を高めます。

アドビは、Adobe Creative Cloud、Adobe Document Cloud、そしてAdobe Experience Cloudという3つのクラウドソリューションを展開しています。
そして、Adobe SenseiというAIをプラットフォームの中核要素とし、人工知能、機械学習、ディープラーニングを活用して、今日の複雑なエクスペリエンスに関する課題に取り組んでいます。

日本で法人を立ち上げてから26年が経ち、現在、日本には600名以上の社員がいます。売上はAPAC全体とほぼ同等の規模にまで成長しました。お客さま、パートナーのみなさまのご尽力もあり、コミュニティ活動も活発で十分に機能するエコシステムを作り上げることができました。

2番目のセッションとして、デジタルエクスペリエンスのビジネスにおいてセールスを統括しているアドビ システムズ 専務執行役員 鈴木和典氏が Adobe Experience Cloudと国内のデジタルエクスペリエンス市場についてのプレゼンテーションを行った。

マジェント、マルケトの買収により拡大するAdobe Experience Cloud

先に説明のあった3つのクラウドソリューションのうち、Adobe Experience Cloudについてご紹介します。

Adobe Experience Cloudは、以下の4つのソリューション群から成り立っています。
1) Adobe Advertising Cloud
2) Adobe Analytics Cloud
3) Adobe Marketing Cloud
4) Magento Commerce Cloud

Magentoを買収したことにより、Commerce Cloudが追加され、ECサイト上でも統合された顧客体験を提供することが可能になりました。

そしてさらに、Adobe Marketing CloudにはMarketoのソリューションも加わることになりました。
アドビが持つ分析からコンテンツ管理、そしてパーソナライゼーション、広告、そしてMagentoによるコマースといったさまざまなソリューションに加え、Marketoの誇るリード管理、および、アカウントベースドマーケティング(ABM)技術をお客さまにご提供することが可能になったわけです。

ここ5年間のデジタルエクスペリエンスの市場規模は年々拡大しており、我々としては2021年まで毎年2桁成長が続くと見込んでいます。これには、デジタルにおける顧客体験を向上させることが、企業にとって重要な経営課題として認識されているという背景があると考えられます。

ただ、この分野においては、単に製品やサービスを提供するだけではビジネスを拡大することはできないと考えています。
そこで、「アドビ カスタマーソリューションズ」という高度な知識と経験を持った現在180名を超えるプロフェッショナルサービス部隊を自社内に持っており、導入からサポートまで、さまざまな企業のデジタルトランスフォーメーションをその企業とともに伴走し、一緒に実現していくというサポート体制を構築しました。

また、当社の事業を支えているパートナー企業と共に、より多くの日本の企業が、デジタルにおける変革を成し遂げられるように推進していくことを同時に進めています。

3番目のセッションでは、マルケトの日本法人を率い、アドビによる買収後は、アドビ システムズ 専務執行役員 マルケト事業統括となった福田康隆氏より、挨拶と今後のマルケト事業についての説明がなされた。

アドビの一員となったマルケトの今後

正式に3月1日からアドビの福田となりました。今後は、マルケト事業統括として引き続きよろしくお願いします。

まず、これまでの5年間を支えていただいたお客さま、パートナー企業様、メディア関係者のみなさまにはお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございます。

ちょうど5年前、2014年6月に日本法人マルケトがスタートしました。2014年をマーケティングオートメーション元年と謳いまして、これからこのソリューションを日本でどんどん広げていこうと目指していたわけですが、本当にこの5年間、みなさまと一緒にこの市場を育てられたことを非常に強く感じております。

その結果と致しまして、この5年で日本法人の社員は約100名となりました。そして私どものユーザーコミュニティ、ユーザー会の規模は現在2,000名規模となりまして、年の総会に加え、テーマ別の分科会などが形成されていき、意思決定者の方はもちろん、担当者の方々が学びあうコミュニティができ上がっています。

さらに、私どもだけではなくて、パートナー企業様、「ローンチポイント」と呼ばれるグローバルで約500社のパートナー企業様と連携し、企業のデジタルマーケティングの全体を伝えていくといったエコシステムを形成してまいりました。

今回このマルケトはアドビの一員となり、さらに広いデジタルマーケティングもしくはデジタルトランスフォーメーションを提供する会社になることを非常にうれしく思っています。

実際、昨年の秋に買収が発表されてから、お客さまからは非常に高い期待をいただいており、マーケティングオートメーションという領域だけではなく、企業が目指すデジタルトランスフォーメーション、この全体を支えていくのに「アドビとマルケトは最高の組み合わせだ」といううれしいお言葉いただいておりますので、この期待に応えていくべく、アドビの一員として頑張っていきたいと思っています。

これまでマルケト自身は、比較的BtoBが強いと見られておりますが、BtoBはもちろん、BtoCのなかでも不動産、人材業界、金融、自動車、エンタープライズの大手企業、それからSMBと呼ばれる中小企業など幅広いお客さまにサービスを提供してきました。
今後は、Adobe Experience Cloudの1つのソリューションとして、より多くのお客さまにより良いサービスを提供できるよう邁進してまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

マルケトの買収と統合により、アドビの戦略はますます加速していくことが予想される。
一方で、アドビに先駆けてパードットを統合したセールスフォースやエロクアをポートフォリオに持つオラクルとの「頂上決戦」がどのように展開されるのかにも注目が集まるだろう。

 

記事執筆者プロフィール

山野 愛美(Ami Yamano)

コンサルティングファームでIT・業務、経営戦略のプロジェクトを幅広く歴任した後、事業会社でWebサービスのプロデューサー職として事業の立ち上げを担当。その後に独立し、現在はデジタルマーケティング領域などでコンサルティングやライティングの仕事を行っている。